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オリバーは決勝戦まで勝ち進んだ。対戦相手は騎士科の最上級生、ボビーという訓練生で近衛師団長の息子だ。新入生の騎士団長の息子との決勝戦ということで、すごい盛り上がりを見せていた。

アリシアはあの出来事から気を取り直して、いつもの仲間達と観客席に座り、試合を待っていた。


「試合、始め!」


審判の開始の合図と共にオリバーは剣を振り上げ、ボビーに突進し、剣を振り下ろした。ボビーはそれを剣で受け止め押し返す。オリバーはすごい速さで攻撃を繰り出していく。その度に豊かな赤い髪がなびく。


「きゃーっ!オリバー様、かっこいい!さすが騎士団長のご子息ですわ!」


令嬢達の黄色い声が響く。


「ふん。スピードだけでは勝てないぞ」


ボビーはそう言って、オリバーの攻撃を強く押し返すと、今度は攻撃に転じた。剣の技が得意らしい。次々に技を繰り出して来た。オリバーが何とか避けて体勢を保っていた。剣がぶつかり合う音が辺りに響く。お互い相手の身体に剣を突きたてようとするが、なかなか隙ができない。


「オリバー様、負けないで、頑張って下さい!」


その時、ボビーに僅かな隙ができた。オリバーはそれを逃さず剣を打ち付けた。


「甘い!」


が、ボビーがそれを軽く避けて、剣を叩き付けた。


危ない!オリバーが切られる!


練習用の剣だが咄嗟にそう思った。だか、オリバーはそれを素早い動きで剣で薙ぎ払うと、そのまま斜めに剣を振り落とした。


「勝負あり! 勝者、オリバー・ジェイロン!」


「オリバーが勝ちましたわ!」「やったぞ!オリバー!」「すごい試合だったな」


エマや仲間達が歓声をあげた。


ボビーががっくりと膝を突いた。オリバーがこちらに向けてガッツポーズをしていた。アリシアは小さく手を振って応えた。


オリバーがこんなに強いなんて知らなかった。かっこ良くなっててびっくりしたわ。


そして優勝授与である。オリバーは騎士科の先生からトロフィーを授かった。それを上に掲げて観客の声援に応えている。皆オリバーが誰にリボンを渡すのか、固唾を飲んで見守っていた。だが、オリバーは誰にも渡さずそのまま退出してしまったのだ。


え? リボンは誰にもお渡しにならないの?


観客席にいる令嬢達がざわざわしている。


アリシア達はオリバーに会いに行ってみた。

アリシア達が控え室に行ってみるとオリバーが、騎士科の人達にもみくちゃにされていた。


「やったな。オリバー。あの偉そうな、近衛師団長の息子をやっつけたぞ!ああ見えてあいつは強いからな。さすが疾風の赤髪だ」


「先輩達やめてください。そんな、あだ名いりませんって。うわっ、髪の毛がぐちゃぐちゃになる」


「おや、ご令嬢方いらっしゃい。オリバー、いつものご令嬢方が来てくれているぞ」


オリバーの髪をわしゃわしゃしていた先輩の訓練生がこちらに気が付いてオリバーに言ってくれた。

オリバーは髪や服を整えながらこちらに来た。


「あ、アリシア。来てくれたのか。観てたか? 試合」


「優勝おめでとうオリバー。すごい緊迫した試合で、観ててどきどきしたわ。オリバーってすごく強いのね」


「ああ、ありがとう。アリシアに褒められるなんてな。それでどうだ、俺は殿下に勝てそうか!?」


「さあ、私にはわからないわ。…でも、クリスハルト様は忙しいから、手合わせできるかどうか… 」


オリバーと話していると、廊下から


「ちょっと、放してください!」


そこに誰か、令嬢の声が聞こえてきた。


「デボラ・ヨーク嬢、待ってくれ!」


「ボビー様、あなたに用はありませんわ。昨年は卒業した方に決勝戦で負けて、今年こそ優勝すると言われましたけど、駄目でしたわね。でも、わたくしには関係ないことですわ。これからは声も掛けないで下さい」


なかなか辛辣なことを言う令嬢の顔を見ると、今はアリシアの取り巻きになった令嬢の1人だった。オリバーを紹介して欲しいとしつこかったが、


「オリバーは駄目よ」


と断っていた。その令嬢デボラがオリバーを見つけると駆け寄ってきた。


「オリバー様!優勝おめでとうございます!とても素晴らしい試合でしたわ」


「お褒め頂きありがとうございます。え? リボンですか? 誰に渡すのかって? いいえ、誰にも渡さず、記念に取っておこうと… はい? 婚約者はまだいませんが… 今はまだ、訓練に集中したいので。はい… お名前がデボラ・ヨーク嬢とおっしゃるのですか? ええと… アリシア!助けてくれ」


オリバーはデボラのあからさまな質問にしどろもどろ答えていたが、アリシアに助けを求めた。


試合の勇姿はどこ行った。しょうがないわね。


「デボラ様、オリバーはリボンは誰にも渡さないと申しております。いらぬ懸想は剣術の邪魔だそうで」


「何であなたがそんなことをおっしゃるの? おかしいですわ。アリシア様、あなたオリバー様の何なんですか? 」


「オリバーとは幼少の時からの家族ぐるみの付き合いでして。とりあえずリボンは当分しまっておいて、渡したい相手ができたら渡すそうですわ。ですから今日のところはお引き取り下さい。騎士科の皆様でお祝いされるそうなので」


「わかったわ。今日のところは帰るわ。でもオリバー様、今度ランチでもご一緒しませんこと? 必ずお誘い下さいね」


デボラはしつこく食い下がっていたが、なんとか部屋を出ていってもらった。


ほっとしたのも束の間、今度はボビーが入ってきた。


「オリバー!お前、最初わざと荒い攻撃をしていたな。スピードだけだと思っていたのに。くそっ!騙したな。卑怯だぞ」


ボビーが難癖を付けてきた。先輩の訓練生が


「まあまあ、先輩もとてもいい試合でしたよ。本当にちょっとの差でした。先輩はもともと強いのですから、そんなことを言わずに、堂々としていてください」


とか宥めて連れ出してくれた。最後にボビーが


「女にモテるからっていい気になるなよ!」


と言い残して。先程のデボラのことで相当恨みを買っているようだ。


それからが大変だった。皆、オリバーにリボンを誰に渡すか問い詰めるし、令嬢達もお近づきになりに来るしで困っているらしい。アリシアにも


「オリバー様は誰にリボンをお渡しになるんですか? それとも、決まった方がいなければ、紹介して下さい」


と、取り巻きの令嬢などから言われたりした。


「オリバーは駄目よ!」


アリシアはそう言って、オリバーに近づく全ての令嬢を追い払った。


オリバー、この貸しはいつか、返してもらうからね!


アリシアは心に誓っていた。




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