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第八章~神、魔族、そして人~

三階に仲間を残し少し罪悪感が残ったが己がここのボス倒さなければ被害は、増え続けるだけだろう。

「來斗っ!」

『に~ん~げ~ん~』

來斗の後ろを振り返らず着いて行く。時折待ち伏せしている小物を來斗がオフェロスの剣で切り裂いて(ころ)して行く。透は体力を温存しておけと言われ、ただ來斗の後ろを付かず離れず走り着いて行った。確かに上へと……



その頃、三階のホールでは三体の幹部クラスの魔族と隆二、葉月、鈴が対峙していた。

『ほう、人間の割には小賢しい真似を』

一番冷静で見た目が強そうな魔族には隆二が当たり隆二の聖刀『玉衝』と相手の大剣がぶつかり合っていた。

『貴様を喰らえば私は晴れて悪魔への昇格決まるな!貰うぞ!貴様の命』

重そうな大剣を(もろ)ともせずギィイン!と玉衝とぶつかり物凄い音が耳に響く。鼓膜が揺れている感覚に見舞われ足が(すく)われる隆二に、何も聞いている様子が見えない魔族。体格で劣る隆二がズササッと滑るコンクリートの上で踏ん張って玉衝と構える。

「これ以上好きにさせるわけないだろう!!」

柄を持ってダメなら刀身の歯の付いていない方の刀身の峰に体重を乗せて力任せに降り抜いた。


ザシュ!


『……ッ!』


降り下ろした際光に刃が飛ぶ。無我夢中で放った技だった為、隆二も何が起こったか良く分からず目を(しばたた)かせる。そう、その刃が魔族の片目を切り潰し……胸も裂かれて、魔族が血を流していたのだ。

「ハァ、ハァ……俺が、やったのか」

「隆二!油断するな!倒したわけではないのだぞ」

後方で見ていた蒼夜の声がしてハッと戦いに意識を向けるが、一歩遅く。

『ぎざまぁ!』

強烈な拳で殴られ玉衝でガードするが柱まで殴り飛ばされてしまう。

「カはっ……!」

物凄い衝撃で、意識が飛びかける。肺に溜まっていた空気を噎せ返ると同時に全身に走る激痛、頭を打ったのか?クラクラ視界が霞む。額を恐る恐る痺れている手に鞭を打ち触れてみると……ぬるりと生温く赤いものが手に着いた。

「クソッ……油……だ、んした、痛ぇ……」

「隆二くん!?」

咄嗟に葉月が駆け寄ろうとするが……。

『行かせるわけないだろう!喰らえ!魔術・風切(かぜきり)


ゴォオッ!


駆け寄ろうとする葉月の足を止める二番目に強そうな魔族が風の刃を飛ばして来る。

「じゃ私がアンタを早く倒せば良いって事ね!」

『出来るモノならヤッてみろ!人間が!!』


意識が一瞬飛んでいた。

「(玉衝は)」

隆二は額を袖で拭うやはりあの感覚は間違いが無かった様で無論出血はしていた。だがそれは相手も同じだ。隆二は隣に転がっている自分の得物(ぎょくしょう)を拾うと立ち上がる。痛い。体は悲鳴を上げている。辞めたい。逃げたい。正直……恐ろしい……。だが!


負けられない!負けたくない!


『貴様よくも私の目を潰してくれたな!』

「知るか!お前はここで()ぬんだよ!そう考えたら、平気だろ」

冷静に見えた魔族だったが、ブチギレると本性が丸分かりになり攻撃が単調になる。

『ならば私の闇魔術で骨すら残さんわ』

「口ばかりは達者なんだな!いいからかかって来い」

そのセリフで相手魔族の怒りのボルテージが上がる。隆二は「ふぅ~」と息を整えて頭の中にある『怒り』と言う感情を抑える。少しの間だったが來斗や蒼夜に比べれば全然弱い。彼からは足が動かなかった、一瞬で殺されてしまうと言うのではないか?と言う、気迫と恐怖を覚えたがこの魔族からはそれは感じなかった。


勝てる!


