18♪ 星の船
あのとき見た君の横顔は、綺麗だった――。
「……。」
眠れない。もう、腕時計は午前3時を示していた。
「……メールしても返事来るはずないだろうし」
俺は適当にメールボックスを開いて、愛しの人のメールを読み返してみた。毎日、いろんな話題を振ってくれる彼女が、俺は大好きだ。でも、こんな夜中まで俺が君を思ってる、なぁんて知ったら、君はどう思うんだろうな。
「バカみたい」
間違いない。そう言うだろう。
はじめましての人も、そうでない人もこんばんは。水谷 春樹です。七海高等学校に通う、2年生。吹奏楽部に在籍していまして、ユーフォニウムという金管楽器を吹いています。そして何を隠そう、同じ2年生でクラリネット奏者の橋本 絵美は、俺と付き合ってます。
でも別に、大っぴらに「付き合ってるんだぜー!」とかイチャイチャしたりとかは、しない。そういうのを一番嫌うのが俺の彼女、絵美っていう子なんだ。
「やべぇ……また眠れなくなってきた」
寝返りを何度打ったかわからない。いつのまにか母さんも寝て(ちなみに、俺ん家は母子家庭ね)、俺だけがポツンと取り残されたかのような形になった。
そっと窓を開けて、外を覗いてみた。
「うお〜……!」
すっごい星が綺麗。七海の町って、星とか見えなさそうなイメージがあったけど、実は違うんだな。ふと、合宿のときの光景が蘇る。
夏の合宿。俺と絵美は宿舎を抜け出して、近くの野原で寝転んでいた。時間は午前1時。珍しく、絵美のほうから声を掛けてくれた。
「星を観に行こうよ〜!」
何を言い出すかと思えば、星とは……。確かに絵美にはメルヘンチックな一面があったけど、星とはね〜。
「ね、星の船っていう曲知ってる?」
「何、それ」
「吹奏楽の曲だよ。西邑由記子さんっていう作曲家が作ったんだ」
「ふ〜ん……」
耳にイヤフォンが触れる。
「聴いてみよ?」
「うん」
緩やかで、優しい音色。そうでありながら、芯のある音たち。
「キレイな音だな」
「でしょ?」
「あぁ……」
音楽だけが流れる。二人だけの時間が流れる。
「あ!」
絵美が突然声を上げた。
「なんだよ! ビックリするじゃん!」
「流れ星!」
「ウソ!?」
「ウッソ〜」
ムカつく! 騙されたんだ!
気がついたら、俺は絵美の頬を引っ張っていた。
「ちょ、何すんのよ!」
「うるさいな〜。俺をだました罰!」
沈黙が起きた。顔が赤くなる。
「ねぇ……春くんは七夕の伝説とか、そういう話って信じる?」
「え?」
絵美にしては現実味のない話。ちょっと驚いた。
「信じる?」
「うーん……信じないとか、言うと思った?」
「うん」
即答かよ。
「ここのね、合宿してるとこらへん、星の船っていう伝説があるんだって」
「伝説かぁ……。七夕よりは、現実味がありそうだな。どんな伝説なんだよ」
「こんな日みたいな、星が空一面に散りばめられてる日にね、愛しの人とその星を眺めるだけで、願いが叶うんだって」
「……なるほど」
「その想いを、星が運んでくれる。だから、この地域で見える星は、星の船って呼ばれるようになったんだって」
「……そっか」
これ以上、言葉はいらなかった。
そっと、君と手を繋ぐ。
良かった。
想いは、俺からの一方通行じゃなかったんだね。
星の船の伝説。
君は、信じる?
俺は、信じる。