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そんなこんなでアリシアとクリスハルトは13歳になり、二人は王立ブランディア学院に入学した。王立ブランディア学院とは貴族の子女が13歳から17歳迄在籍する王立の学校である。そこで共に学び、人脈を作ったり広げたりして成長していく。
そして二人はクラスが別々になってしまった。成績順なのかな? とがっかりするアリシアに更にがっかりする事が。クリスハルトが生徒会長になりほとんど会えなくなってしまったのである。ランチに誘っても生徒会メンバーと食べるからと断られ、廊下で会っても生徒会メンバー達と連れ立っている。
なんなの。生徒会メンバー。側近候補だからってみんな仲良すぎない?
そしてお昼休みにアリシアは同じクラスの令嬢に声をかけたが全滅だった。
「まぁ、侯爵家のアリシア・オブライエン様? 今迄にお会いしたことございましたか? 覚えていない? 申し訳ございませんがご一緒できませんわ。わたくし達、アレクサンドラ様とお昼をご一緒させて頂いてますので。ああ、アレクサンドラ様は薔薇姫と呼ばれていて、とても美しい方ですの。クリスハルト第一王子殿下の婚約者筆頭候補でもいらっしゃって、え? 婚約者は別の方? そうでしたかしら? ずっと、どなたが婚約者なのか発表がありませんでしたので……世間ではてっきりアレクサンドラ様が婚約者になられるという認識でしたので」
何やらアレクサンドラの取り巻きの令嬢が断わってきた。
ずっと王宮と家との往復で休みは家族と過ごしていたから、一度も貴族のお茶会に出席したことがないので、アリシアがクリスハルトの婚約者だということも認知されていないようだ。するとそこに
「教室で何を揉めていらっしゃるの? 」
と、アレクサンドラ本人が現れた。
「まあ、アリシア・オブライエン様。ごきげんよう」
優雅なカーテシーと共に挨拶した彼女は、薔薇姫の名のごとくそれこそ花が咲き誇る様な美しさだ。クリスハルトと同じ金髪碧眼で、整った顔立ちもどことなく似ていた。立ち居振る舞いも優雅で見る者の目を奪ってしまう。
「彼女達と何かありましたか? 」
「お昼に誘って頂こうと思ったのですが…」
「まあ、お申し出嬉しいですわ。アリシア様とは同じクラスになり、お友達になりたかったのですのよ。食堂には、我がリーネル家のスペースがございますの。ご案内致しますわ」
「そんな、じゃあ、誰かがはみ出るわ。あなた、遠慮しなさいよ」
「いやよ。あなたこそ違うスペースで食べて下さい」
急に令嬢達が言い争いを始めた。聞けばそのスペースの人数は決まっていて、ひとり増えたら誰かを追い出す形になってしまうらしい。
「さようですか。それならわたくし遠慮しておきます」
アリシアは即答した。そんな人数制限があるなんて知らなかった。
「まあ、せっかくお声を掛けて頂いたのに残念ですわ。
次にまた、お声を掛けて下さいね」
そう言うとアレクサンドラは令嬢達をぞろぞろ引き連れて
出ていった。他の生徒達もそれに合わせてそそくさと教室を出て行く。ぼっちになったアリシアに
「よろしければ、私達と一緒に食べませんか? 」
と声を掛けてくれた令嬢がいた。
「え? よろしいんですの? ご一緒させて頂けるの
かしら、嬉しいわ」
アリシアは嬉しさのあまり、満面の笑顔で勢いよく振り向いた。
「私はミランダ・ベルと申します」
「メアリー・クラムと申します。ミランダとは従姉妹
ですわ」
伯爵家の娘ミランダと子爵家の娘メアリーが声を掛けてくれてアリシアは一人ぼっちの危機を救われた。その日からは3人で食べる様になった。2人がお弁当なのでアリシアもオブライエン家の料理人に頼んでお弁当を持って来るようになった。お昼は裏庭のベンチで食べている。
「まあ、メアリー様のお弁当はご自分の手作りですの?
とても美味しそうですわ」
「えぇ。実は私の実家は裕福ではないのでこうやって節約しているのです。料理は得意ですし」
メアリーの家は裕福ではないらしい。弟と妹がいて、一応それぞれ学費は出せるけど贅沢はできないそうだ。
「メアリーはとても器用で家事全般何でもこなしますわ。
弟と妹の面倒もきちんと見てますし」
ミランダがメアリーを褒めた。
「卒業したらどこかの侍女になって自立する予定ですの」
「メアリー様はとても偉いのですね」
アリシアはメアリーを尊敬の目で見た
「そんなことないですわ! 」
メアリーはあわてて返事をした。
「アリシア様の方が大変でいらっしゃるのでしょう?
あの、失礼なことをお聞きしますが、その…アリシア様は
第一王子殿下の婚約者でいらっしゃるのですか? 」
「え? ええ、一応そうですわ」
「そうですよね。何だかいつもアレクサンドラ・リーネル様が婚約者然とされているので、つい…失礼なことを聞いてしまいましたわ」
一応貴族達には通達されているらしい。良かった。それなのにあの、取り巻き達はなんなのかしら。失礼しちゃうわ。
でもその内、知れ渡るだろうと、そのままにしておいた。
それから、アリシア達はお弁当を交換したり、料理について話が盛り上がったりして楽しく過ごした。教室でも三人一緒にいて、とても仲の良い友達になった。
そうして季節は巡り、アリシア達はひとつ学年が上がった。