18
断罪のシーンがこれを入れて後4話続きます。
「私がいない時に何をやってるんだ。ここは王立ブランディア学院の講堂だぞ。場合によっては処罰もあり得ることを承知の上か」
その時クリスハルトが到着して叫んだ。
「殿下、お待ちしておりました。事はかなり進んでいます」
側近がすぐさま出迎えた。早馬で知らせたらしい。
「うむ、遅くなってすまない」
クリスハルトは側近から事情を聞いている。
クリスハルト第一王子殿下、何だか顔色が悪いわ。急いで来たのかしら、服が若干乱れているし。
周りの生徒達がざわざわし始めた。
「で、殿下?いらしたのですか?」
アーデンはクリスハルトの登場に狼狽え始めた。
「アリシア様、殿下が来てくれて、良かったです。この茶番な断罪劇を終わらせてくれますよ」
ミランダ達は安心したようだが、アリシアは逆に不安になった。
『婚約の事を考えなくてはいけない』
あの時言われた言葉を思い出していた。
もしかして直接婚約破棄を言いに来たの?
あのセリフで逃れようと思っていたけど、それも無理そうだ。
その時、ミリーがクリスハルトに駆け寄ろうとした。
「クリスハルト様、あたし怖かったです!」
ミリーはすぐさま側近に止められた。
「何するのよ、邪魔しないで!」
「クリスハルト様は少し体調が悪いのです。大人しくしてください」
「えぇー。クリスハルト様、大丈夫ですかぁ?」
ミリーはあっけらかんと聞いたが、それに構わずクリスハルトはアーデンに向かって聞いた。
「どういうことだ。アーデン、説明しろ」
「ミリーから相談されていたんです。苛められていると。殿下にも相談されたら、断罪していいと言われたとミリーが言ってましたので」
「そうなんです。あたし苛められてて……」
「何故アーデンが断罪しているんだ?それに断罪じゃなく、警告しろと言ったはずだ」
「はい。それがひどくなる一方でしたので、警告では生ぬるいとミリーが言うものですから、学院が休みになる前に片を付けようと思いまして、アリシア・オブライエン嬢を呼び出した次第でございます。殿下は休んでおられたので、地位的にも公爵で宰相の息子で殿下の親戚の私が断罪しても問題ないと思いまして」
「何でアリシアの名前が出てくるんだ。ミリーから聞いていたのは、アレクサンドラが苛めの首謀者だと」
アレクサンドラがすぐに声をあげた。
「わたくしではありません。それはミリー様が勘違いをしていたのでございます」
「勘違い?どういうことだ?ミリー」
クリスハルトに睨まれたミリーはびくっとなった。
「ええと……」
いつもはあたしには優しいのに、今日のクリスハルト様はとても怖いじゃないの。よっぽど体調が悪いのね。
ミリーが言い淀んでいるとアーデンが代わりに答えた。
「そうです。ミリーにひどい悪事をしたのはアリシア・オブライエン嬢です殿下。しかもアレクサンドラに濡れ衣を着せようとしていました。だから私が代わりに断罪しているのです。これでアリシア・オブライエン嬢は婚約者選定から外れましたな」
「婚約者選定?何だそれは」
アーデンがクリスハルトの問いに答えた。
「ええ。秘密裏に進められたのは、存じてました。でも、母上から聞いていたのです。この2年間でアリシア・オブライエン嬢に落ち度があれば王太子妃になれないと。それで新たな婚約者の選定の条件が生徒会メンバーになることだと」
何でその事をアーデンが知っているんだ。親戚だから
どこからか洩れたのか?
話はクリスハルト達が王立ブランディア学院に入学する頃に戻る。
クリスハルトはこのブランディア学院に入る時に父親でもあるこの国の王から呼び出された。
『良いか、クリスハルトよ。学院ではアリシア嬢と距離をとり、彼女自身の人間関係を構築させるがいい。何か問題が起きても彼女自身の力で解決させよ。わかるか?それは王太子妃になる資質を育てるためだぞ。そうでなければ、彼女を王太子妃にすることはできない』
その取り決めは今日の修了式迄の2年間だ。それでアーデン達は急いで、クリスハルトが学院を休んでいた間に断罪を進めたのである。
「わたくしが生徒会メンバーに選ばれた時は本当に嬉しかったですわ。クリスハルト様に今度こそ婚約者にしてもらえると」
アレクサンドラが薔薇色に頬を染めて、嬉しそうにクリスハルトに言ってきた。
「それで頑張りましたの。クリスハルト様の妃にふさわしいと認められるように」
瞳もキラキラさせている。
「そしてクリスハルト様から選定されたと言われた時は、喜びのあまり宙にも飛ぶ気持ちでしたわ。ようやくわたくしがクリスハルト様の婚約者になれるのですわ」
クリスハルトはため息をついてアレクサンドラに向かって言った
「アレクサンドラ、君を生徒会に入れたのは婚約者選定でも何でもない。ただ仕事ができるからだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「はい?」
「だいたい、君から生徒会にどうしても入りたいと言って来たのだ。君は実際優秀だったよ。それで君を生徒会長に選定したんだ。王族が生徒会に着任しなくてはいけない期間は最低2年だ。だから私は今期で辞める。後を引き継いでもらおうと思っていたのだ」
アレクサンドラは驚きの余り、優雅な雰囲気はなくなり
言葉も詰まり気味だ。
「生徒会を辞めてわたくしに後を引き継いでもらう?選定されたのは生徒会長ってこと?令嬢が生徒会メンバーになるのは王家の婚約者選定だって……」
「それは他の婚約者の決まっていない王家の者の話だ。それも、絶対にそこから選ぶというものでもない。それに第一王子は子供の時に婚約者を決められるから、婚約者選定なんて関係ないぞ。私もアリシアと言う婚約者がいるのに、選定なんかしてたまるか。
それにアレクサンドラ、君には言ったことあるよね。同じ金髪碧眼で妹の王女とも顔立ちが似ているから、家族みたいで結婚相手には見られないと」
アレクサンドラはうなだれていてショックを受けているようだ。
生徒達はざわざわしている。
殿下って鬼畜だわ。薔薇姫少し可哀想……。
ご自分は生徒会を辞めてアレクサンドラに生徒会長を任せるってひどい方ですわ。
「ちょっと、婚約者選定って何?あたしそんなこと聞いてないわ。それにアレクサンドラ様が婚約者になるってどういう事?クリスハルト様の婚約者を断罪したらいいって……」
「ミリー、黙れ。いつまで勘違いをしているのだ」
アーデンに言われてミリーはぐっと堪えて口をつぐんだ。
「でも、それは婚約者がいる時のお話でございましょう?その婚約者がいなくなれば話が違ってきますわ。アリシア様は罪をお認めになられました。これでは王太子妃にはなれません。婚約破棄にして、次の婚約者を選ぶべきです」
アレクサンドラはすぐに復活した。
「何だと?」
今度はクリスハルトが返ってきたアレクサンドラの言葉に
驚いた。
クリスハルト様から言われた事は想定内よ。つまりは婚約者がいなくなればいいわけでしょ。だから2年という取り決めの最後の日の今日中にアリシア様を断罪しようとしているのよ。何を驚いているのかしら。