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「メアリー様の作ったお弁当のおかず、どれも美味しそうだわ。今日も私のお弁当のおかずと交換してもらえるかしら?」


「アリシア様、褒めすぎだわ。それにいつもこんな豪華なおかずと交換なんて、悪いですし」


「そんな、こちらこそおいしいお弁当のおかずをもらえて嬉しいわ。そうだ、今度お弁当の作り方を教えて頂けません? 」


「お弁当の作り方ですか? 私で良ければ、喜んで。アリシア様はどなたかに作ってあげたい方がいらっしゃるのですね」


「うふふっ」


三人は相変わらずお昼を一緒に過ごしていた。

この時間はアリシアにとって貴重な時間になっていた。


裏庭には近くに騎士科の建物があり、剣の練習をしている訓練生がちらほら見える。剣といっても練習用のけがをしないものだ。そして驚いたことにその訓練生の中にアリシアの幼馴染みのオリバーがいたのである。オリバー・ジェイロンは歳がひとつ下で今年学院に入学していた事を思い出した。アリシアはオリバーに声を掛けた。


「オリバーじゃないの! 久しぶり! 」


「おう、アリシアじゃん。久しぶりだな」


「騎士科に入学したのね。オリバーのお父様が騎士団長ですものね」


オリバー・ジェイロンの父親は騎士団長でとても強い。この国で一番と言われている。オリバーはそんな父を尊敬し、彼も騎士団長を目指して剣の修練や鍛練を積んでいた。


「まあ、アリシア様はオリバー・ジェイロン様とお知り合いなのですか? 」


「かの有名なジェイロン騎士団長様のご子息の」


「ご本人もとても剣術に長けていて、お強いとの噂ですわ。体格も立派で見目もとてもいいと評判で、その通りですわね」


ミランダとメアリーはそう言いながら、目をキラキラさせてこちらを見ていたのでアリシアはびっくりした。


オリバーってそんなに人気があるの? 子供の頃はいたずら好きな目と赤い髪のやんちゃな男の子でいつもアリシアと喧嘩したり、いたずらしたりして兄に怒られてたのに。


それが今では大きな体格で筋肉が引き締まり、人の目を引く美丈夫になっていた。


「オリバー、背が高くなったわね」


「そうだな。昔は一緒位だったもんな」


アリシアはオリバーを見上げて言った。


「ねえ、久しぶりに剣の打ち合いして欲しいのだけど」


「え? 仲間と練習中なんだけど…」


「お願い。オリバー」


アリシアは上目遣いに頼んだ。


「ま、いいか、今お昼休みだしな。付き合いますか。アリシアには昔から逆らえないよな」


なんて言いながらアリシアと剣を交えた。もちろんオリバーはアリシアの剣のレベルに合わせてくれている。


子供の時はよくこうしてオリバーと一緒に剣を嗜んでいた。

ミランダとメアリーも他の騎士科の訓練生に教えてもらい始めて楽しそうだ。


「あー! 久しぶりにオリバーと剣を交えたら、すっきりしたわ」


「どういたしまして。いつでもスッキリしたい時は、相手してやるよ」


オリバーはそう言ってくれた。


「ありがとうオリバー。じゃあ、毎日お願いね」


「げっ! 毎日? 勘弁してくれよ」


「あはは」


それからは毎日、皆でお昼を楽しく過ごしていた。


そんなある日、アレクサンドラの取り巻きの令嬢達が突然絡んできた。


「お昼休みに男性と過ごすのはどうかと思いますわ」


「騎士科の令息にまとわりついてはしたない行為だと思いません? 皆様」


と口々に言ってきたのである。周りの令嬢もそうよ、そうよと同意している。アリシアは反論した。


「女性で訓練生の方も一緒ですし、それに男性と二人きりじゃないので良いじゃないですか? 食堂でも男女のグループをお見かけしますし。それとも、もしかしてわたくし達のことを羨ましいと思ってらっしゃいます? 」


「え? 羨ましい? そうなのよ…って、違いますわ! そんなわけないでしょ! 浅ましいって言ってるの。そこにいる、子爵家の娘メアリー様なんかそうよ。嫁ぎ先のいい殿方を手当たり次第、探してらっしゃるのね」


「メアリー様はアレクサンドラ様のお仲間に入れて欲しいらしく、いつも周りをうろうろされてましたのよ。でも、アレクサンドラ様と一緒のスペースで貧乏くさいお弁当を広げられても困ってしまいますわ。だからお断りしていたのよ。ミランダ様は親戚ですので可哀想に思われて一緒にいらっしゃいますけど、本当は疎ましく思ってらっしゃるんではなくて? そんなみすぼらしい方とは離れてこちらにいらっしゃいません? 」


クスクス笑いながらとんでもないことを言ってくる。


「お断りよ! メアリーのことをそんな風に言うなんて許さないわ! 」


ミランダが叫んだ。メアリーはうつむいて震えている。

アリシアは令嬢達に向かって声を張り上げた。


「あなた達、わたくしのお友達を蔑ろにするのは、止めていただけませんか。そして今すぐメアリー様とミランダ様に謝罪と撤回を要求致しますわ」


アリシアの態度の変化に周りの令嬢はおののいた。いつも目立たず何も反論して来ないのに。


「な、何で、謝罪なんか、こんな娘に」


「メアリー様のお弁当が貧乏くさい? あなた方は何もわかっていらっしゃらない。栄養面はもちろん彩りや食べ易さも追及された、素晴らしいお弁当なのですよ。その上美味しいときてる。そんなお弁当を作ってらっしゃる、メアリー様も素晴らしい人間ですわ。もちろん従姉妹のミランダ様もね。だから、謝罪と撤回を求めますわ」


