第六章~神、部活動への参加~
昨日、葉月の武器開発したいと話をしていて構想や希望、適性聖術の再検査で水属性への適性を新たに受け、話し合っていたら遅くなってしまい疲弊してウトウトしていた所を蒼夜が背負い家まで送ると父親が出て来て蒼夜とはどういう関係だと和解するのに結構な時間を食ってしまい……日祓に戻った頃には夜の十時を過ぎていた。
それから夜中~朝にかけて來斗、蒼夜、楓を中心に葉月から採血した血液を使い聖水術に応じた青碧色系の銃を作り上げた。
「さて蒼夜、もぅ朝だが……眠いか?私はこの程度は大丈夫なのだが」
「私も大丈夫です、フェンリルは常に主人を守るために在るので主人に何か無いように眠りません……來斗様のご命令ならば仕方ないのですが…………」
來斗はそれを聞くと「ふむ」と考え、今居る応接室にある時計を見ると朝七時半と少し前であった。
「では私も十分程体を休めるとする、蒼夜もその間休むと良い、良いか?これは命だぞ!」
「は!勿体無きお心使いありがとうございます」
「では楓、十分程の間膝を貸せ」
ゴロンと來斗がソファをベッド代わりにすると横になり端に座っていた楓の膝を枕にしてあっという間にスースーと眠りに落ちた。
「フフ……寝顔はまるで子供の様……」
「楓様もお体に障ります、お休みください……私めはここで充分でございます」
蒼夜はドアの前にドカッと座りクークーと寝息を着いている。そして仮眠に着いた二人を起こさぬ様に風の聖術で防音壁を張った楓だった。
「!!」
蒼夜が起き上がる。
「蒼夜か、私も今起きたのでな……今起こそうと思っておった」
來斗も少し前に起きたのだろう……。少し髪が乱れている。楓は起きていた様だが、二人が起きたのは何故か分からない。二人が目を覚ましたのは不穏な気配を感じた、それはどこか懐かしさも同時に覚えると言うか思い出すモノだった。
「來斗様……これは?もしや……」
「あぁ、私が気付かない筈がない捉えた気配は今は消えておるがな……」
來斗が両腕を組んで考える。楓も感じたのだが知らない負のそれも邪悪なエネルギーのみ。
「來斗様この気配は何でしょうか?」
「あぁ楓は分からないか……先刻あった気配はアヴァレルの愛刀……魔剣ヴォルガの気配だ」
三千年前に魔界と共に滅びたのではなかったのかと來斗は眉間に皺を寄せる。
「人間界にはまだまだ調べなくてはいけない事がありそうだが……あの剣はアヴァレルでなければ触れられない」
「そうですね、私も触れれば恐らく闇に呑まれてしまうでしょう……」
どうやらこの辺りにパンドラの箱以外に守らなければいけないものがと思うと顔が引き締まる。楓もこれは自分の出来る事で少しでも協力しないと強く心に思うのであった。
「では、学校へ向かおう……蒼夜!」
「は!」
三人で入り口に戻ると來斗が聖光術で光を放ち包む様に周りから三人を見えなくする。するとみるみる内に獣体になる蒼夜。その様相は蒼い艶やかな獣毛が風に靡き朝陽を浴びてキラキラと光綺麗だ。
『では來斗様、楓様お二人とも私の背にお乗り下さい』
「うむ、やはり蒼夜の獣体は壮麗で美しいな、さぁ楓……いや母上も蒼夜の背に乗ろう」
「わ、分かりました、、、しかし私の印はどうしたのですか?」
それを聞いて來斗と獣体の蒼夜は顔を見合わせ少し苦笑いをする。それはどこか今までの行動をはぐらかす様で楓は流石に不機嫌までは行かなくとも何だかモヤモヤする。
「スマナイが楓、折角の印だったが一日と保たなかったのだ……勿論印としては完璧だっが……な!蒼夜」
『私めも來斗様と同じで御座います』
呆れた。所詮自分の術の力等、全知全能の神と不死のフェンリルの始祖の生まれ変わりでは己の力とは掛け離れ過ぎていて保つ事が出来なかった様だ。
『私め獣体は見えなくする事も出来ますし、家まで真っ直ぐ空を走るのでご安心下さい』
