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重大なミスに気が付きました。
1話で騎士団長の息子、ボビーとしてましたが、
近衛師団長の息子、ボビーと変更させて頂きます。
近衛師団長の息子→ボビー
騎士団長の息子→オリバー
です。混乱された方、申し訳ございません。
それから、カールを公爵家の息子から学院長の息子に変更致しました。
名前を間違えていた所なども訂正致しました。
剣術大会の日がやって来た。アリシア達は剣技場に応援に来ている。取り巻きの令嬢達はもういない。エマが追っ払ってくれたのだ。実は裏庭の所にも令嬢が度々突撃していたのだが、エマが
「あなた達、練習の邪魔です。騎士科の令息が目当てで来ているみたいですがはっきり言って迷惑です。そんな人はここに来る事を今後一切やめて頂きます」
と辛辣に言って追い返した。令嬢達は何故だか顔を赤らめて帰っていった。
「ごめんなさい、エマ。迷惑をかけてしまって」
「いえ、いいんですよ。実は前々からここに来て邪魔をする令嬢がいたのですが、アリシア様が取り仕切ってからはその数はだいぶ減っていましたから。でもこれで訓練生目当ての令嬢は来ないでしょう」
と言ってくれた。
取り巻きの令嬢達はそれ以外でも
「アリシア様、お茶会を開かれるご予定がありますか? 宜しければ出席したいのですが。え? ない? それでしたらご招待させて頂きたいのですが。え? それもいい? そうですか。それは失礼致しました」
と、やたらめったらお茶会を開きたがっているので、開くのも招待されるのも断っていたら、皆離れて行った。
良かった。これで静かになる。メアリーやミランダ達とも
教室で一緒にいられるわ。
ほっとしながら、試合を観戦した。試合形式はトーナメント戦だ。今はエマが戦っている。相手は宰相の息子、アーデンで4年生だ。貴族の令息は剣の修練を行っている。高位貴族なら専用の指導師がいたりして、訓練生でなくても強いのだ。ミランダが声を出して応援していた。
「エマ、頑張って下さい!! 負けないでエマ!! 」
エマはもっと強かった。騎士科の試験を突破しただけはある。カーン、と剣が重なり合う音と共に剣が弾き飛んだ。エマが宰相の息子の首元に剣を突き付けている。
「やりましたわ!エマが勝ちましたわ!」
ミランダは歓声をあげた。私達も一緒になって喜んだ。ミランダはエマの所に行ってくると言って行ってしまった。
次はメアリーと仲がいい訓練生、ジルの試合だ。なので一緒に残って試合を応援した。
ジルと試合相手は力が均衡しているのか、なかなか勝負がつかなかった。緊迫した剣の打ち合いが続きはらはらして観ていると、ジルが地面につまづきよろけそうになった。そこに相手が切り込んでくる。ピンチだ。ジルは何とか防いだが体勢が整わず防戦一方だ。メアリーの応援の声が大きくなった。
「ジル様、頑張って下さい!ここは踏ん張りどころですわ、ジル様の勝利を信じてここで祈ってますわ!」
メアリーの声援が聞こえたのか、ジルは巻き返して相手に切り込んでいき、そのまま勝利した。
「ジル様が勝利しましたわ。信じてましたけど、とてもはらはら致しました。嬉しいですわ」
メアリーはとても喜んでいた。
愛の力ってすごいのね。
ジルはメアリーに手を振っていた。メアリーもはにかみながら手を振り返していた。なんだか熱いわね。
「そういえばミランダ遅いわ。様子を見てくる」
と言ったら、メアリーも一緒に行くと言った。大方ジルの所に行くのだろう。二人で観客席から出て選手控え室の廊下を歩いていると、
「いい加減にしなさいよ!! 」
ミランダの声が聞こえた。慌てて声のした方に行くと学院長の息子のカールがいて、立ち塞がりアリシア達を通せんぼした。
「邪魔ですわ。通して下さい」
「ご令嬢方。こんな所に何の用ですか。悪いけどここは通れません。お戻り下さい」
ここは、嘘をついて切り抜ける。
「あ、ジェイロン騎士団長!」
「え? 騎士団長? やばっ 」
カールは学院長の息子だから先生達ですら頭があがらない。でも、騎士団は別なのでオリバーのお父上の名前を借りる事にした。ごめんなさい。
カールがキョロキョロしている隙に通り抜けた。
「あっ!待て!その部屋に入るな!」
声を無視して進み、角を曲がって声がした部屋に入る。ここは倉庫のようだ。部屋の中で先程の宰相の息子、アーデンがエマに突っかかっていた。
「貴様、女の癖に俺に恥を掻かせやがって!! 」
