表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/62

27○ おにいちゃん

「いだい〜! いだいぃ〜!」

「大丈夫やって。こんなくらい! 兄ちゃんがすぐに治したる!」

「いだい〜!」

「ほーら、見てみ!」

「……ふぇ?」

「うまい棒や!」

「……ほしい!」

「へへ〜。えぇやろ? 綾音いい子やから、泣き止んだらあげる!」

「綾音、いい子やもん! ほら、泣き止んだ!」

「よっしゃ、えぇ子や! ほら、上げるで」

「ありがとぉ、おにいちゃん!」


「……!」

 またあの夢。優しい、お兄ちゃんの夢。そのお兄ちゃんが、あたしと血が繋がっていないとわかった。

「……複雑」


 ――何があっても、兄ちゃんは兄ちゃんやで!?


 そうは言っても、頭では理解してても、心が追いつかない。

「朝かぁ……」

 悶々としてる間に、夜が明けてしもた。

「綾音〜! いつまで寝てるの? 遅刻するで〜!」

「はぁ〜い……」

 昨日、あたしの『お兄ちゃん』――佐野 翔が、ホンマはあたしとも弟の智輝とも、もちろんお父さんお母さんとも血が繋がってへんことがわかった。

 お兄ちゃんは泣きながらも、この事実をえらくすんなり受け入れた。なんなんやろう。あたしは、あんなことを言うたのに全然、心が追いついてない。あの言葉、いったいどこから出てきたんやろう。

「……。」

 モヤモヤする。心が晴れない感じ。

「綾音?」

 ノックの音と、兄ちゃんの声。

「うん?」

「起きてるか?」

「うん……」

「なんや。えらい元気ないな」

「だ、大丈夫やって! すぐ降りるから」

「よっしゃ。ご飯、できとるで」

「う、うん!」

 あたしはなるべく平静を装って制服に着替え、下へ降りた。

「おはよう、綾音」

「おはよ、お母さん」

 あたしの席は、お兄ちゃんの前。

「……。」

 改めて、マジマジとおにいちゃんの顔を見る。

「……。」

 うーん。どうもあたしと根本的に顔の作りがちゃうなぁ思ってたら、やっぱりそうやったんか。今まで違和感はあったけど、なんでかっていうのは考えたことなかった。

 兄妹……実際には違ったわけやけど、兄妹の視点で見ても、お兄ちゃんはイケメンやと思う。どんなタイプって? うーん……俳優に例えるんか……。難しいなぁ。あ! あの人、あの人。えーと……佐野(さの) (かず)()さんみたいな感じ!?

 わかりにくい? でも、そんな感じ。うん。同姓やから出てきたってのもあるかもしれへんけどね。

「おい」

 え?

「どないしてん? 今日えらいボーッとしてる」

「……別に! ちょっと眠いだけ……!?」

 突然、手ぇ伸ばしてきてあたしの口元をこするおにいちゃん。

「な、何すんのよぉ!?」

「なんやねん! 別にいつものコトやんけ!」

「そ、そうかもしれへんけど……」

「アホみたいに口にジャムつけて。これやったら好きな男もでけへんわ」

 ムカツク!

「行ってきま〜す」

 いつもどおりあたしが先に家を出ようとしたら「ちょ、一緒に出るわ!」とおにいちゃんが珍しくひっついてきた。

「どないしたん? 珍しい。雨降るんちゃうの?」

「別に。ちょっとお前と一緒に行きたかっただけ」

「なんやのん? 気っ持ち悪いわぁ……」

 沈黙が続く。なんやのん? ホンマに。

「なぁ」

「何?」

「昨日の話やけど」

 ヤバい。やっぱり、様子変すぎたかな……。

「お前さ」

 やっぱり! バレて……。

「何か変に意識しすぎやろ」

 やっぱり……。

「お前さ」

 まだ続くの!?

「俺のこと、好きになったんちゃうやろな!?」

「……は?」

 何を言うてんの、この兄貴は。

「アカン! アカンで! いくら血ぃ繋がってへんくても、オレらは愛し合ったらアカンねん!」

 アホちゃうの。緊張したこっちがアホみたいやん!

「……もう! ホンマアホちゃうか、この兄貴!」

 あたしは思い切りおにいちゃんの後頭部を叩き付けた。

「痛ったいなぁ!」

 お兄ちゃんは笑いながら、そっとあたしの頭を撫でた。

「ゴメンな。急に、オレが血ぃ繋がってへんとか言われても、ビビるっちゅうねんな」

 お兄ちゃんは頭を優しく撫でてくれた。

 アカン。優しくされたら……ガマンしきれへんように……な……る……。

「……。」

「綾音は、いつもどおりの綾音でえぇねんで」

 優しい。これじゃ、モテるはずやんな。

「わかったら、泣き止め?」

「ん……泣いてへんもん!」

 あたしはおにいちゃんを突き飛ばして先に歩いた。

「おぉ〜い、待てや寂しいこと言わんと、一緒に行こう!」

「……!」

 手を繋いできた。ドキッとしたけど、うん、嫌やない。

「……小さい頃思い出すみたいで、いいかも」

「なんか言うた?」

「ううん! なんでもない。行こう!」

 そうやんな。血ぃは繋がってへんくても、お兄ちゃんはおにいちゃんや!


 大好きやで、おにいちゃん!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