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29♪ 同窓会~陽乃SIDE~

「え? 同窓会?」

 あたしは翔が嬉しそうにそう言ったので、思わず聞き返した。

「どこの?」

「どこのってお前、大阪に決まってるやんけ!」

 翔は大阪府は南大阪市出身。中学校は(よど)(みなみ)中学校というところの出身で、吹奏楽部に在籍していた。佐野 修平や岩切 翔平といった面々もこの中学出身である。

「いつ行くの?」

「今週の金曜夜に出発して、土曜日に同窓会。ほんで、日曜日にちょこっと観光して、帰ってくるねん」

「へぇ~! 修平くんや岩切さんは?」

「ショーさんは学年上やろ! ほんで、修平はクラスちゃうかってん」

「そもそも、何年生の同窓会よ」

「中2! いっちばん仲の良いクラスやねん。あ~、楽しみやわぁ」

 翔はソワソワして落ち着かないみたい。いいなぁ。同窓会。とはいうものの、あたしにはまだ同窓会は……ぶっちゃけ必要ないかな。なんせ、同じ中学出身の子がわんさか七海高校にもいるもんだから。

「へぇ~。同窓会かぁ」

 部室でミサッチ、サキティ、絵美りんと話をしてた。翔ってば、この2日間ずーっと同窓会の話ばっかりだと不平不満を思い切りぶつけた。

「欲求不満?」

 ミサッチがニヤニヤしながらあたしに言った。

「バカ言わないでよ!」

「おやおや~? そんなことを言いつつ陽乃さん、お顔が真っ赤!」

「もう! 知らない!」

 あたしがそっぽを向いても、3人は気にせず喋り続ける。

「でもさぁ、何で佐野くんはそんなに同窓会にこだわるのかな」

 こだわっているわけではないと思う。純粋に、楽しみで楽しみで仕方がないのだろう。あたしだって、半分くらいが七海高校に進学してきていると知っても、中3の頃の子たちと同窓会を開くとなると、ウキウキしてきちゃう。翔の気持ちも、わからなくもない。でも、なんでそこまでウキウキするのかは本当に不思議。

「ひょっとしてさぁ」

 エミリンにしてみれば、冗談半分だったのはわかってる。でも、この言葉は聞き捨てならなかった。

「初恋の人とかに会えるからドキドキしちゃってるとか!」

「初恋!?」

 この言葉には反応せざるを得ない。

「反応早っ!」

「ちょっと! エミリン……その話、詳しく聞かせて!」

「だから、仮定よ仮定! 私、何も知らないって」

「本当に!? 些細なことでもいいの。教えて! お願い!」

「だから~! 仮定だってばぁ!」


 結局、あたしの願いは聞き入れられなかった。落ち着いて考えてみれば、神奈川出身、神奈川在住のエミリンやサキティ、ミサッチに大阪出身の翔の昔のことなど、知るはずもなかった。だからといって、翔に「何でそんなに楽しみにしてるの?」と聞いたところで「同窓会やもん」と答えられるのが見えていた。

「……。」

 よし。こうなったらあたし自身の目で確かめるしかない。そう思ったあたしはその日のうちに、食事中にお父さんとお母さんに話をした。

「ねぇ、今週末に大阪行ってきていい?」

 ブーッ!と音を立ててご飯を噴き出すお母さん。

「やだぁ! 汚いなぁ」

「突然何を言い出すの、アンタは!」

 弟の夏樹も目をまん丸にして驚いてる。

「大阪って……何で行くの?」

「新幹線」

「バカ言わないで……。どれだけお金掛かると思ってるの」

「さぁ? あ、飛行機のほうが安い?」

「そんなわけないでしょ!」

 お母さんはプリプリしながら吹き飛ばしたご飯を布巾で拭き取った。

「なんで大阪?」

 夏樹が聞く。

「それもそうね。なんで大阪なの?」

「え……っと」

 動機がまさか、翔の同窓会があって初恋の人が誰かを調べるため、などと言えるはずもない。だからといって、別のそれらしい理由が今すぐに思いつくわけでもなかった。

「しゅ、修学旅行で行くから、行き先の研究でもしときたいなぁと思って」

「何言ってんの姉ちゃん。こないだ、修学旅行は北海道って言ってたふぁ!?」

 この弟は普段静かなくせに、こういうときだけうるさい。

「どうも変な点が多いわね。まさか、佐野くん絡みじゃないでしょうね?」

 ゲッ! 鋭い。お父さんの耳もピクピクしてる。お父さんにはいちおう交際を認めてもらってるけど、この流れだと二人きりで旅行するのではないかとか、妙な疑いを掛けられそうだ。

「……ごめんなさい」

 ここは正直に言っておくべきだ。

「やっぱり!」

 お母さんは顔を真っ赤にした。夏樹もニヤニヤと笑いながらあたしのほうを見てる。あ~! 今すぐ自分の部屋に消えたい!

「それで? なんでついていこうと思ったわけ?」

 お母さんの目が既に叱るというようなものではなく、あたしの大阪行きの理由について純粋に興味があるという様子になっていた。

 あたしは恥ずかしかったけれど、全部話した。翔が同窓会を妙に楽しみにしていること、エミリンやサキティの言葉に不安になったこと。その話を聞いているうちに、お母さんも懐かしそうに笑った。

「懐かしいわねぇ……。まるで、お父さんとお母さんの学生時代みたいじゃない」

「お父さんとお母さんの?」

 こうなるとお母さんの話は止まらない。大学生の頃、お母さんは千葉県に住んでいた。お父さんとは同じ大学に通う仲で、お父さんは神奈川県出身。ある日、お父さんが高校の同窓会に出るといって嬉しそうにしていたとき、お母さんは気が気でなかったという。お父さんは滅多に感情を表に出さなかったらしく、それほどウキウキしているということは、きっと何か普段よりもいいことがあるに違いない。そう思ったそうだ。

「それでお母さん、こっそりお父さんの後をつけたけど……懐かしいわねぇ」

 お母さんは遠い目をしばらくしてから、あたしに笑顔でこう言った。

「よし! 何事も社会勉強ね」

「え?」

「大阪、行ってらっしゃい」

「本当!?」

「ただし!」

 お母さんの大声。次の瞬間、あたしは耳を疑った。

「お母さんも一緒に行きま~す!」

「……えぇ~!?」

 これは予想外の展開だった。

 翔がどうこうというのも気になるけど……お母さん、変なことしそうな気がするのはあたしだけ……?





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