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アリシア達はあの後、皆で後片付けをした。大変だったけど楽しかった。と思いながらメアリー達と控え室で衣装を畳んでいると、デボラが何かそわそわしている。
「わ、悪かったわね。あなた達」
デボラがモゴモゴ謝ってきた。
「メ、メアリー様にも助けられたわ‥。あの時ひどい事を言って、ごめんなさい」
「あの時の事は余り気にしておりませんわ。アリシア様に庇って頂き、友情も深まりました。そういったことの方が心に残っておりますの」
メアリーはそう返した。
「そ、そう‥。ア、アリシア様‥その、ごめんなさい」
「今回はみんなに助けられて、なんとか解決できて本当に良かったと思っています。だから、お詫びや感謝はみんなにしてくださいね。それにとても楽しかったですし、皆と協力して、劇にも参加できて、いい思い出になったわ。皆にはとても感謝しているの。だから今はあなたのことをとやかく言わないわ。でも今後メアリー様やミリー様に対して何かをしたら、今度こそ承知致しませんのでそのつもりでいらしてね」
「わ、わかりましたわ」
デボラは深くうなずいた。
最後に、団長がアリシア達にお礼を言ってきた。
「君たちのおかげで、いい劇ができた。感謝している。また、時々は遊びに来てくれよ」
そう言って別れた。
アリシアはメアリーやミランダ、エマやオリバー、騎士科の訓練生達にお礼を言った。こんなことに巻き込んでしまったと、謝罪もした。皆は、
「いいって。自分達もとても楽しかった。いい経験ができて良かった」
と言ってくれた。
この人達に出会えて良かった。本当に感謝しかない。
これからはこの人達の信頼を大切にしていかなくては。
アリシアは心に刻んだ。
学院祭が終わった。皆、祭りの後の空しさからか、だらけている。あれから、デボラはひとりで大人しくしていた。デボラがいなくなって他の令嬢も勢いがなくなったのか、ミリーに対して何もしなくなっていた。
それから廊下であの団長やキーラに会うこともある。
「やあ君たちリボン組はいつも一緒にいるんだね。なあ、誰か劇団に入らない?」
と勧誘してくる。キーラも
「メアリー様の家事スキルには感心したわ。アリシア様も器用だし、ミランダ様は情報通だし、いてくれたら助かるわ」
と誘ってくる。アリシアは王妃教育で放課後はアウトだし、メアリーは家に帰ってから妹や弟の世話や家事で忙しい。ミランダはエマの鍛練のフォローをしていると言った
え? フォローって何?二人もはや、怪しくない?
「君って第一王子殿下の婚約者だったの?だから殿下は劇を観に来られたんだ。去年は観に来られなかったし、今年も観に来られたのは君達がいた最終日だけだよ」
え?そうなの?
「そうか、恐れ多くて誘えないな。でも、気が変わったらいつでも言ってくれよ」
と言ってくれた。時々は助っ人で手伝うことを約束したら
喜んでくれた。
そして今、学院ではクリスハルトとミリーとアレクサンドラ達三人の事をおもしろおかしく噂している。何か楽しみがないか探していた人達にはうってつけだった。
クリスハルト第一王子殿下はアレクサンドラ嬢とミリー嬢のどちらを選ぶのか?
これが大きな噂になっている。前のアリシアの噂などはいつの間にか消えてしまっていた。大きな声では言えないが賭けをしている人もいるらしい。
1.アレクサンドラ嬢 殿下の又従妹で幼馴染み。美人で品行方正で優秀。通称薔薇姫。現在殿下と同じ生徒会メンバー。
2.ミリー嬢 怪我をしたことから殿下の世話になる。可愛い。小動物系。通称人たらし(男たらし)。現在殿下から付きっきりで世話をされている。
3.二股
「ひどい噂が出回っているもんですわ」
「本当に。アリシア様を差し置いて、皆何を言っているのかしら」
ミランダとメアリーがとても怒っていた。お昼休みに三人は、いつもの裏庭で小さな声で噂の話をしている。それに、こんな噂も耳にしていた。
『クリスハルト第一王子殿下の初恋の話って知ってる?
髪が綺麗で黄色い髪の人だって。殿下と側近が話してたらしいよ』
黄色い?金髪のこと?それとも亜麻色?かつら?誰だろうと皆が考えた。
『それたぶん、アレクサンドラ嬢じゃないか?彼女はクリスハルト殿下の幼馴染みだし、生徒会メンバーで殿下の側でずっと仕事をしているし、金髪だし。彼女で決まりだな』
『それが、その側近との会話には続きがあって、クリスハルト殿下はミリーのことが可愛くて、放っておけない守ってあげたいと思っているんだって。それで、怪我が治った後も側にいるそうだよ。ミリーの方が優位じゃないか?』
『そうか?アレクサンドラが婚約者筆頭候補から婚約者になるって聞いたぞ。何でも令嬢が生徒会に入るのは婚約者選定で、彼女が選定されたと』
『そうなるとやっぱり二股しかなくない?』
そういった、情報が錯綜していた。
クリスハルトは相変わらずミリーに優しくしてそばにいるし、アレクサンドラも生徒会メンバーでそばにいる。
学院の廊下でクリスハルトとミリーとばったり会っても、クリスハルトはアリシアには声も掛けなくなった。学院祭の後からはずっとそうだ。何故か冷たい目で見てくる。
「アリシア様、落ち込まないで下さい。全部でたらめに決まってますわ」
「そうですわ。アリシア様と殿下は強い信頼関係で繋がってますもの。あの殿下がアリシア様を裏切るような事はしないと思いますわ」
「そ、そうね」
アリシアは力なく笑って答えた。