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21☆ 節約志向

「あれ? なに、それ」

 あたしはつい気になって声を掛けた。

「なにって、昼ゴハン」

「少なくない?」

 だって、クリームパン1個なんて。

「しょうがないだろ。家の事情なんだから」

 それにしたって……。そこまで我慢する必要あるの?

 あ、皆さんこんにちは。初めましての人も、そうでない人も。西嶋はるかです。あたし今、昼休みなので購買部に昼ご飯が足りないと思われるため、パンを買いに来ました。そして、その目の前に例のチビ、日高 優がいます。

「それにしたって、そんなチビなのに食事減らしたらますます縮んじゃう」

「縮まねぇよ!」

「冗談じゃん。そんなに怒らないでよ」

「フン!」

 あー、失敗。もっと会話繋ぎたいのに。

 最近、日高は家の事情でクラブを休部してる。だから、なんていうか、すっごい日高不足。

 ……。

 すみません、バカですよねあたし。

「ゴメンって」

「……知らないよ」

 素っ気ないなぁ……。なんだか元気ないし。

「なぁ」

 おっ!? 声が掛かった!

「お前、そんなに食うの? ただでさえデカ女なのに、横にまで伸びる気?」

 気づけば、パンを4個も持ってた。

「横にって何よ、横って!」

「プッ……アハハ!」

 久しぶりに笑った。その笑顔、やっぱりあたしは好きだ。


 結局あたしはパンを3個も買ってしまった。やんなっちゃう、このエネルギー浪費する体。いつも背の順では最後尾。あ、別に日高が見たいから前がいいとかいうわけじゃないよ。

「ホントにそんなに食べるの?」

「ううん」

「じゃあなんで」

「1個はいま食べるでしょ〜、もう1個は部活前に食べるでしょ〜、それでもう1個は帰る頃に食べるの」

「1個余るけど?」

 あたしは何も言わず、チョココロネを日高の胸元へ放り投げた。

「ちょっ……えぇ?」

「あげる。一緒に食べよ?」

「……。」

「嫌ならあたしは別にいいけどね」

 あぁ、まただ。あたしっていつもこうして憎まれ口に近い感じの言葉吐いちゃう。それでケンカになったことも何度あったことか。

「じゃま、そのパンは……」

「待って」

 え? 待てよ、じゃなくて待って?

「一緒に食べね?」


「って!」

 なんで中庭で食べるの! このクソ寒いのに!

「なんで中庭なんだって?」

 優しく笑った。名は体を表す? いや、この場合は表情(かお)? わかんない……。

「そうよ。この寒いのに、誰もいないじゃないの、しかも」

「まぁまぁ、そう言わずに」

「しょうがないなぁ……」

 あたしは仕方がないので、黙々とパンを食べながら寒さを(こら)えた。

「ねぇ、いつまでこうしてるつもり?」

「もう少し」

「寒いんだけど」

「頑張れよ」

 とりあえずコロッケパンをいただきます。それにしても、今日は雲の色というか、雲の感じが重苦しい感じ。どういうんだろう。雪雲かな。

「西嶋はさぁ」

 急に大人びた声で話し掛けてきた。ちょっとドキッとする。

「どの季節が好き?」

「あたし?」

 いつだろう。あたしは8月31日生まれだから、夏は好きかな。でも、虫がダメだ。春。あー! ダメ。3月から4月にかけてヒノキ科の花粉がヒドくなるもん。秋……はゴメン、食べすぎでいっつも制服がキツくなるからダメだ。理由はナイショで。

「冬は……嫌いじゃないかも」

「ホント?」

「うん。虫もいないし、花粉症ならないし、制服キツくならないし」

「なんだそれ! すっげぇ理由」

 大声で笑う。そうやって笑ってくれるだけでも、あたしは嬉しいからさ。辛そうな顔、しないでほしい。さっきの昼ご飯買うときのアンタの顔、ホント辛かったから。

「そんな理由じゃなくって、冬が好きなちゃんとした理由」

 ちゃんとって……。まぁ、確かにちゃんとしてないけど。

「そうだな〜……」

 小さい頃、1回だけ見たことがある。雪の舞う中に現れた、虹。

「雪が好きだから……かな」

「そっか」

 それっきり、沈黙が続いた。

「なぁ」

「なに?」

「知ってる? 七海に伝わる昔話」

「なに急に」

「笑うなよ。こんな冬の日に、雪がやんだ瞬間、虹が見えたんだ」

「雪の日にも見えるの?」

「普通は雨上がり。でも、雪の日に見えたんだって」

「ふぅん……」

 そんなこともあるんだな。

「その時、この七海の海岸線沿いで一人の男性がその虹を目撃した」

「それで?」

「その男性、過去に海で恋人を亡くしたんだって」

「……そうなんだ」

 悲しい話だな。こんな話、なんでするんだろ。

「その虹……女の人が最期に、男性にお別れを告げるために出したんだっていう話なんだ」

「へぇ……」

「その時、七色の虹が見えた海沿いの町。だから、七海っていう名前が残ったんだって伝わってるよ」

 知らなかった。ずっと七海市に住んでるけど、そういう由来だったんだ……。

「来て!」

 急に日高があたしの手を引いた。パンが置きっぱなしだったけど、気にしない。校舎を上がりに上がって、最上階。屋上へ到着。雪が舞ってる。そして、その先に海岸線が見えて――。

「……綺麗」

 海の上に、虹がかかっていた。

「この虹見たカップルは、幸せになれるらしいよ」

「そうなんだ……」

 それって、どういう意……。


 気づけば、君の唇が身長差があったけど、そんなの気にしないみたいにあたしの唇に重なっていた。


「ひ……だか?」

「俺と……付き合ってください」

 うそ……じゃないよね。夢じゃないよね。

「ホントに?」

「うん」

「ホントに?」

「疑い深いなぁ」

「べ、別に! あたしはアンタがあたしをからかってるんじゃないかって心配してたの!」

 可愛くない。こんなときまであたしって……。

「フヘッ」

「何よ、その微妙な笑い!」

「そういうとこも含めて、全部好き」

 ダメだ。

 あたし、多分コイツに打ちのめされちゃう……。

 でもいいや。これで、君と永くいられるもんね!


 好きだよ、日高。




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