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第一章~神、日本の高校生になる~

現在。エリセは各国の神と会議をしていた。議題は三千年前に滅んだ筈の魔族の復活である。世界にポツリポツリと魔族達の人間界への復活が在るとの報告があったからだ、三千年前は魔族も人間界の文明など興味を示す者は居なかった。しかし三千年も経つと人類の文明は目を見張る程の発展を遂げている。

「ウィルス、君はどう見る?」

「ハッ!私達としては転生や貧困層で死した迷える魂、人の恨み辛みと言った負の感情が魔族を生んでいると見ております」

席を立ったウィルスがそう言うと席に座る。ウィルスはアメリカの象徴でエリセの妻である。

「ふむ……人間界全てに私達の目が届かなくなる程人間が増えてしまったと言う事か……」

「しかし、人間も魔族と言うかそのような存在に気付き始め各国で対魔族集団である祓魔師を育成する学校や施設が増えている様です」

一人の神が手を挙げてそう発言する。そして各国の神々が自国の祓魔師の数と一般人の割合を個々に発言し出す、エリセはその何百と集まっている神々の発言全てに耳を傾ける。

「日本が少ないな、天内」

「は、はい……、我が国は先の大戦から銃や刃物と言った凶器の取り締まった事に加え、特定の力を持ったものは生まれては居るのですが……比較的平和と言う自惚れ傾向に捉えられます」

「ふむ……ならばこうしよう私が日本に行ってみてどれ程のモノなのか見るとしよう!」

パン!と両の手を合わせる。すると暫くの間続く妻たちの沈黙と天内と呼ばれた日本の神は目を(しばたた)かせる。

「エリセ様、またご冗談を……」

「私は本気だぞ?」

「エリセ様?貴方様はご自分の立場が分かってらっしゃいますか?」

ピシャリと後ろに控えていたガブリエルに叱責される。ガブリエルや他の四大天使は神界直属の部隊としてエリセを支え常にエリセの側に一人は居るようにしていた。

「ならば……人間に化けていく!?これで良かろう?」

「そう言う問題じゃありません!日本国だけに行くなど他の国の妻達はどうするおつもりですか?」

鋭い目付きのガブリエルと目が合う。エリセは各国の神と体を交わらせている。中には天内の様に元々は人間で大昔に神の供物にされた中で神使に近い巫女を神界に呼び神の契りを交わして人成らざる者になりそれを神として崇めている国は日本のみならず少なからず在る。

「しかし日本の人口の三割無いし二割程に満たない祓魔師など魔族の主となる作戦を行うには邪魔者が居なくて良いと思われても困る……」

「では、私達四大天使のウリエル辺りに行かせましょう」

「愛しい妻達の国が守れなくて何が神だ!!」

ビリビリと神殿が震えた。エリセは全知全能なる神だが今は各国の妻達のたった一人の夫である。全てが庇護の対象なのもある。日本人の平和ボケに渇を入れたいと言うのもあるし、日本には神域に近いところが点々と存在する。それは他の国の妻も見て知っている事だ。

「エリセ様……」

「申し訳ございません、エリセ様が日本ばかり行かれれば他の国から嫉妬心を生むと思いましたので……」

すると一人の神が……

「あの、私達の国がピンチになったらエリセ様を呼んでも良いと言う事でしょうか?」

そう言って冷や汗をかいているガブリエルを睨んでいるエリセに横から問う。その質問にエリセは振り返り。

「当たり前だ!お前達は私の最愛の妻達なのだから!」

「な、なら私は問題ないと思います……」

「わ、私も……」

次々と手が挙がる。天内は涙を流して両手で顔を覆った。他の国の神(妻)としてはエリセが神界ではなく人間界に居れば自国がピンチの時呼びやすい。と言う思惑も少なからずにあった。エリセの妻達は常に神界に居る訳ではなく、自国の様子を見に自国の何処かに家を持っているそして二週間に一度や月一で神界に行き報告する様にしていた、だが最近魔族の動きが活発化してから三日に一度などの高い頻度での報告が欲しくなり決して暇ではない。しかし安心感はあるのだ。

「決まりだな!私は実は学生と言うものに憧れていてな!人が一つの所に集まり共に学ぶのであろう?」

「~~……っ」

ガブリエルが「はぁ」と溜め息を吐いて後ろで呆れている。エリセはキラキラと目を輝かせている。どうやら良い年して学生に化けようとしているらしいガブリエルは先が思いやられる……と言う顔をしている。

