13♪ K I X
「お父さ〜ん……お母さ〜ん……」
なんでこんなことになっちゃったのかな。私が悪いんだけど。
和歌山のおばあちゃんの家に遊びに来たところだった。荷物を取りに行くからって私はお父さんとお母さんを待っていた。そのうちにちょっとお土産屋さんに行ったら、もうお父さんとお母さんのいた場所はわかんなくなってしまった。
小学3年生にもなって迷子です、なんて恥ずかしくて言えない。それくらいなら、お父さんとお母さんを自分で探すほうがずっといい。でも、もう30分近く空港内をウロウロして、いい加減足が疲れてきた。うちのお父さんは頑固だから、きっと迷子センターみたいなところには届けずに自分たちで私のことを探してるんだろうな。
「足が疲れちゃった……」
思わず座り込んで床を見つめる。寂しくなってきた。涙が出そう。
「なー、こんなとこで何やってんの?」
声がしたので見上げると、男の子が3人立っていた。
「……別に」
「別にって……。明らかにお前、変やもん」
明らかに変とはそりゃまた失礼な。
「やめろやお前。変なんて失礼やろ」
2人より少し年上らしい子が、変と言った子の頭を叩いた。一番背の低い子がジーッと年上の子の後ろに隠れて私を見てる。
「何?」
私が少しぶっきらぼうに聞くと、背の低い男の子は隠れてしまった。
「ねぇ、なんで君こんなトコにいるの?」
年上が聞く。この人なら言ってもいいかと思って、私は言った。
「迷子になっちゃったの……」
そうは言うものの、やっぱり恥ずかしい。
「迷子かぁ。ココ、広いもんなぁ」
頭を叩かれた子がウンウンとうなずく。
「インフォメーションセンターには行った?」
「行かない。迷子なんて恥ずかしくて言えない」
あーあ。私もお父さんに似たのかな。とんだ頑固者。
「そっかぁ。俺も確かに言わないかも」
ウンウンとうなずく年上さん。
「ね、君、名前は?」
叩かれた子が聞く。
「永井……雪子です。小学3年」
「俺は佐野 修平。同い年やね」
叩かれた子が勝手に私の手に握手をしてきた。人見知りしない子なんだ。私とは大違い。
「俺は岩切 翔平。コイツらより1つ上の、小4」
なるほど。1つ年上なだけでこうも印象というか、雰囲気が違うのか。
「ね、アナタなんて言うの?」
「……。」
背の低い子が黙ったまま、ギュッと翔平くんの服を握った。
「コイツ、すっごい引っ込み思案で人見知りすんの。だから、聞いても答えてくんないかもよ?」
修平くんが彼の頭をピン!と軽く人差し指で弾いた。
「そうなの?」
「……。」
やっぱり答えない。本当に人見知りなんだ。私よりスゴいかも。
「ま、別にいいけど」
そう言って私が立ち上がったとき、足がしびれて思わずよろけてしまった。ガシッ、とすぐに誰かが私を支えてくれた。人見知り君だった。私より体が少し小さいのに、しっかりと支えてくれている。
「ありがとう……」
「……うん」
初めて喋ってくれたのが、「うん」の一言だけ。それからお父さんとお母さんの特徴を伝えて、4人で一緒に探した。探してる間も、人見知り君は全然喋ってくれない。私は妙に人見知り君が気になって、気づけば目で追っていた。
「気になる? アイツのこと」
翔平くんが急に私にそう言ってきた。さっきみたいに「別に」と返せば良かったのに、私は素直に「うん」と答えてしまった。
「やっぱりなぁ。アイツ、やたらモテるの。俺とシュウとアイツでいたら、何か知らないけどアイツだけやたらモテるの」
「それって、女の子から?」
「ううん。男からも、おっちゃんもおばちゃんもおじいちゃんもおばあちゃんも、俺らより年下の子もみぃんな」
そりゃまたずいぶんスゴいんだ。確かに、何か彼の雰囲気はみんなと違うんだよな。
「いいなー。引っ込み思案で人見知りなのに、なんでそんなに構われるんだろうね」
私と大違い。私はあんまり、学校でも仲のいい友達がいない。見た目が暗いからかなぁ。本当は友達いっぱい作りたいんだけど。
