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そしてもう1人、剣術大会から注目されている人物がいた。あの怪我をした令嬢だ。名前をミリーと言い、ダウリー男爵家の娘だそうだ。最近編入してきたらしい。

こんな時期に編入生って珍しいねと皆が言っていた。

何でもダウリー男爵の愛人の娘で市井で暮らしていたが、急に男爵に引き取られたらしいという話だ。

ミリーはそのピンクブロンドのふわふわした髪と、何だか男性の庇護欲をそそるような可愛い容姿で次々と周りの男の子を攻略し、今は高位貴族の令息を落とし始めていた。全てミランダから聞いた噂である。

剣術大会の次の日から、そのミリーの隣に寄り添うクリスハルトの姿があった。


そして今、アリシアはミリーにしっかり腕を取られたクリスハルトとばったり会ってしまったのである。

ミリーは足に包帯を巻いていた。


「大丈夫かい? ミリー」


「クリスハルト様、いつもありがとうございます。

あたしが怪我をしてしまったせいで」


「いいや、剣術大会を運営していた生徒会の責任でもある、いつでも頼ってくれ」


「クリスハルト様って、とっても優しいですよね。

うふふっ」


優しくミリーを気遣うクリスハルトと、それに嬉しそうに答えるミリーの会話が聞こえてきた。すると、そこへ


「その手をどけなさい!」


と声が聞こえた。デボラ達、取り巻きの令嬢である。


「その方は第一王子殿下なのですよ。貴方みたいな平民風情が触れたり近づいたりできる方ではないのですよ。それに気安く男の人に触れてはいけません!」


「そんな… クリスハルト様は怪我をしたあたしを助けて下さって、優しく付き添ってくれてるんです」


「怪我ですって? 本当ですの? 走ってる貴方を見たと言う人がいましたけど。それに貴方は何故あの時、剣技場の倉庫なんかにいらしたの? 怪しいですわ」


「嘘です。そんなでたらめ。クリスハルト様が優しくて、困っているあたしに寄り添っているからって、そんな根も葉もないことを言われるなんて… 」


「何が根も葉もないことよ!貴方いろんな男性に近寄って仲良くされているのを知っていますのよ。貴族としてあるまじき行為ですわ」


「そんな、あたしは皆と仲良くなりたいだけなのに。ずっと平民暮らしだったから、貴族の振る舞いとかわからなくて… だからってそんな言い方ひどいわ!」


「まあ、何ですか。わたくしに向かってその言い方。それ以前に貴族の身分や礼儀も知らないんですか? 」


「身分って何ですか? この学院は平等と聞いてます!」


「平等ってそんな建前を言い訳にするのは止めなさいよ」


「あなた達、何を言い合っているの。やめなさい!」


アリシアは慌てて止めに入った。


わざわざクリスハルト様の目の前で言うことないじゃない。


「クリスハルト様、この人達、怖いです」


ミリーはそう言ってクリスハルトの後ろに隠れた。

ミリーを後ろに庇ったクリスハルトが、


「皆やめてくれ」


と言い合う令嬢達を止めた。


「ミリーが怪我をしたのは生徒会に少なからず責任がある。彼女の怪我が治るまでは責任を持つつもりだ。それで困っている彼女を助けてやってるだけだ。これ以上この事については何も言及するな」


そしてアリシアの方にチラリと視線を向けた。すると、後ろに控えていたアレクサンドラが出てきて


「あなた方、口が過ぎますわよ。その様に非難してはクリスハルト様の責任ある行動を非難しているようにも聞こえますわ。お気をつけ下さいませ。アリシア様」


とアリシアに向かって言ったのである。


まるで私が言わせたみたいになってるじゃない。


「クリスハルト様、生徒会の皆様がお待ちですわ、そろそろミリー様は他の方に任せて、わたくしと生徒会室に参りましょう」


「いや、今はこのミリーに付き添っていたいんだ。

アレクサンドラ、生徒会の皆にそう伝えといてくれ」


クリスハルトとミリーはそのまま寄り添って二人で行ってしまった。アレクサンドラはそれをじっと眺めてから

足早に立ち去った。アリシアはため息をついた。


アリシアも直接クリスハルトにどういうことか聞きたかった。だが言いたいことをデボラ達に先を越された感がある。それにクリスハルトがあの様に返事したからには何も言えなかった。


それから、学院では同じような言い合いが起こっていた。クリスハルトとミリーが歩いていると、そこにデボラを始め取り巻きの令嬢がわらわら現れて、ミリーと言い合いを始める。そして後ろに控えていたアレクサンドラがこう言って止めるのである。


「あなた方、皆様に迷惑ですよ。アリシア様、この方々はあなたの取り巻きでしょう。あなたが何とかしなくては。クリスハルト様、こんな方達は放っておいて生徒会に行きましょう」


とあたかもアリシアに責任があると言う風に言ってくる。


アリシアだってその場で諌めたり、止めたりしているが、

クリスハルトとミリーが去った後で


「婚約者のアリシア様を差し置いて、第一王子殿下の側にいるのはどうかと思いますわ。それを批判しているだけです。アリシア様のためを思ってミリー様に注意しているのです」


とのたまう。


なのにいつも一緒にいる薔薇姫のことは何も言わないのね。生徒会メンバーだから仕方がないのか知らないけど。


でも一番気になるのはクリスハルトだ。ミリーを後ろに庇いながら、


「そんな風に言ったらミリーが萎縮してしまうだろう?

ミリーは怪我をしているんだ。私は少しでも早くミリーの怪我が治る様に助けたいんだ」


とミリーを庇い、


「アレクサンドラもいつもありがとう。こんな状況だが、君がいてくれるから生徒会も任せられる」


アレクサンドラにもフォローを忘れず、


「君たちも言い合いを止めて落ち着いたらどうだ?」


とみんなを宥めている。端から見ていたら女の子に囲まれて困っている、という風に見える。


クリスハルト様ってこんな人だったかしら?


それからどんどん令嬢達はエスカレートしていった。アリシアも必死で止めているが、確かにミリーにも思うことはある。


ミリーに足を引っ掻けて転ばせようとする。


「本当に怪我をしているか、確認しようとしただけです」


ミリーは怪我をしている割に華麗に避けている。


ミリーの私物が無くなる。


「他の人が私物を失くしていて、同じものをミリーが持っていましたので、ミリーに聞いてみると借りただけとシラを切るので、それを返してもらっただけです」


失くした人達とミリーは、取った取られたと言い争いをしていた。


それが全部、アリシアのせいだと噂になっている。アリシアが取り巻きを使って悪事を働いていると。


学院の生徒達は半分信じて、半分アリシアって誰? って感じだ。


あーあ、このままでは悪役令嬢になっちゃう。それなら、人にやらせるんじゃなくて、自分で悪事を働くわ。


こんなことになってアリシアはほとほと困っていた。







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