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45★ 弦の魔術師~後編~




-Side 由美子-


「あれ? 由美ちゃんじゃない。おはよう」

 エミリンが登校してきた。

「あ、おはよ。エミリン」

「どうしたの? こんなところで」

 そう。ここは校門。

「うん。ちょっと、待ち合わせ」

「へぇ? そうなんだ」

 誰と?と聞かないあたり、エミリンらしい。

「じゃ、私は先に行くね。っていうか、またここへ来るけど」

「なんで?」

「ほら、風紀強化月間でしょ? 4月だから」

 そういえばそうだった。

「今週は私たちのクラスなの。面倒だけど、仕方がないわ」

「大変だね~。私、図書委員だから楽といえば楽かな」

「いいなぁ。私落ちちゃったから……あ! 時間ヤバい! 行くね!」

「うん。またね~」

 エミリンが行ってしまった。続いて来たのは、ミサッチ。

「あれ? 由美ちゃん」

「おはよう。ミサッチ」

「どうしたの? こんな場所で……」

「ちょっと、待ち合わせ」

「ふぅん……」

 ミサッチは誰を?と聞きたそうにしていたけど、途中で気づいてくれたみたい。ニコニコしながらこう耳打ちした。

「頑張れ、恋する女の子」

 その言葉に思わず私は真っ赤になってしまった。

 ちなみに、今の天気は雨が降りそうな曇り。昨日から雨は降り続いていたけど、今日もどうやらその天気は続くみたい。偶然、私が狙った時間帯だけ、綺麗に雨が上がった。

 キッチリ屋のみーやんだけど、彼は朝に弱い。いつもギリギリに来て、慌てて校舎に駆け込むタイプの子だ。だから、言えないかもしれない。でも、今日はひょっとしたら、という希望を持って私はここに来た。

 8時15分。私の予想は、大当たりだった。

「……おはようございます」

 みーやんが自転車から降りて、私の前で立ち止まった。

「おはよう」

 ザワザワと他の生徒の声が聞こえる中、私たちはしばらく見つめあった。

「何あれ~?」

「さぁ……」

 私たちの様子に気づいた何人かが、不思議そうに通っていくけれど気にしない。

「昨日の、お返事。考えてきました」

 私の言葉に、みーやんの顔が強ばる。

「はい」

 しばらく、沈黙。後ろからエミリンの「おはようございまーす!」という元気な声が聞こえてくる。

 日常って言うのは、こういう普通な場面から一瞬にして変わるんだと、私は思っていた。

 スゥッと私は息を吸い込んだ。

「私は」

 思ったより大きい声が出た。そのせいで、辺りがシンと静まり返る。けれど、関係ない。

「私は……あなたのことが、好きです!」

 みーやんの顔が真っ赤になった。けれど、その顔がすぐにほころんだ。

「俺も……好きです。由美子先輩」

 「きゃー!」という黄色い声と「マジかよ、みーやん!」という男子生徒の声。近くにいた風紀委員担当の新井田先生や、1年生担任の立花先生も赤くなっている。エミリンが嬉しそうに私たちを見つめていた。



-Side 亮平-


「私は……あなたのことが、好きです!」

 ……マジで?

 信じられない……。

 俺の頭からすぐに浮かんできたのは、こんな普通の言葉だった。

「俺も……好きです。由美子先輩」

 傍にたまたまいた俺の1年のときのクラスメイト、山崎 琴弥と一緒に来ていたまこっちゃんと優っちが驚きの声を上げていた。

「は、恥ずかしいね……」

 真っ赤になる由美子先輩。

「……。」

 俺は先輩を守ってあげたくなって、自分でもビックリするぐらいの行動に出た。

「み、みーやん?」

 気づけば、彼女を力いっぱい抱き締めていた。

 黄色い声が飛び交う。

「好きだよ」

「……私も」

 一年越しの思い。

傷つくこともあれば、傷つけることもあった。俺の周りも傷つくことがあった。恋は、傷のない恋なんてないのかもしれない。

それでも俺たちは恋をした。

「みーやん……ううん。亮平くん!」

 呼ばれ慣れない呼び方で呼ばれた。

「行こう!」

「うん!」


 大丈夫。


 これから俺たちを待っているのは、きっと楽しい毎日。


 ケンカだって、愚痴の言い合いだっていっぱいしようじゃないか。


 どんなものだって、乗り越えてみせる。


 今までたくさんの幸せを、ありがとう。


 そして、これからも。


 好きです、先輩!














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