調べごと
宿に帰った翌日
「ハンス。今日は休みにしよう。」
俺はそう言った。
「え!あれだけ獣の様に戦闘に飢えていた、あのレティシアが!」
ハンスはこの世の終わりのような顔をしていた。
「うん、君が俺をどのように見ていたかよくわかった。」
まあ、いつもこんな感じだが・・・
「一体どうしたの?急に休むなんて。」
さすがのハンスも気になったみたいだ。基本的に俺たちは毎日、何かしらの依頼を受けているため、休みなど取ったことがない。日本にいたら労働基準法が何やらと言ってくるだろう。実際ブラック企業もいいところだ。しかし、こっちの世界では、そういった法律は無いし、休暇も冒険者であれば自由に決めることができる。正直俺たちはお金に困っているほど生活が厳しいわけではないが・・・
「いや、少し気になることがあってね。」
「気になること?」
「ああ、昨日ラルクという男が俺をパーティーに勧誘したのを覚えているだろう?」
ラルクという言葉に反応するも
「ああ、覚えているよ。」
俺はその時に感じた変な感覚についてハンスに話す。
「ラルクの目を見たときに変な感覚を覚えたか・・・」
ハンスは腕を組んで俺の話を聞いていた。
「ああ、何か心当たりはないか?」
「そういえば、サーシャがラルクに好意を寄せるようになったのも、アイツがパーティーに入ってしばらくしてからだったな。」
ハンスは当時のことを思い出しながら言った。
「ふむ、怪しいな。」
「サーシャもアイツに何かされたってことか?」
ハンスは勢いよく俺の方に顔をつき出す。
「わからない。あくまでも可能性の話だ。」
「そうか。」
ハンスは椅子に座り下を向く。彼女に思うところがあるのだろう。
「・・・ファンタジー小説などであれば、「魅力」や「洗脳」といったのが定番だな。」
「でも、それだと、リーシャやアリアも洗脳か魅力にかかっているんじゃないかな?」
ハンスが俺に言ってきた。確かにサーシャと二人のハンスに対する態度が明らかに違っていた。
「それに、レティシアには通じなかったみたいだし・・・」
「条件があるのか・・・俺の場合は純粋にレベルが高かったとか・・・」
俺たちは悩む。
「そういった意味で今日は休みにして、スキルについて調べようと思ったんだ。」
「わかった。そういう事なら仕方ない。僕も手伝うよ。」
「ありがとう。助かるよ。その前に一つ聞きたい。もしサーシャが洗脳か魅力といったスキルで操られていたら、君はどうする?」
「わからない・・・正直今の僕はサーシャのことを好きだったと言う感情しかない。今でも裏切った、サーシャは許せないと思っている。」
ハンスは下を向いたまま言った。
まあ、そうだろう。理由はどうあれ、彼が傷ついたことに変わりはない。過去を無かったことにはできない。許すも許さないも彼次第だろう。
「まあ、君の幼馴染のことは置いといて、今日はスキルについて調べるという事で良いかな?」
「うん、さっきも言ったけど僕も手伝うよ。」
「わかった。じゃあ取りあえず、この町の図書館とギルドの方で調べてみるか?」
職業やスキルといった調べ事はやはり本がたくさん置いているところに限る。まあ、もし収穫が無ければギルドマスターに一回相談するのもありだろう。もしかしたら魅力や洗脳は禁忌とされていて一般には知られていない可能性もある。俺はそう言ったことをハンスに伝え、ハンスにはギルドの方を当たってもらうことにした。
「さて、俺は図書館に向かうとするか。」
そう言って宿を出る。場所は変わって
「ここに来るのも久しぶりな気がするな。」
俺は独り言を言う。ヒーラーだった時にたまに通っていた。魔力量を増やす方法などここで調べたのである。
「(まあ、実践あるのみだったけど)」
いくら知識があっても経験がなければ意味はない。まさにその通りで、回復魔法を使いまくって魔力量をあげると言った地道な努力が書かれていた。さすがの俺も「簡単な近道はないか」と言っていたような気がする。俺はそんなことを思いながら図書館に入って行った。図書館に入ってから俺はスキルに関する本がどこにあるのか確認し、関係のありそうな本を手に取り調べることにした。思っていたよりも、スキルに関する本が多かったため時間がかかってしまった。気が付いた時には閉館ギリギリの時間だった。
「(ふむ、思ったより時間がかかってしまった。ハンスはもう帰っているかな?)」
俺はそんなことを考えながら図書館を出る。
「まあ、収穫はあった、やはりこの世界にも魅力や洗脳と言ったスキルは実在したようだ。」
図書館で調べた情報によると魅力や洗脳は存在するが、それは自分よりレベルが低く、下級職でないと効果が無いようだ。
「(まあ、少し特殊なスキルも存在していることが分かったし、おそらくあのスキルかな。)」
俺は今回の調べ事で「おそらくこのスキルでは?」といったものを見つけた。
「帰ってハンスに報告だな。」
俺はそんなことを言いながら歩いていると、広場の椅子に見たことのある二人組がいた。俺はその二人に
「どうしたの?」といったら、二人は顔をあげて驚いた。
「「聖女様?」」
俺は「青の翼」のリーシャとアリアに出会った。




