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二人が来た場所は生徒会室だ。クリスハルトはアリシアを
中に入れるとドアを閉めた。中は二人切りで密室だ。アリシアは婚約者同士でも不味いのでは?と思いつつも何も言えず、ドアの近くに立ったままでいた。クリスハルトは話し始めた。
「君はこの頃、オリバーとかなり親密らしいな。いつもお昼休みは一緒にいるし、手作りのお弁当などを渡してると聞く」
あれは、試食で本当に食べてもらいたいのは、貴方です。
そう思ったが言えなかった。黙っていると、
「何も言わないのか?静観しようと思っていたが、そうもいかないようだ。君は僕の婚約者だ。自覚を持って行動してもらいたい」
婚約者の自覚を持ちなさい。昔からよく言われるその言葉
に責められる。
「クリスハルト様、 貴方こそミリー様をずっとお側において、とても仲がよろしいんじゃないですか?それにアレクサンドラ様ともずっと一緒にいらっしゃいますし。私こそあなたに聞きたいですわ。どういうつもりだと」
アリシアは反撃した。
「あれは、ミリーが怪我をしてその責任をとってだな‥」
「怪我なんかとっくに治っているんじゃないですか?
それから、アレクサンドラ様は何故生徒会メンバーになられたのですか?」
「それはだな‥いろいろ、訳があるんだ‥それに、それと、これとは話が違う。 今はオリバーと君のことを聞いてるんだ」
「オリバーとは何もありませんわ。ただの幼馴染みです。貴方こそアレクサンドラ様とミリー様の二人に囲まれて、ふらふらしているように見えますが」
「ふらふらしているだと?節操のない様な言われ方だな。僕の気も知らないで‥!」
何故私が、二人の間をふらふらしているクリスハルト様の気持ちを考えなくてはいけないのか。
「節操のない方の気持ちはわかりません。あなただって私の気持ちなんて考えてくれてないじゃない」
「オリバーなら君の気持ちを考えてくれると言うのか?」
「ええ。少なくとも、あなたよりは」
「アリシア、君こそ僕のことを見てないよね」
突然そんなことを言われて、アリシアは驚いた。
「昔からそうだ。僕のことを物語かなんかの王子様位に思ってて、僕が思ってることに気づかない。アリシアの心の中には僕がいないんだろう?いつも僕のことは忘れて、楽しそうにしているからな」
何を言っているんだろう。いつもクリスハルト様とミリーや薔薇姫の事を考えて、心が苦しくなるのに
「ミリー様なら貴方のことをひとりの人間として見ているとでもおっしゃるのですか?」
まさか真実の愛を見つけたとでも言うのか。
「ミリー?何故ここでミリーが出てくる。僕は君こそが、ひとりの人間として見ていないといっているんだ。関係ない話をしてごまかすな」
「ごまかしてなんかいません。あなたこそ、ごまかしているのではないのですか。それなら、ミリー様のところに行けばいいでしょう?それとも、アレクサンドラ様とどちらかで迷ってらっしゃるのかしら。この浮気男!」
アリシアは怒りのあまり、とんでもないことを言ってしまった。でも止まらない。こんな喧嘩をしたのは初めてだ
「浮気男だと?君こそひどいことを言うよな。君とオリバーのことはどうなんだ。君はあの劇の時に髪に赤いリボンをしていた。それからはいつも大事そうに持っていた」
リボン?あの時取られたリボンの事?オリバーからもらったと思っているの?まさか、剣術大会の優勝のリボンと勘違いしているの?
「あのリボンは違います。あれは、違う方からもらって‥」
誤解を解こうとしたアリシアが話す前にクリスハルトが続けて言ってきた。
「違う男って誰だ?オリバーの他にも違う男がいるのか?それこそふらふらして浮気じゃないのか。このままだと婚約の事を考えなくてはいけない」
「!!」
婚約のことを考える …婚約解消のこと?アリシアは思考が
一瞬にして止まった。あの噂は本当だったのか。もしかしたら、私のせいにして婚約破棄にするつもりなの?
「そうですか。婚約解消でも、婚約破棄でもしたらいいわ、私は何も悪くないもの。受けて立つわ」
アリシアはつい言ってしまった。でも、このままつらい思いするなら、その方がいいかもしれない。私のせいになるのは嫌だけど。
「なんだと?それが本心か!許さないぞ」
クリスハルトは怒りが増したようだ。いつの間にかクリスハルトがアリシアを閉まっているドアに追い詰めて両手を顔の横について言った。
「許さない。君が他の男と笑っているのも。他の男の前で泣いているのも… 」
クリスハルトの顔が目の前だ。やるせなさそうに青い瞳で見詰めて来る。
近すぎるクリスハルトにアリシアはどぎまぎした、そして心の中に渦巻いている気持ちを言った。
「‥だって、あなたが心の中でずっと思ってる方は、私ではないのですもの」
「え?僕の思い人がアリシアではない?何を言ってるんだ」
「噂で聞いたのです。クリスハルト様の初恋の話を」
「え?初恋って、僕の?」
「あなたの初恋の人は綺麗な黄色い髪の人、つまり金髪の方。それは、アレクサンドラ様のことでしょう?」
「は?」
「だから、アレクサンドラ様は生徒会に入って、ずっとクリスハルト様とずっと一緒にいたのですね」
「え?いや、違うんだ、アリシア」
「そして、今度はミリー様にも惹かれているのね。私は最初から最後までお飾りの婚約者。あなたの心の中には1ミリも入ってないみたい。ずっと、お慕いしてたのに、馬鹿みたい」
「え?何の話をしている。それよりも今、僕のことを慕ってくれてるって …」
アリシアは最後に自分の気持ちを告げた。だって婚約破棄されるのだから…。
アリシアは堪らずドアを開けて、走って部屋を出て行った。
「アリシア!」
クリスハルトの声がしたが、そのまま振り返らず走る。
もう、かまわない。もう、終わりなんだから。