『闇魔術・流星炎郡!』

それは初めて見る闇魔術だった。一つ一つが紫色の炎の塊が相手魔族の振り上げた大剣の上に幾つか見える。避けるべきか?受けるべきか?この位ならガード出来るだろうか?

「隆二!」

「蒼夜?なんだ!」

「代わってやろうか?」

口の端を上げて余裕で仁王立ちしている蒼夜が後方から声を掛けて来る。隆二は『こいつには勝てない』と思われていると思い少し恨事(こんじ)したが、自分は今満身創痍だ。体中も痛い!だがそれは相手も同じ筈!

「無用だ」

「ほうでは頑張れ」

『残す言葉はないか!?』

「それはお前だ」

『戯言だ!堕ちろ!』


ドドドドドドドドドッ!


堕ちて来る紫炎(しえん)の塊、先に着弾した炎で爆炎と煙が上がる。暫くして全弾着弾し確かな手ごたえを感じていた魔族が高笑いを始めた。

『アーッハハハハハ!所詮人間!脆い!脆過ぎるぞ!』

「馬鹿め」

『!』

蒼夜が砂煙の向こうで呟く。

『獣人がぁ!生意気だぞ!今、殺した人間も生意気を極めていたが、貴様は私達の下に()くのだから、精々恐ろしい調教が待っていると思え獣!』

「私の主人は生憎、來斗様だけなのでな。それにお前は少し人間を甘く見ていないか?」

『!?まさか!』


ゴォォッ!


蒼夜が風を起こす光の聖術でシールドを張っている隆二がいた。

「シールド解除!くらえ!」

一気に加速して反撃の隙を与えない。隆二が地面を蹴ると玉衝を強く握り締め、首に向かって刃を振るう。


ザン!


「人間……舐めるな!傲慢にも程があるだろ」

ボトリと落ちる首、体はそのまま膝を着いて倒れた。

『兄者!?貴様ぁ!』


ドゥッ!


「残念ね?貴方の相手は私よ?」

葉月を相手にしていた羽の生えた弟らしき魔族が、体力を使い切り脱力している隆二に向かったのだが、葉月が弟魔族の頬に威嚇射撃をすると耳を貫通する。

『ギャァアア!オンナァ!!』

目を見開き青筋を立てている、そんな顔に思わず恐怖で「恐ろしい」と思ってしまう。しかし隆二だって一体倒した。透は來斗と一緒にボスの所へ……鈴も何かがぶつかり合う音がする。自分だけおめおめと逃げ出す訳にはいかない。自分にだって出来る。やれると信じて紅焔を握り締める。

「蒼夜くん!隆二くんをお願い!」

「……あぁ」

「さて、魔族二号!お兄さんに仇を打ちたいなら私を殺してからにしなさい!」

『ふ……巫山遊(ふざけ)るなーーー!!俺は兄者より力は劣るがスピードは俺の方が上だ!俺の速さに付いて来れるかぁ!』


ヒュン!ヒュン!


空気を裂く様な音が耳に入ってくる姿は目視(もくし)では影の様なものしか確認できない。

『俺の風属性の魔術と飛行能力が合わされば人の目では追いつけまい!』


ザシュッ!


「……ッ痛っ!」

『さぁ次はどこを切り裂いてやろうか!』

太ももから出血し、咄嗟によろめいてしまう。次は肩、頬とどんどん切られるがまだ傷はそんなに深くない……。

「(手を、抜かれている……)」

だが切られている傷を見ると一部はどうやら鋭利な刃物で恐らく魔族の体のどこかで切られている気がした。

「なら……アレが出来るわね」

葉月は自分の血を紅焔に着ける。そしてヒュンヒュン!と飛び回っている魔族は早過ぎて目で追えないが一応見えた所へ向かって炎の弾丸を打つ。

炎追(えんお)い」

『どこ向かって打っている!馬鹿め……ぎゃアぁあ!!』

「炎追いは追尾弾よ!貴方の自慢の刃物に私の血が付いているなら私の血を追わせる事くらい簡単なのよ」

羽に着弾したのかボゥボゥと燃えている。

『俺が飛べるだけだと思うなよ』

そう言うとその魔族は自分の両腕で両翼を掴みビリビリと引き千切り始め、最終的に燃えている部分ごと、(むし)ってしまう。

「!」

『翼などリア様に元に戻してもらえば良い!』

ブシューと、青い血をそこら中にばら撒きながら毟った翼を捨てる、毟り落された翼は無残にも消滅し消えていった。

『お前、リア様が申されておった銃火器を使う戦士は自分の属性の分武器を所有しているかリボルバー式にしていると、だが貴様は銃は一丁、おまけに銃に何かしら細工しているわけではなさそうだな……貴様、一種類……先ほど使った火属性、一種の属性しか持ってないだろ?』

