14♪ おみくじ
なんだろう。
なんだろう。
最近、合奏中に視線を感じる。
でも、嫌な視線じゃない。
どういうのかな。よくわかんないけど。
多分、好意を持たれてる。そんな視線。
「先輩! それはズバリ、恋ですよ!」
ん? デジャヴ?
うん、デジャヴだ。これ、サキティにいつか言ってたよね?
「あたしが恋をしてるの?」
「違いますよ! 宮部先輩はそんなキャラじゃありません」
失礼ね。とりあえず、デコピン。
「で? じゃあ誰が恋をしてるっていうのよ。説明してもらおうじゃないの」
後輩の井上 佳菜は額を摩りながら説明を始めた。
「つまりですね、先輩を見つめる視線は、先輩に対する憧れから来てるんですよ。これはまさしく恋です!」
「じゃー何? この視線、部内の誰かから来てるっていうの?」
「そうですよ。それ以外にあり得ません」
ありえないって……そこまで断言するか?
帰り道。あたしは男子の部員を思い浮かべてみた。
佐野くん。ありえないな〜。
川崎くん? ミサッチに殴られるからありえない。
春やん……は、目の前でエミリンと仲良く帰ってるからないな。
拓あんは「俺、恋とか興味ない」でいつも他の女子を一刀両断してるし。
右川くんは……ないない。あたしのタイプじゃない。
日高くんは密かに他の女子にモテてるから、ないだろうな。
松尾くん? 全然興味なさそうだもんな、あたしみたいな女。
冨岡くんはあたしには高嶺の花だわ。
瀬戸くん……は好きな子いるでしょ。本人から聞いたし。
富士原くんはこないだ好きな子に告ってフラれたし(しかも、あたしが目撃者……気まずい)。
野村くんは周りからモテるから、女子がけっこう苦手らしい。これってでも、吹奏楽部は地獄じゃない? 女子率高いし。
「あ、ユーミン!」
クラスメイトが話し掛けてきたので、ここであたしの思考はストップした。
あの視線が何かよくわからないまま、2006年も終盤になりました。
「ん?」
いたいた。もう一人いたわ、ここに男子が。
「戸口くん!」
「あ、宮部先輩」
戸口 誠。坊主頭のヒョローッとした、バスーン吹き。
「家、こっちのほう?」
「はい。っていうか、ここです」
「え?」
戸口神社。マジですか。神社の息子だったの。
「へぇ〜! 神社の子だったんだ! ビックリ」
「みんなそう言います。でも俺、坊主だからわかるかな〜とか思ってましたけど」
いや、坊主頭=神社ではないでしょ。ま、この子ちょっと不思議なとこあるしね。
「ついでだし、おみくじ引いていきません?」
なんのついでだ、なんの。
よくわかんない流れのまま、あたしはおみくじを引いて帰ることになった。まったくもって脈絡がわからない。
「おみくじ1回」
「50円です」
あらま。意外と安いんだ。100円取るトコのほうが多いのに。
「ん?」
「何か?」
いま……お金がチャリンチャリンって2枚落ちる音しなかった?
「いえ……」
っていうか、この宮司さん背が高い。顔がよく見えないや。
「どうぞ」
あたしはちょっと大きめのクジ箱を揺すって、クジを出した。
「わぁお」
44番。なんて不吉。宮司さんはぎこちない手つきでくじを準備する。そんなに時間かかる?
「どうぞ」
大きな手から44番のくじが出てきた。
「あ」
意外。数字の割りに、大吉だった。
勉学:励めば励むほどよろし。
失物:すぐに出る男子に聞け。
恋愛:見えないところを見よ。
「見えないところ? 何なんだろ……」
よくわからないけど、大吉は悪い気がしない。あたしは何度も読みながら、家路に着いた。
「来るなら来るって言えよ。ビックリするじゃんか」
「しょうがないだろ。たまたま会ったんだし。それに、お前だって勝手に50円にするわ、お前ん家の近所のくじ代わりに渡すわでけっこうメチャクチャやってくれたじゃん」
俺、戸口 誠。バイトでってことで部の友達にお願いしたんだけど、コイツあの人のことになると急にメチャクチャするからビックリする。
「50円、俺からプラスして支払ったからいいだろ」
そういう問題かよ。やれやれ。恋は盲目ってヤツか。
「んで? そのくじにはなんて書いてるんだよ」
俺に促されて、ソイツがくじを引いた。
44番 凶
勉学:危うし勉学せよ。
失物:出ず。
「強烈だな」
「うるせー」
俺はその下に書かれている言葉を見て、ちょっとビックリした。
恋愛:捧げよ。
「……良かったな。いま、捧げたトコじゃん」
あ、嬉しそうに笑った。
ま、笑っても何してもコイツカッコいいしな。
「頑張れよ」
「サンキュ」
俺は友達として、お前の恋がうまくいくことを祈る。まぁ……宮部さんはかなり鈍感だから厳しいだろうけど。
「あ!」
思い出した。あの宮司さん、どっかで聞いたことある声してると思ったら。
「みーやんじゃない? あの声」
メールしてみよう。彼だったらいいな、とか思う自分がいる。
「よし……送信!」
メールはすぐに、送信されて彼の元へと行ってしまった。
すぐに返信が来ますように。
そう祈るあたし。
このくじには……君の温もりがある気がするな。