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紅雲  作者: Shane
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4話 不良と呼ばれて

3人は二手に分かれて亡命を試みようとすると裏目に。玲の斬新な技で乗船が可能となるも、王府の玲の実家を捜索した薄が玲の過去を知り、そして真順港へ向かう。

話合いを重ねた結果、3人一緒での行動は全滅する可能性が高い。翔は逃亡の日にちを数日遅らせることになった。



翌日、張の叔父がトラックで港に玲を琳を連れて行ってくれた。港には麦国籍貨物船が停泊していた。


「あれに乗れればいいのね。フフフ」


不気味にほほ笑んだ玲は商店で服を購入した。


玲は肌を露出し、ビンロウ売りに変装した。しばらくするとピンロウを買いに船員がやってきた。



「よー姉ちゃん。いくらー」


「...1本5元です」


「んじゃ5本もらおうかな」


「はい。どうぞ」


「よーし。行くかなー」


「あの、お願いがあるの」


「これ全部あげるから、私と妹を船に乗せてほしいの」


「あー? おいらそんなの怖くてできねぇよ」


玲が船員の腰に手を回して、耳元でささやいた。


「ねーえ。お ね が い。後でいいコトあるかもよ」


さらにフゥ!と耳に息をふきかけた。


「わ、わかった、なんとかする」


船員は走って船に向かい、2人の乗船を船長に交渉してくれることになった。


40分くらいすると船員は戻ってきた。

「おーい、OKだそうだ。明日の13時に出航するから、その前にはここにくるように。30分前までに」


「やったぁ」「ありがとう。信じてたわ」

チュッ!

 玲は男の頬にくちづけした。



薄中尉は王府市郊外の玲の実家に来ていた。玲の民主活動に関する手がかりを探していた。両親に聞くと、極央大の1回生の旧正月を最後に実家には帰ってきていないのだという。実家に電話もしてこない。政治活動をしているなんて全く知らず、玲が指名手配されたのも寝耳に水だという。性格について聞くと子どもの頃は素直だったが、中等専門学校あたりから反抗期になり、親とあまり口を利かなくなったという。


薄は家の中をくまなく探したが、アルバムもいたって普通で、古い日記が見つかった程度だった。


中を見てみると、


7がつ6にち きょうはさんすうのてすとがあって、ひゃくてんをとりました。せんせいからはれいちゃんさすがだね、しょうらいはさほくとうとりゅうこくのためにいっしょうけんめいはたらくんだよといってほめてくれました。とってもうれしかったです。


10がつ27にち きょうはおいもほりをしました。おおきなおいもがたくさんあって、れいは4こもとれました。せんせいはりゅこくはさほくとうのおかげでたべものがたくさんたべれるけど、しほんしゅぎのくにのひとたちは、たべるものもろくになくて、うえじにするひともおおいので、さほくとうにかんしゃしなさいといってました。れいはしゃかいしゅぎのくににうまれてよかったです。


「フッ、くだらん!」


薄は唾を吐いた。


そこへ翔が真順の近くで逮捕されたという知らせが薄に届いた。


「玲の行先を吐かせろ。何が何でもだ。死なない程度に拷問していい。死んだら何もわからないからな」


「はっ! 中尉」




軍は翔を捕まえるやいなや警棒で殴り、公安へ連行した。取り調べでは内側に鋲が付いた手錠をはめた。手錠の両側を押すと鋲が肌に刺さり、手首から血が噴き出した。翔は少しずつ感覚を失っていった。


それでも自白しないと、今度は両足に5キロの足かせをはめ、1階と2階の間の階段の隅に連れていき、鋲付きの手錠を壁の導管につないだ。翔は痛みと疲れで眠れなかった。


翌日は7時間にわたって、冷水を頭皮、前額、顔にゆっくりとしたたらせて、拘束された翔を発狂させるほど苦痛を味わせた。


さらに爪をはがされたところで、翔が耐えきれず自白した。


翔は玲と琳を出港するまでは吐かないつもりで粘っていたが、目にも余る拷問に耐え切れず、ついに吐いた。


その自白の内容は薄の耳にすぐさま入った。


「なんだと、そんな亡命があるのか!!」


「はっ!中尉。麦国の貨物船が辛国を経由するならば、辛国の釜館港で降りて総領事館に亡命申請すれば、可能でございます」


「なんということだ。すぐに真順に向かって阻止せよ!」


この頃、龍国以上の軍事大国で資本主義の麦国と龍国は貿易はされていて、半島戦争で敵国だった辛国とは国交がないのだ。といっても停戦後もう30年以上たっており、数年以内に国交を結ばれると思われていた。しかし国交がない以上、辛国に入国したら、連れ戻すことは不可能であった。


「ちょっと確認してくるから、お前らは先に言ってろ」


「はい!中尉」


薄は玲の日記がなぜか気になり、もう一度玲の実家に向かった。そして再度日記を開いた。前回は小学校時代のだったが、今度は中専の頃のを。


5月7日 先生は建を私に勉強指導係に指名した。クラスで1番だからという理由で。 数学を教えたが信じられないくらいわかっていない。こんな劣等生の勉強につきあっていたら、私は極央大に入学するのは難しいと思った。


6月25日 建と放課後、学校の裏山に行って、漢俳を詠んでもらった。なんてきれいなのだろう。勉強はできないけど、こんなきれいなのを詠めるなんてすごいな。素敵だな。これは勉強よりも楽しいかもしれない。


7月12日 建と裏山にいるのが見つかった。親は中専に呼び出されて泣いてた。私悪いことしてないのに不良だって。私は停学らしい。なんでなの?建は転校? いなくなるって信じられない。あり得ないよ。


7月25日 停学があけて中専に行ったけど、建はもういない。本当につまらない。私が生きている意味はもうないと思う。


8月3日 建が死んだ。飛び降り自殺だって。ウソ。あんないい人が自ら命を落とすわけない。殺されたのよ。殺したのは誰? 私? 先生? 左北党? もう嫌


この日を最後に日記は書かれなくなっていた。



「..........................フッ!」


薄は真順へ急行した。



つづく


◎登場人物

玲 美人女神 21 法学部

翔 裏方 エンジニア 21 工学部

琳 マジメ博士女 21 文学部

薄 戒厳部隊中尉 38 心のないエリート

建 玲の中等専門学校時代同級生 故人

亡命をかけ乗船する玲に薄が追いつこうとするが、果たして。

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