34
その34です。
「まあ、俺も殺さずに済んでよかったわ」
すっかり存在を忘れていた大鬼の突然の呟きに、泰地は「シャベッタァァァ」と思わず叫んでしまう。
「あー、そういえば紹介してなかったな。こいつは俺らのご同業――とはいえ、この『研修』のためにわざわざ東京から呼んだんだけどな」
「新東名は渋滞はないけど、道がまっすぐ過ぎて眠くなるよなー」
「お前、確か新幹線で来るって申請してなかったか? 差額をガメるつもりかよ」
「それくらい誰でもやってるだろ。そっちの人員が足りなくて応援に来たんだから、これくらいの役得はあって当然、当たり前、常識常識ってもんだ」
「だったら奢れよ」
「0W-20のエンジンオイルでよかったよな?」
「そういうつまらんボケはいらん。ささやかのハンバーグだ」
巨漢と異形が砕けた調子の日常会話で和んでいるというシュールな光景に、泰地はどういう表情で対処したらいいのか分からなくなる。
このままだと意味のない漫才を延々と聞かされそうなので、さっさと疑問を投げかけることにした。
「えっと、何というか、知性があれば怪物とかも仲間になるんですか?」
「ん? ああ、悪い悪い。俺はれっきとした人間だよ。これはまあ、ありていに説明すれば、ちょっとした変装だ」
「最初の死体も、実はこいつの変装だったんだよ。気付かんかっただろ?」
気付けるかい、と反論する気にもならない。




