31
その31です。
棍棒が鼻先をかすめるように振り下ろされる。当たらなかったのは、偶然なのか敵の余裕なのか判断できない。少年としては、死の恐怖を土俵際で堪えた自分の膀胱を褒めたい気分だった。
(アカン。絶対にこれは勝てない)
一秒にも満たない攻防だったのだが、泰地はあっさりと諦観の域に達してしまう。
しかし、そんな弱気を認める魔王サマではない。
またもや少年の意思とは無関係に、足が勝手に間合いを詰める。
大鬼が豪快に繰り出す横凪ぎの攻撃を、今度は大きく後ろへ飛び退いてかわす。……今度も膀胱は仕事を頑張ってくれた。
「やめて! やめてくださいって、魔王サマ! どう考えても十秒後に脳みそバーンってなる未来しかないでしょ!」
「バカの考え、休むに似たりなのだ。バカの何が悪いかといえば、勝手に自分の限界を決めて勝手に相手の能力を見誤って勝手に諦めるところなのだ」
「いやまあ、そうかもしれないですけど」
「そのバカの根本的な間違いは、全くリスクを負わずにすべてを得ようと考えるからなのだ。手足の一本くらいはくれてやっても問題はないのだ。ルデルが人間だった頃は、足の一本をもがれたが終戦まで戦えたし山に登ったりできたのだ」
「魔王になれる素質のある人間を比較対象にするのが間違いなんですよ!」