「……でもエリセ様、お言葉ですが日本人はエリセ様の様に金髪銀眼ではありません……」

「そうか……ガブリエル!風呂にお湯をくれ湯浴みをして……天内!私の部屋で待っていてくれ!会議はすまないがここで区切ろう」

そう言うと長い金髪を少し見て「成る程」などと呟いて会議会場を出て行ってしまった。その姿は凛々しくまさに神だった。ガブリエルはエリセの後に続き会議室の出入口に着くと……。

「各国の神々様、エリセ様のお姿は天内様のみ謁見出来るようにしますので、本日は神界の自国の寝所でお休みください」

深々と頭を下げて去っていった。そして天内はあたふたと立ち上がりペコペコと頭を下げながら各国の神々の間をすり抜けてエリセの私室へ向かった。神界は広い……神殿の周りには妻達の寝所があり、神殿内も広くエリセの私室、四大天使のそれぞれの私室、ヴァンの私室、侍女達が寝泊まりする私室、天使兵達が寝泊まりする私室、獣人兵の寝泊まりする私室……部屋数もだが増築に増築で入り組んだ作りで迷うほどに広い……そしてエリセの部屋からしか行けない隠し部屋。しかしエリセは迷わず歩いているし新しく作られる施設に積極的に赴く様にしているだ。


「エリセ様!?」

神殿内を駆けるのはフェンリルの獣人ヴァンである。どこから聞いたのか?エリセが人間界に行く事にいち早く気付いた様だ。フェンリルの特徴的な狼耳と尻尾は隠してあるが蒼髪金眼で直ぐ分かる、今は獣人兵士長をしている。

「エリセ様!」

「静かにしろヴァン」

ミカエルが湯浴みをしている大浴場の外で待っていて前を走ったヴァンを叱責する。

「ミカエル様!エリセ様が人間界に行くのは本当ですか?」

「そうだが、お前何処でそれを?」

?マークのミカエルに詰め寄ってヴァンがまるで幼子の様に狼耳をピョコっと出しながら目を輝かせる。

「まさか……ヴァン、お前……」

「はい!私も行きたいです!勿論人化して天内様のお付きの者として行かせていただこうと思っています」

「あのなぁ……」

こちらでも心の底から出る溜め息を漏らす。ヴァンもエリセに助けられてから大人になった後戦争の事をエリセから聞き知ったが「今はエリセ様にお仕え出来る事が私の誉れでございます」と言い笑える程強い心を手に入れた。しかし例えば魔族に囲まれた時、すぐ戦力になるのは天内でもなく人間でもなくヴァンかもしれないと思うが……ヴァンは今や獣人兵士の隊長だ……そう簡単に許しが出るとは思いにくい。

「なんだヴァンどうした?今日の稽古は終わったのか?」

「エリセ様!私ヴァン・ウィズアースはエリセ様の日本行きの旅のお供をしたく願い出る所存でございます!」

右手を胸に向かわせ神界兵流の敬礼をする。ヴァンは神殿に来た当初からミカエルやウリエルに剣術や聖術を叩き込まれエリセに仕えるのに恥じないように鍛えられた。獣人界から奉仕に来る獣人に負けない強さがあれば何もされない。馬鹿にされない。貶されない。蔑む者など居なくなると言われ、辛い稽古を死に物狂いで耐えて生傷の絶えない日々を送ってきた。今エリセの役に立つなら神界を離れられない四大天使の誰かではなく自分しか居ないと思ったから走ってきたのだ。

「ヴァン、遊びではないのだぞ?良いのか?」

「勿論!?エリセ様のお側でお仕え出来るなら私は遊びではなくても喜んでお仕え致します!」

エリセは暫く考えたがやはり部下一人くらいなら良いか?とも思えて来た。天内は戦闘は出来ない訳ではないが一応妻だし?怪我を負わせるのは流石に嫌だ。

「なら共に人間界へ行くか?」

「はい!」

「では私の私室へ来い!天内に日本人らしさを共に学ぼう!?」

「喜んで!」

そう言って天内の待つ私室へ向かう二人。ミカエルはヴァンは興奮すると未だに狼耳と尻尾が手でしまうことを危惧した。実際今だって尻尾は左右に揺れている。

「本当に大丈夫かしら……ヴァンで……」

「しかし、私達四大天使がエリセ様不在の神界を守らねば」

大浴場からラファエルが姿を現す。中でエリセの長い髪を乾かしていたらしい。エリセは少し大雑把な所があり「髪など自然に乾く、それより今日の夕餉をだな……」などと話を逸らす癖がある、人間界ではそれを天内やヴァンにして貰わなくてはならない。先が思いやられる。