「え?」
急に人見知り君が私の手を引いた。そんでもって走り出すから、ビックリも何もあったもんじゃない。翔平くんと修平くんも慌てて私たちの後を追う。でも、すぐに距離が引き離されていく。私が追いかけるのも精一杯なくらいのスピード。足がもつれて転びそうにもなった。
「きゃっ!」
急ブレーキ。さすがに止まれず、そのまま人見知り君に激突。
「ちょっと〜、いったい何……あ!」
「雪子!」
聞き慣れた、お父さんの声。
「大丈夫だったの!? スゴく心配したのよ〜」
優しい、お母さんの声。
「お父さん! お母さん!」
私は思わずお母さんに抱きついた。それにしても、こんな人混みの中で100メートル近く先にいたお父さんとお母さんを、人見知り君は見つけてくれたんだ。
私は振り返って、人見知り君にさっき修平くんがやったのと同じように握手をした。
「ありがとう。助かっちゃった」
「……ううん」
本当に言葉数の少ない子だな。男の子にしては、珍しい。
お父さんが人見知り君たちにお礼といって、私の住んでる神奈川の名産を渡していた。翔平くんと修平くんは嬉しそうに笑っているのに、なぜか人見知り君は寂しそう。
「どうしたの?」
「……。」
やっぱり答えない。私より喋らない子なんて初めて会ったかも。
「元気ないね」
不意に、人見知り君が言った。
「大阪の子やと思ってたから……寂しい……」
「ふぅん」
私は意味がよくわからなかった。もうすぐ和歌山のおばあちゃんが迎えに来てくれるってことになったから、3人とはここでお別れ。
「せっかくやし、写真撮っとく? 雪子、こっちでのお友達もできたし」
お友達って……散々迷惑かけたけどお友達でいいのかな。
「撮ろうや!」
「やったぁ! 女の子と写真〜!」
どうやら彼らには迷惑とかいうのは関係ないらしい。
「じゃあ、撮るわよ〜!」
そう言って撮影したのが、この写真。
その後、6年の時を経て私たちは再会した。
でも、その時の君は私ではない人を見ていた。
順番が違ってたらどうだっただろうか?
君は、私を好きになってくれたかな?
「あれ? その写真……」
後ろを向くと、陽ちゃんが立っていた。
「雪ちゃんと翔って、会ったことあったの?」
「……うん」
「そうなんだー! へぇ〜! スゴいね!」
陽ちゃんは今、この写真に写っている人見知り君――佐野 翔くんと付き合っている。私も一度、告白したけど見事にフラれちゃいました。だからといって、陽ちゃんと疎遠にするつもりはないけどね。
「翔はそのこと、覚えてる?」
「きっと覚えてないよ。でも、私は覚えてる」
「そっか……。聞いたことある?」
「ないよぉ。それに、今は陽ちゃんっていう想い人がいるんだから余計なこと考えないほうがいいの!」
陽ちゃんの顔が真っ赤になった。うん。今は、もう私も佐野くんを普通の友達としてみることができる。
「やだなー! もう! 今日、お昼おごってあげる!」
「本当! 陽ちゃん太っ腹!」
「なになにー!? オレもおごってーやぁ!」
佐野くんが素早く聞きつけて、陽ちゃんに絡んできた。ホント、この二人は仲が良いな。
もし、タイムマシンがあって、あの日の関西国際空港に行って、小学3年生の君にあの「寂しい」の意味を聞けたら――。
「想像するだけ無駄かぁ」
「どないしたん? 永井さん」
君の笑顔が好き。
君が好き。
今はもう、友達としてね。
多分。
「なんでもない! それより、お昼ご飯一緒に食べよう?」
「おう! 陽乃、おごってな!」
「だからおごらないっつーの! 雪ちゃんだけ!」
「ケーチ!」
私は二人のやり取りを見ながら笑うのが日課になってる。そして、私の生徒手帳にはあの日撮った写真が、お守りとして入れてある。
君の笑顔が、私の心の糧です。
KIXとは関西国際空港の空港コードです。空港コードとは各空港をアルファベット3文字で示したものを言います。