「……っく、それが何よ!」

確かにその通りだ大抵、二属性なら二丁で両足のホルスターにしまい違う属性ずつ攻撃したり。三丁以上持つ者は少なくそれこそこの魔族が言うようリボルバー式にしてその人各々に合わせて銃をカスタマイズするのが一般的だ。

『魔族は強い者ほど使える技と属性が増やす事が出来る!見ろ』

その魔族は胸元に爪を刺し強引に二つに引き裂く。そこには何やら見た事のある赤黒い石が胸に一つ、二つと埋まっていた。それを見せると魔族はニヤリと笑うと。

『俺は二属性使える!俺の勝ちだな!貴様を倒したらリア様からそうだなぁ……火属性を貰うとするか、貴様の核を基にな!』

魔族の体の構成は分かった。幼い頃、魔族は生まれて最初に闇属性の魔術を叩き込まれるとはそういう事なのかと納得する自分がいた。それである程度人を殺したりすれば魔族の中でも偉くなり、その殺した人間に元々向いている聖術の核の様なものを何らかの形で取り出し上の魔族や悪魔に魔術に変換して貰い、自分に石として埋めて貰える様になるのだろう。

「なら貴方は闇と風と言ったところかしら?」

『ほう?イレギュラーもいるが俺に対しては当たりだ』

それが分かれば少しは対処の仕方もあるし、戦い方次第では勝機だってあるかもしれないと思っていると。

『少しでも勝機があると思うなよ!俺は闇属性も使えるのだぞ!くははははっ』

下らない。葉月にとってそんなもの屈辱でも何でもない。今まで散々親や親族に言われて来た『お前は一族の恥だ』『火属性のみだけなんて世も末』と散々罵倒されて来たのだから、だったら極めるだけ!と思ったし、今は來斗と蒼夜に出逢い水属性の適正もあると言われ。後はどちらも極めるだけ、自分を侮辱し罵倒してきた親。親族。一族に対して見返す!ただそれだけだ。


もっと高みへ!


「私は貴方を超えるだけ!行くわよ!」

『戯言だ!』


火の聖術中級・爆焼(ばくしょう)


大気が熱くなり今まで日も当たらない院内は少し寒いくらいだったが、葉月の周りだけ急激に温度が上がる。しかも外さんとして危険を承知で相手魔族の間合いに走る。

『グアア!』

葉月の攻撃は魔族の肩に当たり左肩を吹き飛ばし霧散した。

『またかぁ!!!オンナァ!』

「!」

魔族は右手で葉月を握りそのまま握り潰そうとする。強い聖術を使い脱力しているところを捕まった。逃げるのが遅れた。

「あ、あぁ!ぐっあぁ!」

ミシミシと体の骨が悲鳴を上げる。片手を使えなくし、力自体も半減しているはずなのにそもそも持っている基礎パワーが人間とは比ではないのだ、葉月は上半身を掴まれ逃げられなかった。

「かは、こ……の……」

腕に力が入らない。紅焔を握る手からどんどん力が抜けていく、意識が、遠のいて目が霞む。

『死ネーーっ!』

だがこの魔族は……こんな雑魚魔族にやられていたら後輩、同じく切磋琢磨してきた祓魔師の皆さんに示しがつかない!

