6♪ ディスプレイの中で
「はぁ〜あ……」
俺、本堂拓真と言います。七海高校のチューバ吹きです。具体的に言いますと、2006年1月8日現在、ため息ばかりの毎日です。昨年末、俺は……あー! 恥ずかしい! 思い出しただけで赤くなる!
去年、愛媛県の常套中学校吹奏楽部が出場したアンサンブルコンクールを、見学も兼ねて応援しに行った。場所は松山市生涯学習センター。もちろん、部費から遠征費は出たのでお金についての心配はなかった。
出場メンバーに、バリ・チューバアンサンブルがあったので俺は興味津々だった。出場しているのは佐野翔の幼なじみという竹林くん。そしてメンバーの谷さん、佐々木さん、高橋さん。みんな中学生なのに、俺たちよりしっかりしてるし音色も綺麗。演奏を聴いている間、圧倒され続けた。
演奏終了後。俺はセンターの外で談話する翔や泰徳くんを遠巻きに見ていた。正直、初対面の人と話をするのは俺、苦手。朝倉さんや春やん、慎ボーはまったくそんなのは関係ないようだ。
「う〜……寒い」
愛媛とはいえ、冬は冷える。俺は一人、手を合わせながら翔たちが話を終えるのを待ち続ける。しかし、終わる気配など微塵もない。まぁ、わからなくもない。翔と泰徳くんが会う機会だって少ないのだから。
「あの……」
振り向くと、バリチューバアンサンブルメンバーの子がいた。確か、名前は高橋さん。
「高橋さんだよね?」
「はい! 覚えてくださったんですか?」
「同じバリチュー仲間だから」
「嬉しいです」
彼女は優しく微笑んだ。今まで、女の子が笑うのとかを見てもあまりドキッとしなかったのに、何か彼女は違う。俺の中で、彼女が強烈に印象に残った。
「寒いですか?」
「まぁ……。愛媛ってもっと暖かいと思ってたから」
「東北や北陸ほどではないですけど、雪も降ることありますよ」
「へぇ! それは驚きだな」
中学生なのに、しっかりしてる。俺が中学生の頃、彼女のようだったか?と聞かれれば答えは単純明快。Noだ。
高橋さんはしっかりしてる。何だろう。年下なのに、話がしやすい。こんなこと言ったらぶっ飛ばされるだろうけど、田中や大谷より話しやすい。俺、田中みたいなテンションは苦手。つくづく慎也を尊敬するよ。田中のテンションについていく、慎也を。
他愛無い話をしていたら、寒さを忘れることができた。そうこうしているうちに、俺たちは帰らないといけなくなった。
「最後に写真撮ろうや!」
翔の提案。ナイス! 俺は心の中でガッツポーズを取っていた。
「泰徳、もうちょい右。そうそう。あぁ、永井さん隠れた。おい、陽乃邪魔やねん!」
「邪魔とは何よ! 失礼しちゃう」
「あ、そうそう。永井さんもうちょい左。うん、そうそう。慎也と拓あんはデッカいから一番後ろな。ほんで春やんは小さいから最前列で」
「小さいとかそういう説明いらないから!」
春やんは最近、小さいと言われるとすぐ怒る。その怒るクセ、新入生入るまでに治しておけよ。
「あー! そんで、拓真と君」
「私ですか?」
高橋さんが静かに反応した。
「そーそー。名前、何やっけ?」
泰徳くんが答えようとして、俺が遮るように答えた。
「高橋さん」
「あぁ、高橋さん。悪いんやけど、拓あんの横移動してくれん?」
「え?」
「俺、できたら泰徳の隣がえぇねん! お願い!」
「気持ち悪いぞ、翔」
「そういう意味ちゃうやん! な、お願い!」
「いいですよ」
おいおい、マジかよ。高橋さん、俺の隣いるよ?
何々? 心臓バクハツ寸前?
「はーい、じゃ撮るぞ!」
東先生の声が聞こえない。きっと、俺の顔、ガチガチだ。
シャッター音が聞こえた。
「いい写真、撮れてるぞ」
「あざーっす!」
バラバラと列が崩れ始めた。俺は気づけば、大声でこう言っていた。
「俺のケータイでも、撮ってほしいです!」
そして、今。
俺のケータイには、強ばった顔の俺と高橋さんが並ぶ写真が映っている。後列は向かって左から、高橋さん、俺、拓真、慎也。真ん中が、泰徳くん、翔、谷さん、佐々木さん。最前列が永井、朝倉、春やん。
「……メインディスプレイにしよっかな」
俺はそんなこと考えたが、ふと手を止めた。この事実を、誰も知らない。だったら、このままにしておいてもいいんじゃないか?
神奈川と愛媛。中学生と高校生。叶うはずのない、俺の……。
「でも、諦めないよ。美並さん」
俺はそう呟いて、画像を「プライベートフォルダ」に移動させた。
俺の初恋は、始まったばかり。
叶う可能性は、ないに等しい。
でも、諦めない。
いつか、きっと――。
この小説中の登場人物、泰徳くん、中井さん、佐々木さん、高橋美並さんはGT.spiralさん著作『みんなのHarmony 〜夢と希望のアンサンブル〜』に登場する人物です。GTさんより、事前に許可はいただいており、メインは『奏〜kanade〜』のコラボレーションになっております☆