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11♪ 奪ってやる

「……。」

 ヤバい。緊張する。調子乗って見舞いとか……先走った? でも付き合ってる……から、見舞いくらいすべきやんな。うん。

 インターフォンを押そう……と思って手を引っ込めて、押そうとして、引っ込めての繰り返し。

 皆様、こんにちは。佐野 翔です。実は今、オレの彼女になったばっかりの朝倉陽乃の家の前にいます。陽乃、実はクリスマスの翌日から風邪をひいたようで、今日見舞いとかいう建前で陽乃の家へ来ました。

 そして今。インターフォンを押しました。

「はい」

 うぉっ! こ、これは……ラッキーなのか? 弟の夏樹くんが出た!

「あのっ! さっ、サンッンンンッ! 佐野です!」

「あ、佐野さん? 今ね、お母さんもお父さんもおばあちゃんもいないよ」

「そうなんか?」

「うん! 上がってくださいよ〜」

 なんというラッキー(?)な展開! おうちの人がいない! いや、夏樹くんはいるわけやけど。

「姉ちゃん喜ぶと思いますよ」

「ありがとー!」

「じゃ、俺となりにいますから、どうぞ」

 へ?

「あれ? 夏樹くんは?」

「俺は部屋でゲームしてます。あ、昨日はありがとうございました」

「いやいや。楽しんでもらえたなら良かった」

 昨日、オレは陽乃、夏樹くん、オレの妹の綾音と一緒にコンサートに出かけた。かなり寒かったから、多分それで陽乃は風邪を引いたんやと思う。

「じゃ、どうぞ?」

「え、えぇんかな」

「姉ちゃんきっと喜びますから」

「じ、じゃあ……」

 緊張する。初めて陽乃の部屋に入る。

「失礼しまっす」

 フワッと甘い香りがした。出窓があって、小さな植木が置いてあった。植木の両隣にはウサギとキリンの可愛い人形。本棚はガラス戸のついた、オシャレな木目が入ったもの。中には少女マンガがいっぱい。勉強机には冬休みの課題が置いてある。テーブルには七海高校の吹奏楽同期メンバーが写った写真が飾ってある。

「う……ん……」

 うわっ! 陽乃が目ぇ覚ました!

「ひな……」

「夏樹?」

 え?

「夏樹でしょ……。ちょうど良かった」

 え? え?

「喉渇いたの。ポカリ、持ってきてくれない?」

 ガビイィィン! 弟さんと間違えてます!?

「ね、お願い。しんどくてまだ動けないから……」

「わ、わかった。行ってくる」

 とりあえず下へ降りて、夏樹くんに断りを入れるのを忘れたのを思い出してもう一度上へ上がる。

「夏樹く〜ん。ひな……じゃなくて、お姉さんがポカリほしいって」

「あ! 冷蔵庫に入ってるんで、適当に入れてやってください〜」

 そんなんえぇの!?

 とりあえず下へ降りて、ポカリをコップに注いで持って上がる。あ。いま陽乃は夏樹くんやと思って言うてるんやんな。ほんなら……。

「ね、姉ちゃん。持ってきた」

 グハー! オレ、いま陽乃を姉ちゃんって呼んでる!? いいのこんなん!? 

「ありがと……」

 ゴクゴクとおいしそうにポカリを飲む陽乃。ヤバい。可愛すぎる。心臓がバクンバクン鳴って、理性が壊れそう。

「ねぇ……まだ熱あるかな?」

「どうだろう。体温計どこやったの?」

 夏樹くんらしい、弟らしいフリをなるべくせねば。とりあえず関西弁は厳禁。東京弁でね。

「わかんない……。ちょっと頭痛で記憶なくって」

 かなり重傷やな。その様子やと、熱まだあるんちゃうか?

「……? 何してんの」

 うわっ! なんか気づけば額を合わせてた……!

「ひっ、額当ててみたけどまだ熱があるみたいだよ! もう少し安静にしてなきゃ!」

「そう? 参ったなぁ……」

「無理しちゃダメだよ。ね?」

「わかった……。あ、感染(うつ)っちゃダメだから、アンタも用事終わったら部屋出てくれていいよ」

「わかった。ありがとう」

 自分がしんどいのに、弟にもしっかり気を遣う。やっぱりお前は優しいな。オレには見せへん、別の陽乃がおる気がする……。


 ……。


 ……あれ?


「ん……」

 ゲッ!? オレ、今まで寝てた!?

「いま何時や!?」

 うわ! もう5時半やんけ! 来たの……1時半やったのに。ヤバすぎ! 長いことおりすぎた!

「……よかった」

 寝息を立ててる陽乃の顔色が良くなった。

「熱も下がったな」

 陽乃の額にもう一度自分の額を重ねてみた。熱は下がってるな。

「ほな、そろそろ帰るな」

 陽乃に優しく声をかけた。


「うん。ありがとう……」


 ビックリした。寝言か。


「じゃあ。また来年……かな?」


 気持ち良さそうに眠る君の顔。その無防備さにドキドキしつつ、オレは部屋を後にした。ドアを閉めて……。このドキドキは何やろう。いつまで経っても収まらへん。


 誰か――教えてください……。





「38度7分」

 綾音の声が聞こえる。

「どこで風邪なんかもらってきたんやろうねぇ」

 オカンが不思議そうに首をかしげた。

「……わからへん」

 わからへんフリをしといた。偶然かもしれへんけど、陽乃は風邪が治ったらしい。メールが来た。メールには、こんなこと書いてた。


 翔がね、風邪が早く治るようにおまじない、かけに来たっていう夢を見たの。何をしたかはわかんなかった。そこで目が覚めたから。けど不思議だよね。熱測ってみたら、本当に熱が下がってたから。

 なんだかお礼言いたくてメールしたんだけど……翔は大丈夫なの?


「大丈夫やで……っと」

 オレは急いで返信した。うん。多分、オレはホンマに君におまじないをかけた。思い出したら赤くなりそうやけど……。




 脳裏に浮かぶ、君の唇。



 多分、熱があったんやろうな。



 君の唇から、風邪を奪ってやりました。



 なんてな。



 これはナイショ。誰にも言えない。ずっと……。






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