30
その30です。
ドアを乱暴に蹴り開く。これは先程と全く同じだ。
同時に相手めがけて突進する。ただし、今度は若干スピードを抑えている。
その勢いのままに敵へ攻撃……は、できなかった。
敵――便宜的に「大鬼」と呼ぶ――は泰地の侵入を察知すると、慌てた様子を見せず、ゆったりと武器を構えたのだ。それが剣道で言うところの正眼の構えだったのだから、気勢を削がれるのも道理だろう。
何年も道場に通って腕を磨いていました、と言わんばかりの堂々とした臨戦態勢で臨む大鬼。対峙する泰地は完全に気圧された。
先にも書いたが、彼には格闘の経験はない。まして、手慣れた武器を装備している敵の相手など、妄想でも外したいシチュエーションだ。
とりあえず少年は素人まるだしな構えをとり、軽く踵を上げると、やや早目なリズムでステップを刻み始める。
マンガか何かで読んだ「弱い方が強い奴の周囲を回る」理論は正解なんだなー、などと小刻みに動きながら泰地は考えていた。現実逃避である。
もちろん、そんな小康状態を座して眺めて良しとする魔王サマではない。
適当な間合いを保っていた泰地だったが、なぜか無意識かつ無造作に数歩前進してしまった。
「あっ?」
何故、というか、何ということを、と文句を告げる暇もなく、大鬼は鋭く素早く踏み込んできた。




