派閥
「武闘大会だと!」
俺は席を立ちあがる。
「なんでそこに反応するの。」
ハンスが言う。
「何を言う。武闘大会だぞ!数多の強敵と雌雄を決して戦う最高の舞台じゃないか!」
俺は両手を広げ、武闘大会の素晴らしさを体で表現した。
「・・・はあ、レティシアもう少し聖女らしくしたら。」
「ふっ、今更、不可能なことを言う。」
俺は腰に手を当て胸を張った。他のメンバーはいつもの事だと諦めていた。
「レティシアの反応からして、大会に参加してくれるって事でよろしいですか?」
カトレアの問いに、「もちろんです!!」と目をキラキラさせて答えた。
「でも、どうしてレティシアに参加の依頼をしたのですか?」
リーシャがカトレアに聞いた。カトレアが言うには、今回の武闘大会に貴族たちが「今回の武闘大会に、各々の代表を一名、出してみてはいかかでしょう?」と誰かが言ったのが事の発端らしい。
「実は、この話は既に王族の方々の耳にも入っているようで、陛下自身も了承済みらしいのです。」
「それで、専属冒険者の私たち「暁」の中からレティシアを選んだってことね。でもそれだと騎士団方々は?」
アリアがそう言った。
「ああ、それなら大丈夫だ。みな納得している。」
カトレアの側で待機していたルークが言った。どうやら騎士団は既に大会参加は辞退してカトレア様の護衛についたようだ。
「でも、それだとレティシアでなくてもよかったのでは?」
サーシャが聞いたが
「そこは、ほら貴族の見栄と言うか・・・」
カトレアが言いにくそうにしていたが、その言葉で俺たちは理解する、要するに、Sランクの俺を出して、他の貴族に見せつけたいという事だ。
「まあ、確かにこの国にはSランクはレティシアしかいないから適任だろうけど。」
そうハンスが言い、みんなも納得する
「あ!でも他の皆さんも参加されたいのであれば、こちらで用意しますよ。」
カトレアはそう言ったが
「私はやめとく、自信ないし。」
「同じく。」
アリアとリーシャは即辞退した。
「そうですね。興味はありますが、今回は私も辞退します。」
「僕は訳アリだから、もちろん参加しませんよ。」
サーシャとハンスも辞退する。こうして参加するのは俺だけになった。カトレアが言うには一般枠からの参加者も多いようで今回の武闘大会は大いに盛り上がるのではないかと言った。しかし
「大会そのものは盛り上がりますが、実は他の事もありまして・・・」
カトレアが言うにはどうやら、裏では第一王子と第二王子、そして第一王女の三人の派閥が動いているらしいとのこと
「なるほど、それで貴族からも各一名の選手を出そうって話になったわけか。」
俺はそう言った。
「それでカトレア様はどこの派閥に?」
これは重要な事なので俺はカトレアに聞いた。本来は貴族の問題に首を突っ込む気はないが、ファブレ伯爵がどこの派閥に入っているのかは確認したい。
「お父様は中立を今のところは貫いていますが、私は王女様と仲が良くて・・・」
ふむ、ファブレ伯爵としては中立を貫きたいが、カトレア様は王女と仲がいいわけか・・・しかし
「王女様とはいったいどこで会われたのですか?」
俺が聞くと
「私が小さいころ何度かお会いしまして、そこで仲良くなったのです。今でも手紙でやり取りをしたりしています。」
カトレアはそう言った。
「そうですか、カトレア様はどうしたいのですか?」
「私はできれば王女様の・・・いえ、エレノア様の手助けをしたいと思っています。でも・・・」
「(ふ~ん、この国の王女ってエレノアって言うんだ。初めて知った。)」
俺はそんなことを思っていた。
「でも、私がエレノア様の味方をすればお父様にもご迷惑をかけてしまいます。」
確かにその通りだ。ニコラス様が中立を貫いているのに彼女が王女と仲良くすれば、それだけで伯爵家は王女の派閥だと思われてしまう。俺は伯爵家が派閥に入っているのか確認するつもりであったが、カトレアは王女の味方をしたいと考えている。とはいえ、ただの冒険者である俺たちにはどうしようもないことだ。
「すみません。俺たちではお力になれず・・・」
俺は素直に謝罪する。
「いえ、気にしないでください。これは私たち貴族の問題ですので。」
そう言い、カトレアは笑った。
「でも、ファブレ伯爵の代表として、レティシアには出てもらうので頑張ってくださいね。」
「ええ、もちろんです。」
と俺はそう言ったのである。派閥の事ではどうしようもないけれど、せめて大会ではいい成績を残して伯爵様に恩返しをしないとな!
「カトレア様。他の貴族の方々はどういった人が出場するかわかりますか?」
俺は誰が出るのか気になったので聞いてみたが、「すみません。他の貴族も誰が出るのか秘密にしているみたいで。」と言われてしまった。なるほど、本番まで分からないという事か。まあ、それはそれで楽しみだ!俺は腕を回して、大会が早く来ないかワクワクしていた。そんな俺を、そばで見ていたメンバーは「またか。」と言った顔をしていたのである。