蒼夜の背に乗った二人に話し掛け楓を安心させる蒼夜。するとビュウウ!と空の上を駆ける。蒼夜にとっては來斗と楓の重さ等あってないようなものなのでゴゥウと風の様にとばす。楓は元々神と言っても元は人間だ恐ろしい程の風圧に少し苦しくなる。
「寒くはないか?かえ……母上?」
『母上様もうすぐ家です、母上様はしっかり朝食を摂って下さいね?』
フワッと地上に足音もなく降りると、ジャラリと鎖の音がした。蒼夜の右手には巨大な手錠がされており獣体の時しか見えないものが残されていた。噛み千切ろうともしたのだろう……噛み傷が手錠には生々しく残されていた。だがその手錠には古い呪いが施されており蒼夜一人では外せない様だった。その鎖を見ていたら蒼夜は苦笑いをして……
『母上様これはアヴァレル様に付けられたモノです』
「なぜ外さないのですか?」
「私なら破壊してやると言ったのだが……」
それを伝えた時『これはアヴァレル様から頂いたモノなので……』と、アヴァレルを忘れきれて居ない弱い蒼夜がいた。しかしこの手錠は蒼夜が我を忘れて魔族に襲い掛かった事があった為アヴァレルが仕方なく着けて神力を解放できなくしたのだった。今は鎖を半分千切り鎖も短くした為これでも一応獣体の体であれば魔神の首に噛み付いて致命傷くらいは与えることが出来るであろう……。
楓と別れた來斗と蒼夜は学校へ向かった、すると校門の辺りに何やら人だかりが出来ていた。バチッと天水晶も何かの侵入を阻むように音を立てている。
「風花止めろ!」
「風花ちゃん!」
何やら先から感じる禍々しい気配。
「分かるな蒼夜……私が引き離す、始末するのだ風花に人の心の記憶を戻す」
「はっ!」
二人は走り、先ず風花の周りに集まっている者達に風を飛ばして二つに割って道を作る。
「來斗!風花が何か変なんだ!」
一樹が今までに見たことのない表情で來斗に縋る様に声を上げる。
「分かっておる、風花に罪を犯させる訳無かろう?お主ら……少し離れておれ」
すると禍々しい歪んだ気を放っている。風花に向かって手を翳すと……。
「聖光!」
恐ろしい程の速い光が來斗の手から放たれる。その光が風花の体を貫通すると黒い影のようなモノが風花の背中から引き剥がされる。
「蒼夜!」
「はっ!」
蒼夜は高く跳び聖凍術で作った槍で逃げようとする魔族の影を脳天から突き刺す。するとその魔族の影の様なモノは、一瞬にして凍付きパキィイイン!と割れて消滅した。
「フン……雑魚が」
「おい!風花!?大丈夫か!」
一樹が倒れている風花に駆け寄って、体を揺らしていると……風花の瞼がうっすら開く。
「ん、私……つっ、頭……痛い」
來斗がゆっくり歩み寄る。そして風花に手を翳す……するとパァっと光り……。
「あ、ふぅ……」
ゆっくりと一樹に手を引かれながら立ち上がる。何とか覚束ない足で一樹に支えられ少しずつ歩みを進める。
その背を來斗と蒼夜も見守る形で立っていたが來斗は何かを思い出しかの様に風花に近付く。
「風花、お主……学校へ来る際何か無かったか?」
「う~ん、あ!何かこんな暑いのに真冬のベンチコートっぽいのを頭からスッポリ被った……男の人?みたいな人が赤い指輪を落としたから拾って……それから……あれ?どうしたんだっけ?思い出せない……」
頭に手を当てて目を瞑り考えるが何も思い出せない。來斗は「ふむ」とどこか納得したかの様に頷き、蒼夜に目配せをする。それは蒼夜にも伝わったらしく、蒼夜は一歩下がり軽く礼をして校門の外へ出る。そして道端の隅を隈無く探し幾許もしない内に何かを拾って來斗の元へ戻って来る。そして例のモノを來斗に渡す。
「これですね?來斗様」
「ほう中身は空か……格下魔族は指輪に一匹の弱き使い魔の魔族しか入れられない様だな」
その赤い光を失った指輪をまじまじと見ながら來斗は「ハッ」と鼻で笑う。すると前を歩いていた風花の膝がガクガクと行って歩くのも覚束ない様でフラフラしている。
「!……蒼夜、私は風花を保険医の所へ連れて行く、一樹も教室に戻ると良い……」
