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この学院には何回か行事がある。その中で騎士科が一番盛り上がるのが剣術大会だ。もうすぐ行われるのでオリバー達はお昼休みもひたすら練習をしていた。アリシアは相手にもされない。一心不乱に剣を振っている。それはそうだ。剣術大会と言えば訓練生の腕の見せ所だ。みんな張り切っている。アリシアの手作りのお弁当も今は封印だ。
お腹壊したら大変だものね。
「今年も第一王子殿下は出場なさらないのですか? 」
ミランダがアリシアに聞いた。
クリスハルトは剣術大会には出場しない。生徒会は裏方に回るからだ。
「ええ。その様ね」
「とてもお強いんでしょう? 優勝候補だと言われていたのに、残念ですわ」
クリスハルトは王族で、小さい時から専門の剣の師範に訓練を受けてきた。入学前から騎士科の訓練生が全員敵わなかったと聞いている。
「アリシア様、リボンが貰えなくて残念ですわね」
優勝したらトロフィーを貰えるのだか、そこに赤いリボンが結ばれている。それを婚約者や好きな女の子に渡すのだ。
剣技場で優勝した人が観客席迄行ってその女の子の名前を呼ぶ。その女の子は前まで出てきて、たくさんの観客が見守る中その赤いリボンをもらうという、何ともロマンチックなというか恥ずかしいイベントがある。アリシアもクリスハルトからリボンをもらうという妄想をしたりしているが、今年も叶うことはない。
「一度、試合で手合わせしてみたかったな。訓練生の中にはこれで勝ち残れる可能性が上がったって言う奴もいるけど」
オリバーが横に来て座った。妄想がどこかに飛んでいった。
「休憩? 」
アリシアはレモン水をコップに注いで渡した。
「ありがとう。あーこのレモン水、運動の時には最高だ」
「メアリー特製なの。どう? オリバーは上を狙える? 」
オリバーは今年入学だから昨年は出場していない。でも、とても強くて上位を狙えるんじゃないか。もしかしたら、優勝も。
「うん。優勝狙ってるよ!! 」
謙遜と言う言葉を知らないのか。
「ふうん」
適当に返事をして周りを見れば、メアリーはいつもの仲のいい訓練生、ジルにレモン水を渡している。仲のよろしいことで。ミランダはエマにレモン水を渡してハンカチで汗を拭いてあげている。二人仲良すぎない?
「じゃあ、もうひと練習するぞ!」
気合いを入れてオリバーは練習を始めた。
アリシアはクリスハルトとの事を考えていた。あれから何度かクリスハルトとアレクサンドラが二人でいるのを見かけた。その度に鼓動が響く。アレクサンドラは学院の成績も良く、学年で3位だ。1位はクリスハルトで2位は誰か忘れた。アリシアは10位を行ったり来たりしている。そんな優秀な二人は本当にお似合いで、金髪の麗しい二人組が並んでいると眩しくて目が開けてられないくらいだ。
なのにクリスハルトはアリシアを見かけると知ってか知らずか、いつもの様に声を掛けてきた。
「やあ、アリシア。友達がいっぱいできたんだね」
取り巻きの令嬢を見て、クリスハルトが呑気に言ってくる。
後ろにアレクサンドラがいるので、令嬢達は気まずそうに下を向いている。
「今、帰りかい? 」
「はい。今から王妃教育です」
「そうか。いつも頑張ってくれてありがとう」
クリスハルトは彼女が王妃教育を受けるのは自分の為だと
言っていつもお礼を言ってくる。そんなことないのに、と思っていると、ここでアレクサンドラが
「クリスハルト様、生徒会の皆様がお待ちですわ。急ぎましょう」
といつもクリスハルトを急かすのだ。
「わかってるよ。それじゃあアリシア、また今度」
と、二人で行ってしまうのをアリシアは見送るだけである。
でも、もうすぐクリスハルトの誕生日だ。アリシアは毎年タイを贈っている。それも実は茶色のタイだ。うふふ。もちろん私の髪の色だ。去年はそれと初めて、花をモチーフにした刺繍をしたハンカチを贈った。クリスハルトはとても喜んで、
「ありがとう。大切にするよ」
と言って、大事に持ってくれている。今年はタイにも刺繍して渡すつもりだ。今、せっせと刺繍をしている。喜んでくれるだろうか? 因みにアリシアの誕生日には毎年髪飾りとリボンを贈ってくれた。アリシアはその髪飾りとリボンを日替わりでつけている。クリスハルトも制服にタイを結んでくれている。それがあれば会えなくても絆を感じられた。