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その4です。
モヤモヤする箕山と、同様の疑念を抱いているだろう間米を完全に無視して、巨漢は懐から黒い携帯端末を取り出した。
端末の側面を男が軽く握ると同時に、刑事二人の懐に忍ばせていた携帯端末が震える。
「む」
この携帯端末こそが、現代の警察手帳である。生体認証によって本人にしか操作不能となっており、加えて独自の暗号化と回線を使用した警察無線としての機能も持ち合わせている。
しかし何より、この端末の最大の特徴は、相手の所属等をすぐに確認できる点にある。今のように端末の側面を握る動作で、相手の端末へ情報が送信されるのだ。これにより、身分の詐称は不可能となっている(建前上は)。
確認してみると、確かに巨漢の顔写真が大きく表示されており、その下に「ヴェリヨ・ルイク 公安所属」と表記されている。
箕山はこれに納得したが、隣の先輩は不機嫌そうに眉をしかめた。
「つまり、なんだ? この件は公安が仕切るって話なのか?」
やや喧嘩腰な間米に、ヴェリヨは「そういうことだ」と無表情で返した。この手の応酬は飽き飽きだ、と態度から窺える。
ここで長々と議論したところで何も益などない。箕山が「間米さん」と軽く促すと、老刑事はこれ見よがしに舌打ちする。
「分かったよ。じゃあ、表で張ってる連中も撤収させていいんだな?」
「問題ない」
もう一度舌打ちをしてさっさと歩き始める間米を、箕山が一礼をしてから続く。
「くそっ。なんで外国人が公安やってやがるんだよ」
この不満は箕山も同意だった。しかし、それ以上に「これでやっと晩飯にありつける!」という喜びが大きかった。