「分かりました、では……」
「頼んだぞ、來斗」
周囲の目も気にせず來斗(一応二年)が蒼夜(一応三年)を従者の様に扱っている。あの二年は何者だ!?とか話す生徒も居たが、それは勿論來斗と蒼夜の耳にも届いていたが今はそんな場合ではない。今風花は魔族に体力を奪われている上に來斗の見たことのない症状を見せている早く休ませねばならない。
「すまない!保険医殿はいるか!?」
ドアをガラリと開けるとそこにいたのは女性。椅子に座っていて、來斗が入ってくると椅子をキィッと鳴らしドアの方を見た。
「あら?その子は、どうしたの?」
「うむ、魔族に取り憑かれて……その魔族は祓ったのだが体力の戻りが少し遅いのでな休ませてくれ」
するとその女性は立ち上がり駆け寄る。そして額に手を当てて……。
「聖症ね」
「聖症……?とは?」
來斗は初めて耳にする症状に戸惑いを隠せない……なぜなら神界にはその様な病気や症状はないからだ、それが病気すら分からない。來斗は総ての医学書を把握しているが所詮神界の物。人の体については神、邪神、天使、悪魔、獣、神獣、魔獣等とは違うのだろう。
「貴方……もしかして祓魔部の天内來斗くんでしょ?龍介くんが二人も部員が増えたと喜んでいたもの」
「?お主は?」
「失礼、私は祓魔部の顧問の箱崎悠子って言うわ、祓魔師専門の医者なの普段はこうして学校の校医をしているけどね?勿論、戦闘訓練は受けているわでも主な仕事は祓魔部の皆の指導と治療よ?」
いつもの來斗なら「うむ、よろしく頼む」と……言いたい所だが今は違う、この『聖症』と言う症状については全くの無知。來斗はどうするべきか乞う立場なのだ。すると悠子は椅子に座り紙にサラサラと書いて、キャスター付きの椅子に座った侭ベッドに寝せた風化の横に来る。
「貴方、生徒会の……風花ちゃんね?どう?今の体内の感じは?」
「は、はい……頭はハッキリしているんですが手足がまるで別人の物かの様に思い通りに動かないし心が光っていて、動けない程ぐったりしている筈なのに心が光っているせいで頭がハッキリしている感じです」
來斗は思わず脳内にペンを走らせた。逸早くこの聖症と言う症状について知りたかったからだ。恐らく個人差はあるんだろうが聖症と言う症状は人間にはあると言う事を知っておかねばならなかったからだ。これは神としてでもある。
「來斗くん、聖症と言うのは神力の低い人間が強い聖術を浴びる事で出る症状なのよ、この子が魔族に心を奪われそうになった時、無理に急いで強い術を使ったんじゃない?」
「……そうやもしれぬ、誠に魔族に奪われれば同化して魔族化してしまう故……急いだやもしれぬ」
すると悠子は自分の机の方へコロコロと戻り並べてある並べてある本を何冊かペラペラ捲る。
「來斗くん、それは昔の話よ?現在は二十歳までの子供には心の総てを魔族に奪われないようにするワクチンがあって世界共通で生まれて直ぐに投与する義務があるのが普通よ?効果は個人差が在るようだけど」
「そうであったか効くとどうなるのだ?」
「体内で下級の魔族を滅したと言う事例も記録として残ってあるわ」
しかし悠子は“二十歳まで”と言っていた。ではでは恐らく悠子も含めそれ以上の大人は手遅れになってしまうと言う事が多いのか……と思う。
「……察しが良いわね、その通り日祓がこのワクチンを作ったのはここ二十年……比較的最近で私を含めた大人に今から打っても効果が無かったのよ……今現在世界の二十歳以上の大人の魔族耐性は極端に低いわ」
「ふむ……聖術ならならば……無属性なら…………ブツブツ」
來斗はそんな事をブツブツと呟いていた。そして悠子が風花に何やら治療を施している様なので立ち上がりカーテンより外へ退いて、保険室内をウロウロとしながら考える。そうこうしている内に一限のチャイムが鳴って休み時間になり一樹が走ってくる気配がした。
「來斗!風花は!?」
「!あぁ……それは……」
