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46♪ 男子と女子の事情~中編~


-Side 絵美-


「ごっはん、ごっはん!」

 皆さんこんにつあー!

 はい、いきものがかりのマネをしました。鬱陶しいですね。橋本 絵美です。今日はなんと! お母さんお手製のサンドイッチ弁当です。春くんは今、コンビニにお弁当を買いに行っています。なので、今日は女子でお弁当を食べようかなって思っています。

「あ、ごはんの前に手を洗わないと」

 私はいつものように、お手洗いの前にある手洗い場へ向かった。

「ねぇ……どう思う?」

 おや。ミサッチ。

「そうだなぁ……。もうちょっとさ、こうほら、皆の前でオープンになってもいいんじゃないかって思うんだけど。あたしとしては」

 陽ちゃんも? 深刻な顔して何の話だろう……。

「やっぱりそう思う? あたしたちの前でも、全然そういう話してくれないもんね~」

 誰のことだろう。サキティ?

「誰のお話ですかっ! センパイ!」

 あ。ヒカルちゃん。

「あぁ、ホラ~。光瑠ちゃんのセンパイのは・な・し!」

 え? 私?

「橋本先輩ですか?」

「うん!」

「先輩がどうかされたんですか?」

「いや、ほらさぁ。エミリンと水谷くん、付き合ってるでしょう?」

「そうですね~。ホント、羨ましいです。まぁ、朝倉先輩と田中先輩でも十分あたし、羨ましいですけど!」

「またまたぁ! それでね。でも、私たちに全然、エミリンったらそういう話してくれないの」

 確かにそうだった。陽ちゃんやミサッチは、佐野くんや川崎くんと週末にどこへ出かけた、何をしたっていう話をよくしている。私はウンウン、とその話をうなずき聞くだけ。別に、私たちも何もしていないわけではない。陽ちゃんやミサッチみたいに私はそこまで活動的ではないし、春樹も川崎くんや佐野くんに比べると、おとなしいほう。でもそれはあくまで表面上であって、私たちだって遊びにだって行くし、映画だって観る。

 ただ、私はそういうのを喋らないだけ。なんとなく、恥ずかしいの。春樹だってペラペラと佐野くんたちにそういったことを言っている様子はないから、私はあえて言う必要もないのかなって思ったり。

「ははぁ……。そういえば、クラリネットパートガールズでも恋バナするんですけど、橋本先輩はいつも笑顔で聞いてるだけですね」

「え? そうなんだ!」

 確かにそうだった。でも、なんだか男の子が近くにいるのにそういう話、恥ずかしい。私たちのことは公認だって、光瑠ちゃんやみゆちゃん、梨子ちゃんは言うけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。

 なんだか私は恥ずかしくなって、思い切って合流しようと思った。

「もしかしてさ」

 でも、ミサッチのその言葉を聞いて足が止まった。

「2人……うまくいってないのかな?」

「え? そうなの?」

 陽ちゃんが驚いて声を潜める。

「えぇ? でも、先輩パー練でも元気ですし……それに何より、水谷先輩と毎日帰ってるじゃないですか」

 ヒカルちゃんも声を潜めた。

「わかんないよ? 私たちの前でそうしてるだけで、実は……なんてこともありえるかも」

「まさかぁ。それはないわ」

「わかんないよ!? だって、付き合ってたことだってエミリン、内緒にしてたじゃない」

「それは恥ずかしさがあったんだって、きっと」

「でも、別れたって言う!?」

「……エミリンは言わなさそうだね」

「なんでだろうな~……」

 3人は黙り込んでしまった。私もなんとなく、動けないまま。

「やっぱり、遠慮してるんだよ」

 陽ちゃんが沈黙を破った。

「え? 遠慮?」

「多分……」

「うーん……」

 次のミサッチの言葉が、私の胸に刺さる。

「2年ちょっとの付き合いになるのに、何を遠慮してんのかな~」

 遠慮なんて……してない。

「もうちょっとやっぱり、言いたいことは言ってくれないと。どうだかわかんないじゃない」

 そんなんじゃない。

「やっぱさ~、別れたなんて言いにくいじゃない? もし別れてたとしても」

「まぁね。でも、その人の性格もあるし」

「エミリン真面目だもんね。ねぇ、エミリンってキスとかするのかな?」

「水谷くんと? するでしょー」

「でも、デコチューとかホッペチュー止まりっぽくない?」

「あぁ~……2人とも、奥手っぽいもんね」

 何よ。

 何よ! 

「何よ! 陽ちゃんたちだって……言いたいことあるんなら、コソコソ言わずにハッキリ言えばいいじゃない!」

 私の叫び声がお手洗い中に響いた。それどころか、部室や音楽室にまで響く。

「ど、どしたの?」

 驚いたサキティと由美ちゃんが来た。

「……っ!」

 私は恥ずかしくなって走り出した。

「待って! ねぇ、エミリン!」

「知らない!」

 階段を駆け下りて、廊下を曲がって、また階段を上がって、降りて、曲がって、降りて、上がって上がって。ついて来れなかったのか、陽ちゃんたちの声も足音も聞こえなくなった。

「……。」

 寂しくなって、涙がこみ上げてきた。

 2年以上も一緒の仲間から、あんな風に思われてるって思わなかった。

 寂しい。

 すごく、寂しい。

 独りになりたい。こういうとき、広い学校はいいと思う。

 どれくらい経ったかわからない。不意に、大声が聞こえた。

「全員、大嫌いだ!」

「!」

 聞き間違えるはずがない。あれは、春樹の声。しばらくすると、階段を駆け上がる音が聞こえてきた。

「あっ……!」

「あ……」

 ビックリした。

 春樹だった。






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