26♪ いつか……
いつか。
いつかきっと、ケジメ付けられると思ってた。
でも、無理だよ。
だって、君は優しすぎた。
なんで、そんなに優しいの?
私の気持ち、揺らいじゃうじゃん。
最初はあの楽器、難しくて難しくてどうしようかと思うこともあった。
でも、君が選んでくれた楽器だった。
だから、続けようと思えた。
それ以外にも理由はある。
君の楽器と、似ていたりまったく同じだったりするメロディや裏メロを吹くことがあった。
君と同じ時間を共有していると思うと、嬉しくて仕方がなかった。
どうしたのかな。
ビックリした。
涙の跡があった。
それだけじゃない。なんで、こんな寒いのに楽器持って土手にいるの?
風邪ひいちゃうじゃん。
でも、君は笑顔。涙の跡と明らかに矛盾するくらい、明るい笑顔。
なんで泣いてたんだろう。
この時の私には、まだわからなかった。
記憶が、ハッキリしてる。
あの頃の記憶なんてほとんどないのに、なんでかこの時の記憶だけ、いやにハッキリしてる。
写真に残ってるからかな。
でも、それならセリフまでは残らないハズだよね。
何でだろう。
言葉。
表情。
すべてが、はっきり、鮮明に、色までついて、音まで残って。
今でも思い出せる。
そして、次の瞬間、音も周りの風景も消える。
そこには、私と君だけ。
――大阪の子やと思ってたから……寂しい……
どうなんだろう。
今は、寂しい?
寂しいのかな。
そうでもない?
大切な人は、そばにいるかもしれないけど。
私……。
「ねぇ、もう遅いからさすがに帰らないと」
「あ……ホンマや。ついつい夢中になってもうたなぁ」
君が吹く『いつか王子様が』は夢のような美しさで私たちのいる空間と時間を包み込んだ。本当に、嬉しい。
この瞬間すべてが。
永遠に続けばいいと思う。
永遠なんて、ないけれどね。
「じゃあ、また明日なぁ!」
笑顔で手を振る君。
「うん。またね」
明日をあと何回、君と迎えられるだろうか。
本当に、数えられる程度になっているのは確実だけど。
今までよりずっと、色濃くその日々が残りますように。
友人や恋人との別れ際。
振り向いたことはありますか?
その時、その友人や恋人も振り向いてくれますか?
振り向いてくれていたら、その人はとっても愛されている人という話を、私は聞いたことがあります。
お出かけするとき。お母さんがお見送りをしてくれる。何度も振り返って、お母さんが見てくれているのを確認する。
いわばそれは、愛情の確認です。
友達とも、恋人とも、先輩とも、後輩とも、先生とも、近所の人とも。
みんなの周りは、そういう人で溢れていますか?
「……あ」
彼は、私に愛情を注いでくれています。
それは、友情と言う名の愛ですが。
「またな、永井さん!」
その声と、その笑顔で、私は幸せになれる。
「またね、佐野くん!」
やっぱり、忘れられない。
私の、好きな、人。