「お、大、ぐち、……あけ……て、死ね……」

最後の力を振り絞る。幸い、紅焔を握っていた手は捕まっていなかった為、腕を上げて銃口を魔族の口に突っ込み。


火の聖術中の上・蒼炎(そうえん)


『ギャァアアアアア』

放たれた青白い炎の弾丸は口から入り真っ直ぐほぼ垂直に床に向かって貫通し、燃やした。葉月は握り締められていた手から床にズルリと滑り落ちた。

「はぁはぁ、か……はっ……ゲホッゲホッ!」

紅焔を握っていた手は痺れているし、反対は骨にでも(ひび)が入っているのだろう激痛で悶えそうだ。だがまだ神力が微かに残っている、まだ、戦えそうだ。

「早く、早く……鈴ちゃんに加勢に……」

ビリビリと体が動かない……。限界なのか自問自答していると……。

「寝てろ、お前が行っても邪魔になるだけだ」

「あの子は、鈴ちゃんは……初の魔族戦なの……しかも嫌な予感がする」

「だが、なかなかいい動きだ……隆二とお前のお陰かもな」

それを聞くと、なぜか安心して両足から床に倒れて、少し目を閉じた。

「少し、休ませて、ごめんなさい」

「良く、頑張ったな……葉月」



「アンタの仲間二体とも死んじゃったわね!」

鈴の隣で風狼がビュビュウと風を纏わせながら鈴に擦り寄りそれを鈴はペットを撫でるように撫でながら向かっている魔族の『子』を挑発する。

『まぁ僕は彼等とは違うからね……』

「同じよ」

少年サイズの最後の幹部らしき子が鈴をギロリと睨む。

『僕は人間とお……リア様のハーフだもの格が違うよ』

「!!」

鈴は目を丸くした。まさかいやあり得ないことかもしれない……。もう自分の耳を疑うしかい話なのだが真実とも思えた。なんせこの子からは魔族独特の嫌な気配はするのだがどこか人間らしい温かい部分もあるのだ。

『お姉さんも、僕のお父さんを(ころ)しに来たの?』

(あどけな)い表情で鈴を見上げて来る人間年齢は十歳前後の様な気がして実力が分からない。

「こ、事と次第によっては滅すわ……」

『ふぅん』

すると、一気に間合いを詰められ

「鈴!しゃがめ!」

「え?は、はい!」

後ろから蒼夜の大きな声がして思わずしゃがむ、鈴がしゃがむと後ろにある壁が破壊と言うか丸く(えぐ)れる。

『凄いね、獣人のお兄さん……僕の初動はその刀を持ったお兄さんと戦った奴と銃のお姉さんと戦った奴でも捉えることが出来ないんだけどね、式神のお姉さんもギリギリで避けた様だし?思ったよりやるね』

パチパチと小さな体で称賛の声を上げて拍手をしている。鈴は固まっていた。恐らくこの滅された魔族はこの子を守っていたのだろう。自分に出来ることは足止めくらいだろう。怖い、恐ろしい、逃げたい。ほぼ無傷なのに既に汗が止まらない、コンクリートの床に汗が一滴落ちる。

「(このままじゃ……私の実力じゃ死ぬ、殺される……この子はきっとリアの各隠し玉なんだ、半分人間だから邪力を気付かれない様にしてたんだ……私じゃ無理敵わない)」

脳内でグルグルとその一つの考えしかない。(まばた)きもせず恐怖による震えと汗が止まらず、握り締めた拳はじっとりと濡れている。

「鈴……だ、い丈……ぶか?」

「す、ずちゃ……ん」

「部長……?葉月先輩?」

「立、てる……か?」

ボロボロの二人が気付いたら左右に立っていた。隆二は先の戦いで頭部から出血、肋骨を一、二本罅か折れているだろう。葉月も切り傷が絶えず左手の骨には罅が入っているだろう。

『あーあ、お兄さん達起きちゃったの?後で始末してそこで固まってるお姉さん共々僕の人間コレクションに加えてあげようと思っていたのに』

稺い顔をして恐ろしい事を平気で言う辺りはやはり魔族なのだろう。

「部長!葉月先輩!休んでて下さい!私だって足止めくらい……」

「後輩は、黙、って言う、こと……聞け」

「ゲホゲホ」と咳き込みながら隆二が前に出て玉衝を構える。

『そーだ!式神のお姉さんこの二人殺さない代わりに僕の子供産んでよ?ね?いいでしょ?』

「え?」

下品な事を顔色一つ変えず平気で口にする。その下品な台詞に隆二、葉月は怒りに震えた。今までこんなに怒りを覚えたことがない。(はらわた)が煮えくるとはこの事がぴったりな言葉だった。

