憂鬱な食事会 【月夜譚No.48】
既に前菜の時点で嫌になってしまった。そもそも、この食事会自体気乗りがしなかったのだ。正確に言うならば、今夜の予定が決まった時点から憂鬱である。折角の綺麗なドレスもくすんで見える。
空になった皿が下げられ、メインの肉料理が置かれる。口に入れた一切れが喉を通らずにグラスの水で流し込み、どうにか次の塊にフォークを刺す。きっと普段の感覚ならば美味しい料理なのだろう。どうせなら仲の良い友人とでも食べに来たかった。溜息を吐きそうになったのを、すんでのところで飲み込む。
ばれていやしないかとちらりと両親の方を窺ったが、彼等は相手方と楽しく会話をしている最中でこちらには気にも留めていない様子だ。ほっとして視線を戻すと、正面に座った青年がじっとこちらを見ていた。軽く微笑み返すと、彼は何事もなかったかのように食事を再開する。
一瞬いらっとしたが、こんなことに一々構っていてはきりがない。同い年の彼とは幼馴染のようなものだが、仲は決して良くない。寧ろ悪いと言えるだろう。なのに、こうして何度も家族同士で食事会をさせられる。両親達は昔からの友人だから、子ども等も同じだろうと考えているのだろう。
正面からの視線が時々気になるが、もう無視することにした。目の前の料理を口に運ぶことだけに専念する。無理やりにでも全部食べてしまえば、この食事会は終わるのだから。