ハンス君は転生者
ギルドを出てハンス君を追いかけると、すぐに彼に追いついた。
「どうして、俺にはチートスキルが無いんだ・・・」
ハンスは下を向いて、そんなことを呟いていた。相当落ち込んでいるようだ。それよりも
「チートスキルだって!」
流石の俺も驚いてしまった。
「誰?」
「ああ、済まない。大声を出してしまって。」
俺は素直に謝る。それよりも
「さっき、チートスキルって言わなかったか?」
そう、チートなんて言葉はこの世界には無い。その言葉を知ってると言うことは・・・
「え?言ったけど、まさか意味わかるの?」
俺は頷いた。ハンスは俺と同じ転生者であった。そして俺は同じ転生者である彼に興味を持ち、「良ければ少し話をしませんか?」俺は彼にそういった。
「構いませんよ。僕も同じ転生者と話をしてみたいので。」
その後、俺はハンスを連れて、自分の泊まっている、宿に向かった。
「こんな立派な宿に泊まってるんですね!(それに恰好はともかくすごいきれいな人だ。)」
腰まで伸びた金髪に赤い目、凹凸のはっきりした体・・・正直、ハンスはこれほどの美少女を見たことがない。ハンスはそう思った。
「まあ、これでもSランクだからね。」
ハンスがそう思ってところ、俺はそう言い返した。
「Sランク!最高位のランクじゃないですか?」
ハンスが驚き俺に言ってくる。
「まあね。いろいろあったけど、何とかSランクになったって感じだよ。」
「そういえば、その恰好、もしかして死神さんですか?」
「当たり!周りからはそう言われている。」
俺は苦笑いをした。
「荷物などは取りに行くかい?」
「いえ、僕は大した荷物がないので取りに行く必要がありません。お金も今持っているのが全財産ですし。」
ハンスはそう言って苦笑いする。そして、ハンスは俺に確認するように
「やっぱり、転生者はチートスキルを持っているんですか?」
そう俺に言ってきた。
「俺のスキルは人より早く成長するってもので、みんなより成長が早いだけ・・・正直、君が思っているようなものではないけどね。」
「それでも、みんなよりは早く強くなれるってことですよね。」
「努力はそれなりに必要だったけどね。」
俺は今に至るまでの過去を少しだけ話した。
「そっか、でも強くなれるだけ、羨ましいですね。」
ハンスは下を向いた。自分の才能のなさに嫌気がさしているのだろうか?
俺は、そんなハンスを見ているとハンスから黒い霧みたいなのが出ているのが分かった。おそらく呪いだろう。そう思った俺は
「ハンス君、君から出ている黒い霧は気づいているかい?」
「黒い霧?何ですかそれ?」
「やはり、気づいていなかったか?おそらくだけど、ハンス君には呪いが掛かっている。」
「ええ!呪いですか!」
さすがのハンスも驚く。
「おそらく呪解できる人がいなかったのか?気づく人がいなかったのだろう。良ければ解除しようか?」
「出来るんですか?」
「ああ、これでも聖女だからな。」
聖女のスキルには呪いを解除できるスキルなどもある。
「え?ああ、そういえば死神さんって聖女が職業でしたね。」
さすがのハンスも俺の職業に気づいたらしい。まあ、こんな恰好をしているけど、俺が聖女であることはギルドも知っている。
「それでどうする?」
「お願いします。呪いを解いてください。」
「了解。ほい、ディスペルっと!」
サクッとハンスの呪いを解除した。本来はお金などを貰うのだが、転生者同士、今回はタダでいいか。そして、呪いが解けたハンスからは信じられないほどの魔力が湧き出してきた。
「な、なんだ!力がみなぎってくる、この感覚は!」
ハンスも何が起きたのか分からないようだった。
「おそらく、呪いが解けたことによって、本来の力が現れたのじゃないかな?」
「これが、俺の力・・・」
「とりあえず、自分のステータスを見てみたら?」
ステータスは職業など、自分自身の情報を見ることができる。それ以外となると、ギルドにある魔道具、もしくは鑑定スキルなどレアスキルでないと確認ができない。
ハンスは俺の言葉に従うように自分のステータスを確認した。
「な!職業が村人から勇者になっている!」
さすがの俺も勇者には驚きを隠せなかった。勇者とは現在この世界では3人しか確認されておらず、すべてのステータスにおいて、最強と言われている。剣などの接近戦はもとより、攻撃魔法や回復魔法なども使用できると言った、ほぼ反則級の職業である。
「クックック・・・あはははは。」
俺は笑いが止まらなかった。まさかこんな本物のチートと出会えることができるなんて。ハンスは笑っている俺を見てあたふたしていた。
「ふう~・・・いや~笑った、笑った。まさか勇者とはね。」
「そこまで笑うことでしたか?」
「だって、こう言っちゃ悪いけど、追放された人が勇者だって思うと笑わずにいられない。クックック。」
「あはは・・・」
ハンスは怒ることもなく苦笑いする。さて、笑った俺は、この後、真顔になり
「それで、どうするの?今の君は勇者だ!追放した奴らに自分が勇者だって言って戻ることもできるし、あいつ等を見返すこともできるよ。」
その言葉にハンスはした向き、次に顔をあげてこう言った。
「いや、もう元のパーティーに戻る気もない。それに約束を破ったサーシャにも未練はない。そして、教えてやる。もう僕は昔の僕じゃない。君たちより遥かに強いってことを!」
ハンスはこれまでに無いくらいの笑顔を俺に向けた。
「(ああ、そうだ。その笑顔だ!今まで自分を馬鹿にした奴らを見返してやるって顔だ!ヤバいな、ゾクゾクしてきた。)」
俺は彼の顔に興奮を覚える。
「ふふふ、いい顔だ!ハンス君!俺は今の君の顔が大好きだ!」
「そうかい?ありがとう。君のような美少女に言われて俺もうれしいよ。」
二人はこれまで以上の笑顔を見せた。
「良ければ、俺を君のパーティーに入れてくれないか?」
「ん?いいのかい?僕はFランクの最下位だよ?」
「ランクなんて関係ないさ。これは運命だ!君に出会えたということに!そして、俺に君のサポートをさせてほしい。」
「ふふふ、まさか死神さんがサポートしてくれるとは・・・これ以上、頼りになる人はいないよ。」
俺たちは互いの手をとり
「改めて名乗ろう!俺はレティシア。TS転生者だ。」
「僕は知っての通りハンス。転生者だよ。それよりTSって・・・」
「おや、嫌だったかい?」
「いや、性別など僕にとって些細なことだ。これからよろしく、レティシアさん。」
これは、死神と呼ばれた聖女と最弱から這い上がってきた勇者との出会いである。