『僕のお母さんは祓魔師だったんだよね♪何人か来て一番まともで綺麗な人間だった選んだみたいだよ。魔族は強くて優しい子が好きだから気が強いのはダメだね。そんなお母さんはお父さんに見初められて、縛り上げられて僕を孕んでくれたみたい☆死なない程度に無理矢理孕まされるってどんな気持ちなのかな~♡でね?僕を生んだ時に神力と聖術を僕に奪わて用済みになって捨てたら勝手に死んだみたい、まぁ捨てられたし死んだみたいだから顔は知らないんだけど?僕は半分人間だしそんな酷い事はしないよ?躾と調教なら任せてよ、大丈夫だよ!』

とてもまともな性とは言えない。狂っているとも思え、吐き気すら覚えた。後はもう怒りと言う感情……。心の底から人間を(なじ)る魔族が本当に正気の沙汰とは言えず。三人、特に葉月と鈴は恐怖と怒りに震えた。だが魔術と聖術を使えるかもしれないと思うと、こちらが明らかに分が悪い。

大した時間は経っていないが何時間も経っている気がする。ただ空気が歪む。

『獣人さんとはやる気はなかったけど、僕のペットとして生きて欲しかったから?ねぇこんな脆弱(ぜいじゃく)な人間と一緒に居る方が出世できると思うよ?』

所詮子供の言う事だ。戯言だ。分かっているが來斗への忠誠心を(さげす)まれている気がして來斗を軽く見られている気がして蒼夜は怒り、酷く憤慨した。

(おご)るなよ!弱小魔族が!」


ガッ!


確かに、先ほどまで三人の人間の後ろに居て歩き出して近付いてはいたがなぜだろう?と思う間もなく首を抑えられ持ち上げられている。蒼夜の身長の半分程しかないそのリアの子供は高く掲げられバタバタと暴れる。

「確かに私は幼少期は魔神に育てられた、だがそれはもう過去の事だ!私の主人は來斗様だ」

『カッ、ハ……』

ギリギリと頭に指が食い込んでいくと赤い血がポタリと床へ落ちた。

「どうせ名も貰っていないのだろう?私は來斗様のように慈悲深くないのでな、せめて安らかなる死か、苦しみに悶える死かは選ばせてやる」

『げほっ!ゲホッ!ハァっ!はぁ!』

息をするとやっとの思いで這い(つくば)りながら逃げる様とする。しかし

「待て、どこへ行く?」


ボボウ!ズシュ!


『ぎゃぁああアア!』

火の聖術の矢で右脇腹を貫通させ床に固定させる蒼夜。もぅ肉の焼ける臭いが立ち込め、血を吐きながら藻掻(もが)き苦しんでいる。既にその境地は拷問に等しかった。

「親の罪は子の罪でもあるしな、それにお前が一番お坊ちゃまで躾が成っていないのではないか?」

「ゴメんなざい!許じでグだざい」

人間三人は見ていることしか出来なかった。蒼夜の來斗への忠誠は生半可なモノではないからだ。それを指し終えて自分をペット?心から冷めた。

「まぁ私も貴様の様な幼い魔族……しかもハーフを手に掛けるのは惜しいがお前を滅さなければ母親の命も浮かばれまい」

『え?ぎゃアあぁアアア!!!焼げる!熱いアヅイよーーー!おどうざまー……』


シュゥウウ……


後は燃えた。焼けた死体の灰になって窓があったところから風が吹くとその焼け落ちた灰は虚しく中空を舞った。


[ありがとう……スミマセン……]


どこからか女性の声が残った四人の耳に届いた。

「やっと縛られていたモノが解けたか」

そして四人は手を合わせて階段を見たが。

「鈴、この二人は置いて行く式神で二人を運んでここを出れるか?まだ弱小だが魔族が集まる気配がする」

「は、はい!守って脱出します!脱出したら風浪を走らせます」

「よし」

「こっちは大丈夫だ。透を、たの、む」

「ぁあ!」

そう言って蒼夜は階段を駆けて行き、次第に気配と足音も聞こえなくなった。


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