「‥‥」


「どうしたのかしら、返事がないようね? そちらから言いがかりを付けてきたのだから、お答え願いますわ。それとも、メアリー様のお弁当を食べたくなったとか。駄目よ。全部わたくしが頂きますわ」


「誰がお弁当なんか欲しがるのよ! 」


「そうですか。それでは仕方がないですね。このまま、謝罪なく、済むとお思いですか? わたくしは第一王子殿下クリスハルト様の婚約者です。そのわたくしのお友達が蔑ろにされるのを黙って見過ごす訳には参りません。それ相応の覚悟がお有りですか? あなた方」


「‥‥! 」


令嬢達は思い出した。このアリシアこそが第一王子殿下の婚約者なのだということを。


「で、でもそのメアリー様は王宮の侍女の仕事を狙って

アリシア様にすり寄っているのですよ」


一人の令嬢が震えた声で言ってきた。


「それがどうしたと言うのです。最初は誰しも自分のいろんな思惑で付き合いを始めるんではなくて? そこから信頼を得て本当に友情を育むのは本人次第です。友達が困ってるなら私は力の限り助けるつもりです」


アリシアは言い切った。令嬢達は何も言えずに下を向いていた。その時、薔薇姫ことアレクサンドラの声が聞こえてきた。


「皆様、どうなさったのです? アリシア様、このご令嬢達がどうかされましたか」


彼女が後ろから心配そうに顔を出した。取り巻き達はばつが悪そうにしている。事情を聞いた彼女は


「アリシア様、あなた様のお友達を侮辱したことは、許されることではないとわかっています。こちらのご令嬢達にはわたくしがお話し致しますわ。今回はそれでご容赦下さいませんか」


と、アリシアに言ってきた。


「でもこんなことを言って、気を悪くなさるかもしれませんが、アリシア様達の行動にも問題があるのではないでしょうか。生徒会の中でも少し問題になっておりますの」


「生徒会で?」


「ええ。わたくし先頃、生徒会メンバーに任命されましたの。クリスハルト様から是非にと頼まれて」


え。初耳だ。


「クリスハルト様もアリシア様達の行動を憂慮されておりますわ。軽薄で慎みのない行動だと」


「クリスハルト様が? 」


「ええ、そうです。貴方の軽薄な行動が、クリスハルト様の品位をも下げてしまう、そうお考えにはなられないのですか?」


彼女は美しい顔に憂いを浮かべて言ってきた。目を伏せ勝ちにして長い睫毛が翳りを作る。それがますます彼女の美しさを引き立てた。


「それでわたくしに言われましたの。貴方に忠告して差し上げてと」


「クリスハルト様が言われたのですか? 」


「ええ。だから生徒会を代表して、はしたない行為を止めて頂きたくお願いする次第ですわ」


「そ、そうよ! アレクサンドラ様の言う通りですわ」


取り巻き達も復活して揚々と言ってきた。

だが、アリシアは子供の時の事を思い出していた。この薔薇姫との出会いを。


子供の時の事である。王宮の庭園で、クリスハルトを待っていたら、薔薇姫ことアレクサンドラとその兄がやって来た。


「あなた、そんなに美人でもないのに、クリスハルト様の婚約者なんて、おかしいですわ。わたくしと代わりなさい」


「そうだぞ。お前なんかに未来の王妃は務まらない。リーネル家の娘の方がふさわしい。妹と代われ」


突然そんなことを言いながら、詰めよってきたのである。アリシアは後ろにどんどん追い詰められ、噴水の縁まで来てしまった。ここで薔薇姫はアリシアを押して、後ろの噴水に落とそうとしたのだ。でもアリシアは避けた。いつも、隣のオリバーと庭にできた水溜まりに押し合いっこをしていたのである。二人は慣れたもので、水溜まりにははまることなく、避けたり、押したりしてふざけていた。だが薔薇姫は勢い余ってザブンと噴水に落ちた。アリシアはびっくりした。本当に落ちるなんて。薔薇姫はずぶ濡れになって大声で泣いた。すぐに警護している近衛兵やメイドがやって来て、アレクサンドラを着替えさせる為に連れて行ってしまった。その時


「この、アリシアって子が妹を押して噴水に落とした。ひどい奴だ。断罪しろ」


とアレクサンドラの兄が言ったのである。大人達はアリシアを叱った。一緒にいた公爵の息子が言っているのだ。信憑性もあるし、逆らえないところもある。しかしクリスハルトだけはアリシアを両手で抱きしめながら庇ったのだ。


「アリーがそんなことをするわけがない。僕はアリーを信じるよ」


と。それはうやむやになったが、それから二度とこの兄妹は王宮に来なかった。アリシアはクリスハルトが庇ってくれて嬉しかった。


「アレクサンドラ様、ご忠告痛みいります。でもわたくしは自分の行動が軽薄だなんて全然思っておりません。それに、あなた様がクリスハルト様に何を言って、何を言われたかは存じませんが、わたくしはクリスハルト様から直接言われたことしか、信じませんわ」


「…! 」


アレクサンドラは何も言わずにその場を去っていった。取り巻きがその後に続いた。



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