私室に入ると既に電気が点けられていた。ここ数十年で神界もみなランプから電気へと代わった。そして天内が先に入って何やら習字紙に名前を書いていた。

「天内入るぞ?」

「あっ!エリセ様、それにヴァン様ぁ!?」

声が裏返ってしまったヴァンとは廊下ですれ違う程度の付き合いしかしていないので少しビックリしてしまう。

「あぁ……ヴァンも連れて行く事にした」

「よろしくお願いします、天内様」

「よろ、しくお願いします……ヴァン様」

お互い少しよそよそしく礼をする。何せ天内は一六二センチ位の身長でヴァンは一九五センチとかなり見上げなくてはならない。エリセは一八十センチ前後なのでまだ少し身長の高い夫と思えば良い。ヴァンは少し獣人と言う事もありちょっと近寄り難かった。

「それで何を書いていたんだ?天内」

「名前です!頑張って考えさせて頂きました!」

ペラリと習字紙を見せるそこに書かれていた名前はと言うと


天内來斗


「來斗か!なかなか良いではないか?」

「日本に行けば暫く金髪のエリセ様を見る事が出来ないと思いましたので光輝く様に『來斗』と付けさせて頂きました」

頬を少し紅色に染めながら喜ぶ天内……。因みに天内の下の名前は楓である。

「エリセ様も私と同じ姓になるのでですから、私の事は『楓』とお呼び下さいませ」

「楓様!私にも名前を付けて下さい!」

「おお!そうだったヴァンにも名付けて欲しい……読み書きはラファエルから教わってはいるが名前などはとんと無頓着故」

「はい!」

そして新しく習字紙を敷いて精神を統一させる。天内はこれでも書道七段である。暫くすると筆に新たに墨を付けてサラサラと書いて行く。


天内蒼夜


「良いですね!蒼夜ですか気に入りました!」

ヴァンが楽しそうに尻尾を出してパタパタと尻尾を左右に振っている。やはり自分に近しい漢字などが使われれば嬉しいようだ。

「ヴァン様の蒼い髪が夜に溶けるお姿がお美しいので、この名にさせて頂きました」

「では互いに日本の名で呼び合うとしよう!良いか!楓、蒼夜?」

「はい」

「來斗様ですね!」

しかしエリセ……いや來斗は……

「私も少し日本人らしい風格にならねば呼びにくいであろう?暫し待ってくれ」

そして來斗は暫く考える。來斗だって日本人を見た事の無い訳ではないからよく考え顔と髪型を変える。

「……」

「……」

「何だ、何か申せ」

「來斗様!髪、真っ黒は嫌です!少し青紫色を入れて下さい!あと日本人は銀眼ではありません」

「しかし楓様!來斗様の様なお方が黒眼など考えられません!」

「蒼夜様もそう思いますか?私もです!?」

何やら自分の化けた姿にケチを付けられている様だ……。ギャンギャンと小さいのとデカいのが言い合っている。


小一時間後……。


「で、では……これでどうだ?」

鼻は平たく、髪は黒に近いが光の当て具合で青紫が少し見える。目の色は二人で色々考えた結果。緋色などはどうだろう?となり緋色。髪の長さは三千年前に金髪を後ろで結わえていた様にそれに近い感じの少し短いが肩よりは少し長い感じで後ろで結わえている様に……。身長も調節して一七五センチ程に学生らしく垢抜けていない感じにした。

「良いです!」

「來斗様、やはりお似合いです!」

「では次は蒼夜様ですね?」

「え?」

次のターゲットはと言う感じで楓が優しくも何処かに腹黒さを蓄えた笑みで蒼夜を見上げる。

「私は!人化するだけで精一杯なんです!どんなに頑張っても少し身長と髪の長さを弄る位しかできません!?」

これは事実だろう。獣は基本的に二足歩行をしない生き物だ。それを無理に獣人化して二足歩行にし、自分の体躯に合った姿をとるので精一杯の筈である。

「では髪を少し短くしてはどうでしょう?少し若さが残る感じで……あ、その位です!短過ぎては駄目ですよ?それをキープです!身長はもう十センチ低くできますか?」

「や、やってみます……」


十五分後


「出来ました!」

「良いではないか?蒼夜なかなか似合う、このわっくすとやらも良い感じで髪をふんわりツンツンに出来るのだな?」

ケラケラと面白そうに笑う。そして二人の容姿が決まった所で楓はブツブツと呪文を唱えながら印を結ぶ

「この者達の姿を現世に留めよ!印!」

光が射して二人の姿が安定する。これで急に金髪に戻ったり銀眼に変わったり、うっかり耳と尻尾がピョコっと出る頻度は少しは抑えられた筈だ……。二人とも面白そうにお互いにペタペタと触り合っている微笑ましいが大変なのは作法を教える行程だった。日本人の箸の持ち方は出来るだろうが(蒼夜は分からないが)日本人には日本のマナーなどが繊細に受け継がれている。一応行儀の良し悪しは教えるつもりだ。


