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45♪ 弦の魔術師~前編~




-Side 由美子-


「おはようございます」

 その低い声が聞こえると、私の心臓が急に鼓動を早める。

「おはよう!」

 陽ちゃんの明るい声。

「おはようございます」

 彼の、低いけれど機嫌の良い声。私は半年ほどのこの想いを経て、彼の声の調子で機嫌の良し悪しが分かってしまうほどになった。

 おはようございます、宮部由美子です。

 晴れて進級できた私は、2007年4月から七海高校の3年生になりました。そして、今しがた部室にやって来た彼――三宅 亮平くんは2年生になりました。

 私と彼との出会いは去年の今頃。三宅くんが、吹奏楽部の見学に来た時です。たまたま見学に来た時、水谷くんも本堂くんも留守だったので、私が部の案内をしました。部の案内っていうか、まぁ自由気ままに演奏してただけなんですけれども。

 いつのころだったか、わからない。彼の声を聞いただけでドキドキする自分がいました。体育の時間だったみたいで、同じクラスだった戸口くんや日高くんの名前を呼んで「パス! パス!」と盛んに大声を上げていて。その声に私は授業そっちのけで、試合を見ていたりすることも多々ありました。

 これが恋だって気づかされたのは、サキティの何気ない一言。

「胸がキュッと締め付けられるような感じがしたら、それはもうその人に恋をしてるわね!」

 キュッ?

 その意味がわからなかったのですが、半年ほど前のこと。

 部室の窓の立て付けが悪く、一所懸命閉めていたら三宅くんが手伝ってくれました。その時「たまには人を頼るとかしてくださいよ」とヤンチャ気味な笑顔を見せたとき、私の胸が一気に締め付けられるような感覚になりました。

 キュッ!

 多分、これなんだろうなって。

 でも、私はフルート。三宅くんは弦バス。高音楽器と低音楽器ではセクション練習といって、木管楽器と金管楽器に分かれてしたり、同じフレーズごとに合奏したりする練習でも一緒になることは皆無。唯一の接点は、合奏のときくらい。

 それがいつの間にか、三宅くんのクラスメイトを通して彼に接近する回数が増えました。去年の8月。七海市では毎年、隣の市との境を流れる大井戸川で花火大会があります。三宅くんのクラスメイトで、今年吹奏楽部のポスターを描いてくれた女の子が近所に住んでいたこともあり、彼女の家から花火大会を見せてもらえました。

 彼に送ってもらったりしているうちに、私はどんどん彼を好きになっていきました。もちろん、イケメンだし優しいしで人気のある彼は、他の人からもたくさん好意を抱かれていた。だから、私はこの想いを抱いていただけで、口には全然してきませんでした。

 普通の先輩・後輩という関係を築くつもりで、私は何事もなかったかのように接することを決めました。ドキドキは相変わらずだったけど。

 そんな三宅くん。最近、なんだか様子がおかしいんです。妙に色気があるっていうのは変だけど、何か様子が変なんです。

 私は心配になって、同じパートの本堂くんに聞いてみました。

「ねぇ……みーやん、最近様子変じゃない?」

「やっぱり、宮部さんも思う?」

「うん……」

「ホント最近だよ。なんか、制服の着方とか微妙に変わった」

「乱れてるよね」

 三宅くん、真面目が歩いているような子だったのに何かがちょっと変な感じなんです。

「あと、髪の毛にワックスつけてるわよ?」

 ミサッチが加わってきました。

「ワックス?」

「うん。それに、いい香りする」

「香水もつけてる……のかなぁ」

「どうなんだろう……。ねぇ、拓あん。アンタが一番接する機会多いんだから、聞いてみたら」

「そうだな……」

 私からもお願いしておこう。

 二日ほどしてから、私はミサッチと本堂くんのところへどんな様子だったか、聞きに行ってみました。

「どうだった? 本堂くん」

「別にコレと言って変わったことはなかった」

「へ?」

 二人は呆気に取られちゃいました。

「いや、でもさぁ……」

「本人がそう言ってるから、間違いないよ」

「そ、そう……」

 本堂くんも二日前の心配する態度がウソみたいに、ちょっと冷めた感じになってしまいました。

 でも相変わらずワックスつけて、香水もつけてるみたいで。絶対様子変なのに……。そう思っているのに、私からは声を掛けられずに、日にちばかりが進んでいきました。



-Side 亮平-


「まったくさぁ~。なんでそれだったら自分から突っ込んでいかないのよ?」

 秦野がおにぎりを頬張りながら言い放った言葉は、俺の胸を突き抜けて行った。

「そもそも、宮部先輩はおとなしい人なんだから、自分から突っ込んでくることなんてないじゃない」

「そんなことはわかってるよ!」

「ちょっとその前に。みーやん、あんたはいつから宮部先輩のことを好きなの?」

 いつからだろう。

 考えて、考えてタイムマシンのように時間を頭の中でまき戻していくとやっぱり、あの初めて吹奏楽部にやって来た、音楽室での瞬間だろう。

 自分にはない、素直さを持っているから。

「会った……」

「はい?」

「会った瞬間から」

 その言葉に秦野はもちろん、話を聞いていた駿やさとっぺ、乃木も顔を赤くした。

「そ、そうなんだ……。私、全然わかんなかった」

 乃木が顔を赤くしながら答えた。

「わかんなくて当然」

 俺はひた隠しにしてきたつもりだった。けど、この間転校した親友には全部、見抜かれていた。

「リョウは、想いを伝えるのが下手だよ」

 そう言われた。おかしいな。俺なりに、宮部先輩……宮部さんには、俺なりの思いを伝えてきたのに。

「とにかくさ、みーやんはもっと自分を表現しなきゃ」

 秦野の言葉も最もだ。俺は何かと目立たない生き方を選んできたつもりだ。ちょっと、去年1年間は変に目立ったけど。

 それで考えた。俺が目立つ方法。まずは物理的に目立ってみようかと。

 制服の着方を崩して、ワックスつけて、香水つけてみた。

 それをやってみた初日のことだった。

「アンタ、ばか?」

 秦野にそう言われた。でも、自分を変えてみるつもりでやってみたんだ。宮部さんの気を引けるなら、どんなことでもする。

 次の日。本堂先輩にまで本気で心配された。

 さすがにそれではマズいと思い、俺は元へ戻った。元へ戻っても、宮部さんからは特に声の掛からないまま、時間だけが過ぎていった。

 4月16日月曜日。

 この日は雨だった。母さんの言うとおり、傘を持ってきて良かった。部活も終わって、片づけが済んだから帰ろうと思い、昇降口へ来た時、宮部さんの姿が見えた。

「先輩?」

「あ……みーやん」

 かなり困った顔をしている。

「どうなさったんですか?」

「私うっかり傘忘れちゃってさ……どうしようかと思って」

「……。」


――とにかくさ、みーやんはもっと自分を表現しなきゃ


 秦野の言葉が蘇る。

 俺は精一杯、自分の言葉で表現してみた。

「一緒に……入って行きますか?」






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