「安心しなさい、今は眠っているわ」
悠子はゆっくりカーテンの隙間から一樹に風花を見せる、どうやら今は聖症は落ち着いて居るのだろうスースーと穏やかな寝息が聞こえる。一樹がカーテンの隙間から中に入りベッド横の椅子に座り風花の手を握り寝顔を見て安堵して目を潤ませながら「よかった」と絞り出していた。
「どうやったのだ?悠子殿?」
「大丈夫……邪力を少し吸わせただけよ、つまりプラスエネルギーに傾き過ぎた体に邪力のマイナスエネルギーを与える事でプラマイゼロにしただけよ」
そう言って小瓶を棚に戻し鍵を掛ける。恐らく日祓の支給品なのだろう治療用の物なら聖水晶も反応しないと言う事か……。
「なるほどプラス・マイナスをゼロにしてしまえば症状も治まると言う事か……」
來斗は納得し少しホッとする。そして何より來斗は神力の根元だ。そして兄アヴァレルは邪神の頂点に立つ程の実力の持ち主だ。アヴァレルとは同じカオスから生まれた為、兄に出来て弟の自分に出来ない事は無いとも思えた。何しろアヴァレルは元々神界の住民だったからだ。
それと恐らく神界生まれの魔界育ちの蒼夜も使えるだろう……邪力を使った邪術(魔術)を……。末恐ろしい事だこの二柱が敵になったら世界は終わってしまうだろう。
「私は急用が出来た、悠子殿!私は祓魔部に向かわせて貰う!」
一言、そう悠子に告げ來斗は保健室を後にした。そして事の次第を話す為、蒼夜を心の中で呼ぶ。
『(蒼夜、お主今来れぬか?)』
既に次のチャイムが鳴り授業が始まっていて辺りはシン……としていた。しかし
『(ご命令とあればどこへでも)』
どうやらこのテレパシーは人間界でも健在の様だ。蒼夜と視界を共有すると真弓が黒板に数式を書いていたどうやら“すうがく”の授業の様だ。
『(急用である少し急いでくれ)』
『(は!)』
三年のグラス……
「真弓殿!」
「何ですか?天内蒼夜さん!」
急に立ち上がり机に掛けていたバッグに広げており何も書いていないノートと自分の教科書を乱暴にバッグにしまう。
「すまないが急用が出来た故、早退する」
ガタンと立ち上がりスタスタとバッグを持ちながら颯爽と立ち去る。だが廊下に出る出入口の所に真弓が立っていた。若干息切れぎみである。
「わ、理由を言いなさい!」
「理由等無い、勿論來斗様がお呼びだからだ」
その理由に真弓は少しムッとした表情を見せる。なぜ?自分の授業より一つ下!一学年下の!天内來斗と言う弟の命令の方が大事なのだろう?少し嫉妬に似た感情が沸いて来る。何か気に入らない……別に來斗とは主従関係にあるのはどこと無くわかるがそんなに謙るなんて日本じゃあまり聞かない話だ況してや兄弟で……。
蒼夜の行動に少し考える葉月……。
「天内來斗さんと私の授業!受験生の貴方ならどちらが大事か分かるものだと思うんですがね!」
「……來斗様を侮辱する様なら、教師と生徒と言えど立場を覆してでも真弓殿がそれ相応の対応をするまでだ……」
すると一瞬にして蒼夜を中心にピシピシと床が一面凍り付くコォオ……と六月の晴れの日にしては冷凍庫に居る様な感覚になる。真弓の汗も今にも凍り付きそうだ。
「ま、待って蒼夜くん!ストップ!ストーップ!」
「葉月……」
「一ノ葉さん!?」
突然葉月が入って来て、蒼夜を止めると凍りは一気に蒸発して二人が葉月を見る。
「真弓先生!きっと來斗くんが呼んでいるって事は祓魔部の事なので、私も蒼夜くんと一緒に行きます!課題!後で職員室に取りに行くので!」
「い、一ノ葉さんも……い、くの?」
「構わぬが、葉月も来るのか?」
「勿論!」
すると葉月は蒼夜の手を握ると荷物を纏めて教室を後にした。残された周囲は葉月は何だか人が変わったなぁと思っていた。……勿論良い方にだが。