「結局、日本のルールを覚えるのに三日もかかってしまった」

「日本人って凄いですね來斗様」

少しゲッソリとしている二人を見て「スミマセン」と苦笑する楓。だがこれも愛しい妻の国を思ってこそだし來斗は楓の頭に手をポンポンと置く。

「大丈夫だ、蒼夜!身長的に蒼夜は私の兄として学生になるのだ、敬語と様を付けるのは止めろ」

「しかし……恐れ多くて出来ません」

「私の命が聞けんのか連れていかぬぞ?」

その言葉に蒼夜はビクリと体を震わす。しかし蒼夜だって主人を呼び捨てに出来る程心がまだ出来ていないのも自覚済みだ。

「では敬語は常に話すと言うのはどうでしょう?」

慌てて楓が間に入る。しかしそれでは納得出来ない蒼夜が楓を上から見下ろすように見やる。

「ス、スミマセン……で、では二人共裕福な家の出で幼い頃から蒼夜様が家臣代表として仕えていた……とか」

「それでは兄弟にならんだろ」

「跡継ぎを來斗様にすれば大丈夫です」

まぁ二人の父親は外国人で楓が母親と言う設定にしたのだから外国ならその家の当主が弟なら家臣代表で兄が仕えていて年上だからと言っても敬語や様は無くならなくて済むのかもしれない。

「楓様!それ良いですね!実際私は來斗様に仕えているんですから!それなら違和感がありませんね!?」

「全く、お前達は……」

「はぁ……」と溜め息をついて頭に手を当てる。何せ折角神と言う地位から少し離れた所で伸び伸び出来ると思ったが……そうは行かなそうだ。

「そう言えば楓、私達は何処の学校に通うのだ?」

「あ、それは決まっております……天の川学園高等部と言う学園です!そこには祓魔部って言う部活もありますし、私の勤める大学病院の側ですしちょうど良いと思いました」

楓はこれでも医学の知識が豊富だ。伊達に長生きではない。どの科からも必要とされ手術だって一日に二回も執刀したりなど頼れる存在で子供にも人気で遊んでやったりもすれば、薬学の知識もあり新薬開発にも率先的だ。常に忙しいが苦ではないらしい。だからと言って高級マンションに暮らして居る訳ではない、普通の一戸建てで質素に暮らしている。実に日本人らしい神なのである。

「これが家からの地図です」

「ほぼ隣ではないか」

「ここ住宅街ですし、学園の側に家が偶々あるだけですよ」

まじまじと見る二人に苦笑いをして頷く楓。まぁ魔族の出す負のエネルギーや蒼夜であれば臭いなどで分かるから不便はなさそうだ。

「オフェロスは持って行っても良いのだろう?」

「この三日間の間に日本祓魔師協会のトップと話をして来て持っていても大丈夫だが人目の着きにくい所で所持して欲しいとの事です……あ!コレ、日祓のバッジです」

この三日間作法などを本で見て覚えている内にそんな事をしていたのかと仕事の出来る妻だなと改めて思わざる得なかった。

「これは制服です……今日本は六月ですので半袖を着て行って下さい、冬服は家に置いてきました」

「うむ」

「楓様、この紐の様なものは何ですか?來斗様は赤と黒で私のは青と黒ですね」

蒼夜がネクタイを持ち斜めのストライプ柄になっている色を気にしている。

「それは学年別に色分けしているんですよ、ネクタイの締め方はお教えした通りです」

「來斗様と同じではないのですね……」

シュンと落ち込んでいるのが分かる。今狼耳や尻尾が出ていれば耳は塞ぎ混みペタッと下を向いているだろうし、尻尾は力なくダランとしているのが見えなくても手に取る様に分かる。

「まぁ学園内では祓魔部に入れば午後の授業は免除になるので入部試験頑張って下さい」

「そうかその部とやらに入れば蒼夜と共に居れるか……学生生活も楽しみたいが魔族の排除が目的だからな」

「ふむ」と頷きながら顎を撫でる來斗の私室のソファに來斗、蒼夜と隣同士で座り……大理石のテーブルを挟んで向かい側に楓が座っている。そして二人共立って制服に着替えてみる。