「止めなさいよ!! 」
アーデンがエマに難癖を付けていた。二人の間をミランダが止めに入っている。エマはミランダに
「大丈夫ですから」
と諌めている。エマの身分は低く上位貴族には反論できないのだ。
「何事ですか? 」
アリシアは二人に声を掛けた。
「誰だ貴様、邪魔するな!カールはどうした」
アーデンがアリシアに向かって吐き捨てた。
「さっきの試合、俺に粗悪品の剣を取る様に仕向けたな。無効だと言って取り消せ!だいたい女なら俺に最初から花を持たせるもんだろ!! 」
何を言ってるんだろうか? 剣は審判から渡される。練習用と同じ剣だが、試合用に新品だ。エマが何か細工したとでも言うのだろうか? それにわざと負けろと言っている。
「言いがかりも大概にしてください」
ミランダが叫んだ。女性に負けたなんて高位貴族の令息としては恥になるのだろう。
「お前、宰相の息子の俺に逆らうと、どうなるかわかってるな? 学院を追い出すこともできるんだぞ」
「わかりました。試合は無効と言ってきます。でも反則したと言うことはできません」
エマはそう答えて行こうとする。ミランダとアリシアは慌ててエマを止めようとした。アリシアはアーデンに向かって言った。
「アーデン様、ご自分が何を言ってるのか、わかっているのですか? 」
「は? 誰に向かって口を利いている!!」
「この剣術大会はこの王立の学院で開催されるもの、それも第一王子殿下のクリスハルト様が会長の生徒会の運営ですよ。それをわかっていて、反則だの、わざと負けろだのと
おっしゃっているのですか? 」
「俺に向かってなんだ、その言い方は。お前誰だ? ただじゃすまないぞ 」
そう言ってアーデンはアリシアに掴みかかってきた。
「止めて!放して!この方は第一王子殿下の婚約者、アリシア様ですよ!」
エマとミランダが必死に、アーデンの腕を押さえた。
「え? こいつが…? 」
アーデンは急にアリシアを放した為、彼女は後ろによろけてぶつかった。そこは棚で練習用の剣が立て掛けてあり、
ぶつかった勢いで、ガラガラと剣が落ちてきた。
「危ない!! 」
アリシアは誰かに上から抱き抱えられた。その人の背中に剣がバラバラと落ちてくる。音が止み、埃が舞う中その人の顔を見てみると、
「クリスハルト様!! 」
「怪我はないか!?アリシア」
クリスハルトは息を切らしながら聞いてきた。髪が乱れて、顔に汗をかいている。慌てて走って来たのがわかる。
メアリーが生徒会メンバーを呼びに行ってくれたらしい。エマが試合相手の令息に絡まれていると。
「ええ。クリスハルト様が庇ってくれたので大丈夫です。クリスハルト様こそ大丈夫ですか? 」
「俺の心配は無用だ。それよりアリシア、こんな所に何しに来たんだ。何で観客席で大人しくしていないんだ」
クリスハルトは怒っていた。語気が荒くなっている。
「え? エマがアーデン様に絡まれていて、それで… 」
「言い訳はいい!無事だったから良かったものの… 」
その時
「痛い!ぶつかって転んでしまいました」
という声がした。見れば一人の女生徒がうずくまっている
「さっきの騒ぎでその女の人がぶつかってきて、こけてしまいました」
そう言ってアリシアを指差すその女生徒は、ピンクブロンドのふわふわした髪と、何だか小動物のような、守ってあげたくなるような可愛らしい容姿の女の子だ。痛そうに足首を擦っている。よろけたアリシアにぶつかって転んだのだろうか。
「君、大丈夫か? 足を挫いたのか? 」
クリスハルトはその女生徒の側に行って聞いた。
そして、ハンカチを取り出し、そばにあった水桶で濡らすと彼女の足首に当てた。
「足首が痛くて立ち上がれません。手を貸して頂けませんか」
「わかった。私が医務室まで運ぼう」
と言って、彼女を横抱きにした。
「アリシア、君は早く観客席に戻るんだ。アーデン、カール、君達には後から処分の連絡をさせてもらう」
と言って、その女生徒を運んでいってしまった。
ざわざわざわ。見れば、周りに人が集まってきていた。アーデンとカールは、後から来た側近に連れられて行くところだ。アリシアのことを睨んでいる。アリシア達は呆然としていた。皆、口々に
「クリスハルト第一王子殿下が怪我をした女生徒をお姫様抱っこして、運ばれたわ。さすが王子様だわ」
などと言ってるのが聞こえてきた。アリシアは人知れず、ショックを受けていた。クリスハルトが女生徒の足首に当てたのはアリシアが誕生日にあげた、刺繍のハンカチだ。咄嗟の事だが、少し悲しかった。