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8☆ あえて見る

 ここは小田急電鉄七海駅前の商店街にある、とあるCD&DVD屋さん。

 皆さん、こんにちは。瀬戸優輝です。今日はクラブが休みの日曜日。そして、今日は俺が買おうと思っていたビデオの発売日でもあるのです。

「……。」

 正直言って、気分が進みません。というのも、ジャンルがジャンルだから。でも、見ておかないと多分ダメ。なので、勇気を振り絞ります。俺はこういうの、大嫌いだけど。

「でも、話したいしな。ヨシ!」

 しかも、調子に乗って限定版なんか買ってしまいました。どうやら写真集付きのようで。こんな写真集持っていたら何か起きそうで怖い。

 話は変わるけど、俺は口下手です。俺がクールと呼ばれる所以は、ここにあるのです。口下手ゆえに、積極的に話そうとしない。ボーッとしているだけだけど、目元がシュッとしてる感じなので、クールに見えるらしく、俺の第一印象は「クール」。本当は違うんですよ、皆さん。

 そんな口下手の俺でも、話したいと思う人くらい、いますとも。もう16ですからね。

「ありがとうございました〜」

 店を出て、さっそくDVDのケースを見てみる。黒い背景に、不気味な赤い文字。します、します。不吉な匂いが。でも同時に、何かいい匂いもします。え? 怪しい? まぁそう言わず。恋心を抱いている少年の甘〜い妄想ですよ。


 ……。


 俺って案外バカなのかも。さっさと家へ帰りましょう。

 結局、DVDを帰ってすぐ見たものの、あまりにハードなのであまり記憶に残っていない。覚えているのは、水と女の人と電話。あぁ、ジャパニーズホラーの典型的パターン。

「うわぁ!?」

 突然、ケータイの着信音が俺の部屋に響く。ナイスタイミング。こんなタイミングで掛けてくるアナタは天才。

 なんてバカなことを言ってる場合ではなく、早く取らないと切れてしまう。でも、もしも妙な番号だったらどうしよう。不毛な考えばかりが頭を巡る。ディスプレイを思い切ってみると――。嬉しい4文字が見えた。

「もしもし!?」

「あ、もしもし〜。あたし!」

「わかるよ。表示に出るもん」

「あー、そうだったね!」

 嬉しい。君の声が聴けるなんて。

「ねぇ、質問!」

「何?」

「今日発売のDVD、買ってる?」

「うん」

「さっすがー!」

 もっと嬉しそうな声を君は上げる。でも、この後のセリフは俺の期待するものじゃないのを、いっつも言ってくれる。ううん、普段でも君は俺に一番言ってほしくない言葉を言ってくれるけどね。

「ねぇ、それあたしにも貸してくれない?」

 ほら。貸して。それ、嫌なんだけどな。

 じゃあなんて言ってほしいかって? そんなの、決まってるじゃんか。

「瀬戸くん?」

「あ、ご、ごめん。なんて?」

「だから……」

 また言うんだろうな。聞こえてたけど、聞き返す俺もバカ。

「やっぱやめる」

「え?」

 マズい。怒らせたか? 謝ったほうがいい。気まずくなるのは嫌だ。

「あのさ……」

 けど、君は俺の言葉を遮ってこう言った。

「今から行っていい?」


 はい?


「え?」

「だから、今から瀬戸くん家行っていい?」

「えぇ!?」

 俺は思考回路が停止した。ひょっとして、これって俺の妄想? 頬を引っ張ってみたら、けっこう痛い。ヤバい。妄想じゃないぞ!

「な、なんで?」

 とりあえず理由を明確にしておかなきゃ。

「なんでって……い、いいじゃん別に」

「え……」

「と、とにかく今から行くから!」

 君は強引に電話を切ってしまった。俺はツー、ツーという音だけを聞いて呆然としていた。

「や、やばい! とりあえず部屋を片づけなきゃ」

 10分程度で掃除(というより、物を押入れに押し込んだだけ)を終えたから、テーブルの上にクロスを敷いて、お茶でも入れて待っておこう。お茶より紅茶のほうがいいか?

「かあさーん!」

「何〜?」

「紅茶ある〜? できれば、レモンティー!」

「そんなもの、急に言われたってあるわけないでしょ!」

「チェッ。じゃあ何がある〜?」

「普通の紅茶にミルク入れてミルクティーにしなさいよ! 誰か来るの?」

「友達!」

「楽器屋のほうに用事〜?」

「違うよ。遊ぶだけ」

 俺は急いで下に降りて紅茶を入れる。できればティーバッグじゃないほうが良かったんだけど、そんなこと言うとまた母さんはうるさいんだろうな。

 紅茶を入れて上がったところで、インターフォンが鳴った。俺は急いで下に降りて、インターフォンの前で咳払いをして出た。

「はい」

「こんにちは! 吉山です!」

 ワ――! 本物だぁ!

「上がって。開いてるから」

 あぁ、なに俺素っ気ないフリしてんの! 俺のバカ!

「お邪魔します〜」

 それから部屋に入れて、少しお茶を飲んだり話をしてからいよいよ、DVDを見始めた。

「きゃっ!」

 やっぱりビビッたか。このシーン、俺はひっくり返ったから……ってえぇ!?

「ちょ、近くない?」

 吉山が、俺の腕を掴んでる! 全力だ、全力だ! 心臓爆発寸前だ!

「だ、だってこれ思ってたより怖い!」

「へ、平気だろ? 昼だし」

「……!」

 ますます吉山の掴まる力が強くなる。

「それに、瀬戸くんいるから平気!」

「……へ?」

「怖い時間共有する人いるから、平気!」

 はい。瀬戸優輝、昇天決定。


「ありがとうね! 今日はすっごく楽しかった」

「ううん。俺も」

「またヨロシクね。相談したいこともあるし」

「……うん」

 相談。そう。相談。何の相談かって?

「最近、冨岡くんやっとあたしに話し掛けてくれるようになったんだ」

 君の背中を、俺は追う。

「瀬戸くんが的確なアドバイスくれるから、とっても助かる」

 君は別の人の背中を追う。

「あたし、頑張るから! 瀬戸くんも何かあったら、何でも相談してね?」

 でも、俺は君が喜ぶ姿をもっと見たい。

「うん。今のところは大丈夫だよ」

 だから、俺は君の背中を押す。

「わかった! じゃあ、またね!」

 俺に勝算はある?

「バイバイ!」

 それを高くするために。

「またね〜!」

 俺は、あえて見る。



 ホラー映画と。



 君の背中を。





 

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