「どうだ楓?」

「お似合いですよ」

嬉しそうに微笑む。そして蒼夜も着たのだが……

「ネクタイを制服に合わせて締めると首が苦しいです」

常に戦闘の訓練をしている蒼夜は首が太めなのでネクタイが少しキツそうだ。

「フフ、緩めても良いと思いますよ?」

まるで自分の子供を見る様に楓が微笑む。蒼夜は少し頬を赤らめながら少しネクタイを緩めると少し目付きがキツいせいか?不良に見えなくもないが多少は多めに見て貰うとしよう。

「なんか蒼夜……ふりょうに見えるぞ?」

「大事なのは中身ですよ?」

「うぅ……」

來斗に不良に見られ少し落ち込む蒼夜。楓はフォローするがシュン……としてしまう先刻と同じ様に見えない耳と尻尾が見える気がした。

「冗談だ!私の兄で家臣代表は少し柄が悪い方が良い、人に付かれれば呼ぶ時不便だからな」

「良かったです!」

パッと笑顔になる蒼夜。本当にこの狼は……分かりやすい性格と言うか來斗が一番大事なのだろう。

「楓、明日にでも学園に行きたい、見てみたい学校とやらを……今は、人間界は夜の七時頃か……私の私室で夕食を食べたら向かおう」

「分かりました、ではその様に私の家の聖術陣はいつでも発動可能です」

そして夕食は侍女に運ばせ日本食を食べる。勿論箸を使って、蒼夜も大きな手できちんと箸を持って食べている。

電気が普及してから神界でも神界にある海の魚もわざわざ現地に行かなくても聖術で凍らせて冷凍が出来るようになった。冷蔵庫・冷凍庫様々だ。そして食べ終わりミカエル・ウリエル・ガブリエル・ラファエルを呼んで別れを告げる。

「では神界の事を任せた!人間界の事は私達に任せろ」

「行ってらっしゃいませ……お早いお帰りを」

四大天使達はそう言って頭を下げると、聖術陣の上に立ち楓が呪文を唱えると陣が光り三人の姿はみるみる内に透明になり消えてしまった。


次の日の朝。朝食を済ませ制服に着替え終わる。

「楓、何をしている?一緒に出るのではなかったのか?」

「お昼のおにぎりを握っているんです……お弁当の事をすっかり忘れてました」

慌てた素振りでご飯を三角に握っていく……

「出来ました!お金はお持ちになられましたか二人共?」

「持ちました」

「この紙で買い物をすれば良いと言っておったな?計算は出来るが紙だと何やらもの足りぬな」

神界は皆金貨・銀貨・銅貨で買い物をする。それも神級金貨は純金製で重い。一枚で日本車が新品で二台は買える。

「では、行ってらっしゃいませ」

「畏まるな日本では楓が母親なのだ」

「そうですよ?楓様」

そうかと気付き辺りをキョロキョロとする。すると隣の家から女性が話しかけて来た。

「あら天内さんの息子さん?」

「え?あ、はい!あ、挨拶して」

楓は急な事で焦り思わず二人に振る。だが流石は神慌てる素振りなど一切見せず。

「天内來斗です……よろしくお願いします」

「私は兄の天内蒼夜です、楓さ……母上様とはどういった仲なのですか?」

蒼夜が急に結構食い込んだ質問をする。隣の女性はと言うと目を丸くして。

「天内さん、良い息子さん達ね外国人のお父さんとの子でしょ?日本で暮らすの?」

「は……え、と……」

言葉に詰まり気味な楓を見かねて來斗が口を開く。

「はい!父の仕事の都合で治安の良い日本へ行けと言われた次第です」

ハキハキと答えて。真っ直ぐに女性を(楓と蒼夜の一方的な)自慢の緋眼で見やる。

「そ、そうね!治安の良さは、ほ、保証するわ」

しどろもどろになりながら返すのが精一杯な感じになり「ゴメンナサイね」と顔を赤くして家の中へ入って行ってしまった。

「流石です!目を使っただけで人を払うなど、私に出来るでしょうか?」

蒼夜がキラキラと金眼で見ていると楓は『すぐ出来るわ、蒼夜様』と思ったが口には出さなかった。何せ二人の会話を聞くと……

「コツがあるのだ目上の人には下からキッと見据えた様にに見るのだ」

と恐ろしい会話が聞こえたが校門まで送り早々に学園の校長にメールを送った。


ピコッ!


「お、来たか」


それに気付き初老の男性が席を立つ。

「どんな転入生か楽しみだな」

そう言って蓄えた顎髭を擦り、口角を少し上げた。


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