32
その32です。
ああ、もう無茶苦茶だ――泰地は何もかも放棄して運命に身を任せたい気分だった。
頭上には魔王サマ、眼前には大鬼という絶望的な現実と、これまで辿ってきた理不尽な経緯が、完全に少年の精神の柱を全てへし折りなぎ倒していた。
(そもそも、この魔王サマとやらが頭に張り付いてからロクな目にあってないじゃないか。これからの人生をずっと監視されるか、公安の一員になるかすぐ決めろって脅迫されて、ほとんど説明のないまま廃ビルに連れてこられて、死体見せられて、こんな訳の分からん異界とやらに突入させられて、バケモノに殺されそうに……)
世界の全てを呪わんばかりの負の感情が少年の全身を駆け巡ったが、はたとある疑問が脳裏にひらめいた。
その疑問が別の疑問への呼び水となり、次々と不可解や矛盾を想起させる。
これらに対し、ある仮定を当てはめると、なんだか綺麗に丸ごと収まってしまうような気がしてきた。
(これって、自分の都合の悪い事実を無視して結論ありきで考えてるだけか? でも……)
ひとたび浮かんでしまった疑念は、明確な回答が得られない限りはいつまでもわだかまってしまう。というよりも、既に彼の頭の中では疑念は確信へ変質していたのだ。
「どうしたのだ?」
尋ねるルデルの声にも何か含んでいるものがある気がしてきたが、それは脇にひとまず置いておく。泰地は先にすべきことから順番に片付けることにした。
「もう終わりましょう。どこかに隠れて観察してるんでしょう、ヴェリヨさん!」