祓魔部の部室へ着くとそこには來斗は勿論……隆二、透、鈴そして顧問の龍介の姿も既にあった。鈴は呼び出されたのだろう……。隆二は学校へ来るだけで全授業単位が取れる。透は不良気味なので恐らく隆二にでも声を掛けられたのだろう。透は天の川学園に求められている程の能力が在ると言う事になり、喧嘩騒動を起こさないのであればと言うことで前よりは自由に動けるようになっていた。だからと言ってまだまだ弱いと思っているので傲る訳ではないが……。それに割かしこの学園では祓魔部員は命張っている分、融通が利いている。中には羨ましがる生徒もいるが祓魔部の課外活動で街の魔族退治で魔族を滅しに行く……勿論部員たちは怪我も承知でだ。街を少しでも平和に歩ける様にだ。時折見かける傷は魔族に付けられたモノが多い、他の生徒からしたらやはり我が校の自慢なのだ。
「來斗様、遅くなり申し訳ありません」
「よい、気にするな」
「來斗くん!私居て良かったんだよね?みんな居るし!」
ハァハァと走ってきたのだろう、何しろ三年一組は祓魔部から一番遠い。蒼夜は兎も角葉月は人間だ走る蒼夜に付いて行くなんて少し以上に無理がある……まぁ目的場所は分かっていたのだから葉月は良く頑張った方だと言うことで……。
「いいぞ、皆は今朝、校門の前で遭った事は大体耳に入っていると思うが、その被害者が魔族の落として行った指輪を拾ったら取り憑かれたそうだ……これがその指輪だ」
コトリとその石化し、光を失い今にも砂になり崩れそうな指輪を机の上に置く。
「來斗、コレどうするんだ?」
「まぁ、そう急ぐな……今からこの指輪の時間を遡る」
來斗が手を翳すと指輪が輝き出す。その光は禍々しい光に変わり、どす黒い赤い宝石になり光は宝石に収まる。
「な、何だったんだ?今の光は?」
「私……見れなかった少し体調が……うっ……」
皆それぞれに体の不調を訴え、嗚咽を付く、指輪から漏れる邪気で空気が淀む。來斗と蒼夜は手を掲げて聖なる光を放ちその場を浄化する。
「は、ぁ……?!あれ?」
透が吹き出していた脂汗を拭っていたら二人のお陰で気分が先程より良くなり、呼吸も楽になる。
「來斗様、お早く人にこの光は人体には障ります故」
「うむ……お主らしっかり見るのだぞ?」
「はあ!」と來斗がどす黒い血色の赤い宝石に記憶術の様なモノをかける。するとどこからともなく頭の中にダイレクトに会話が聴こえてくる。
(この指輪の中に心を闇に変える魔族をいれ、持って行って天の川学園のどこかにあるパンドラの箱を探させろ……)
(承知しました、リア様……しかしどうやってですか?我々魔族はあの学園内には入れません、中に入って指輪を渡すなど無理です)
(フン、人とは心尊き者だ、今日学生共が学園に登校する時通行人として通り、目立つ様にこの指輪を落とせば必ず拾う馬鹿が居る筈だ行け!)
(は!)
ヴヴヴッ!パキッイン!!
「うむ『リア』と言ったか?成る程それだけ分かればよしとしよう」
そう言って來斗と蒼夜は考える。名前持ちの魔族は悪魔の可能性が高いからだ。だが試すのには良い機会でもある。
「龍介殿……この“リア”を透に狩らせたい、勿論!私と蒼夜がバックアップする……対価は透の母君の保護である」
その発言に邪気入りの魔族の会話を聞いて具合悪そうに座っていた透が立ち上がり焦りの表情を見せ……。
「なんだよ來斗!聞いてねーぞ!」
「うむ、考えたのだが……お主はもっと強くなれる、いずれはこの部を率いる程の資質があると言うのが私と蒼夜の意見だ……だがここでお主の母君を人質に取られてはだめだからな、日祓で保護して貰うのだ」
「お前は私が鍛えてやる」
蒼夜が力ある金眼で透を見る。まだまだ伸びると聞いても半信半疑なのだが……正直……神に認められているのは嬉しいし、神獣に稽古を頼めるなんて早々あるチャンスではない。
「龍介……せ、先生……」
「……分かった良いだろう」
そして祓魔部と魔族のアジトへ乗り込む作戦はゆっくり練られていった。いきなりの戦いが魔族しかも名前持ちの悪魔が居るアジトに乗り込むのは初めての経験の為、皆恐ろしいを通り越して少し気分が高揚していた。