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アリシアは家に帰って部屋に閉じこもった。クリスハルトと喧嘩してしまった。初めてのことだ。
いろんなことがぐるぐる頭の中を渦巻いている。そして一冊の分厚いノートを取り出した。
<アリシアとクリスハルトの恋のノート>
子供の時からのクリスハルトとのことをしたためたノートだ。ある意味アリシアの黒歴史で他人には絶対に見せられない、秘密の日記帳だ。そのノートをパラパラとめくってみた。
クリスハルトとの出会いから書いてあるわ。
最初、薔薇のアーチから出てきたクリスハルトを見て天使か妖精だと思ったのよね。金髪がキラキラ輝いて、子供の時から素敵だったわ。その時ふわりと笑うクリスハルト様の青い瞳を見て恋に落ちたのよね。一目惚れっていうの?それからすぐ婚約の打診があって家族で王宮に行ったのよ。私はあの男の子が第一王子様だとは知らなくて婚約は嫌だとだだをこねていたの。だって、他の人と婚約なんてしたくなかったから。だから両親も王家に対して無理を言って断わろうとしていたわ。そしたら、あの男の子が目の前にいるんだもの。私は快く返事したわ。
「はい、謹んでお受けします。殿下の隣に立てるように頑張ります」
両親は目を丸くして私を見ていたわ。あんなに嫌がっていたのに第一王子殿下を見た途端にこにこ変わっちゃって。ジュリアは私をちょろ過ぎとか言ってたな。とりあえず、婚約発表は両親の意向で13歳迄引き伸ばされた。私が又、心変わりするかもって。ああ、婚約発表が伸ばされたのは私のせいだったのね。
そして王妃教育が始まって、クリスハルト様も時々一緒に勉強してたけど、私っていつもクリスハルト様のことばかり見つめていたんだっけ。そうそう覚えてる。くるんとした金色に輝く髪は、耳や襟足にかかっていて、触りたいなって思ってた。長い睫毛も金色で、瞬きするたび目や頬に翳をつくって、肌は私なんかより透き通って、鼻筋も通っている。瞳はどこまでも青く、深い…って何これ恥ずかしい!こんなこと書いてあるの?
「アリー、じっと見すぎ」
あはは、クリスハルト様に、笑いながら指摘されたんだっけ。恥ずかしい!そんなことしてたら、ハンナ女史にいつも怒られてた。その内クリスハルト様と一緒にお勉強できなくなっちゃったし。あの時はショックだったなぁ。
それから何々?王妃教育が終わった後、いつもクリスハルト様が一緒にいてくれた。お忙しいのにいつも時間をつくってくれてた。それで私も頑張って王妃教育を終わらせてたんだ。その時、いろんなこと一緒にしたわ。
いつも、お茶とケーキが用意されてて、私は自分の分を
食べた後、いつもクリスハルト様のケーキを狙ってた。
もうこれだから真ん中っ子は!食い意地が張ってるんだから。クリスハルト様は嫌な顔ひとつせずに、いつもにこにこして、はんぶんこしてくれた。嬉しかったな。でも、
「あまり食べすぎると太るよ」
なんて言うから、私はぷんぷん怒って、二日位、口を利かなかった。乙女心を怒らしちゃいけない。それでクリスハルト様は眉を下げて謝りっぱなしでようやく許したんだ。ってクリスハルト様ごめんなさい!何、私のその上からの態度。クリスハルト様によく見放されなかったわね。自分。
それから、花畑でお花をいっぱい摘んでいいって言われた日があって二人でせっせとお花の飾りを作っていた。私が、
「そういえばクリス様って妖精みたいに綺麗」
って言ったのね。あ、その頃クリスハルト様のことをクリス様って呼んでたの。今じゃ考えられないわ。そしたら、クリスハルト様は何だか微妙なお顔をして、
「えーっ男の子なのに妖精で綺麗って‥アリーの方が、お花みたいに綺麗だよ」
って言うのよ。その時は本当言うと嬉しかったけど、何だか照れちゃって、
「私なんか、茶色い髪に茶色い目なのに可愛くなんかない」
って言って、クリスハルト様を困らせちゃったな。
「そんなことない。アリーの髪は栗色につやつやしていて、とても綺麗だよ、瞳もくるりと大きくて可愛いよ」
ってずっと言ってくれた。そんなクリスハルト様に、お花の冠や飾りを全部付けて、金髪の髪にもお花を差して、
「クリス様はお花の妖精なんだから、お部屋に入るまで、絶対取っちゃだめですからね」
って、無茶苦茶な要求をしてたわ。
「えー、王宮のみんなに見られたら恥ずかしいよ。アリー、君が付けたら可愛いのに」
って言って、私に半分つけてくれた。髪にも同じようにお花を差してくれて、
「アリー、一緒だね。可愛いよ」
って言ってくれた。そしてそのまま二人別れて、クリスハルト様あのまま王宮に入っていったんだもの。
今更、本当にごめんなさい!恥ずかしかったですよね。
次の日、ハンナ女史に怒られた。第一王子殿下の威厳を
損なうことをしては駄目だって。当たり前だわ。
えーと、後、恋人ごっこ事件てのがあったわ。二人でお茶のテーブルに座った時に私、クリスハルト様の膝の上に座っちゃったことがあるの。今から思えば怖いもの知らずねあー、穴があったら入りたい~!もちろんクリスハルト様は驚いて、
「アリー、どこに座ってるの?」
ってワタワタしてた。それなのにその上、
「恋人ごっこですわよ。お兄様が婚約者の方とお部屋で
いた時、扉の隙間から見えたの。はい、あーん」
ってフォークに一口大のケーキを載せてクリスハルト様の
口の前に差し出したの。
「え?あーん?って、え?」
ってクリスハルト様本当に焦っちゃって、お顔も真っ赤
だったわ。でも、ちゃんと食べてくれた。ふふ今でも、思い出したら笑っちゃう。そしたらハンナ女史に見つかっちゃって、こってり絞られたわ。淑女としてそんな振る舞いはいけませんて。
あー私ってろくなことしてないな。クリスハルト様が距離を取るのもうなずけるわ。
そういえば、学院に入る時にハンナ女史が言ってたわ。
いつまでも、クリスハルト第一王子殿下とばかりくっついていてはいけませんと。アリシア自身で友達をつくり、問題が起きても、自身の力で解決しなさいと。
そんなこと全然忘れてたけど。
これを読んでアリシアは、
クリスハルト様はいつも私に優しかった。彼の方がもっと大変で努力してるのに、時間をつくって寄り添ってくれていた。なのに私ったら、自分のことばかりでクリスハルト様のことを余り考えたことなかったわ。
アリシアは決心した。クリスハルト様ともう一度やり直したい。彼の隣にずっと居続けたい。そして、学院での青春の1ページ、机をくっつけてひとつの教科書を見たり、消しゴムを落として手が触れあったりして、ドキっとか、そういう風なことしたい!
その為にはする事があるわ。
アリシアはクリスハルトとの距離を縮めるべく、明日からのことを決意した。
断罪のシーンが後6話続きます。
長いですがあしからずお付き合いください。