27
その27です。
扉を乱暴に蹴り開く。
大きな破砕音を尻目に、泰地は一気に目標である敵――ヴェリヨが瞬殺したのと似たような小鬼に向かって駆け出した。
小鬼は、明らかにギョッとした表情で振り返った。しかし、本当に眠っていたのか、その動きは緩慢で攻撃どころか防御もままならないように見える。
奇襲に成功した――と緊張がゆるんだ刹那、泰地は自分の意識が身体から離れるような感覚に襲われた。部屋全体を俯瞰で眺めているかのようで、万能感と気味の悪さが思考の中央で交錯する。
しかし、幽体離脱したかのような少年の超感覚は、信じ難い現実を捉えた。
ゆっくりと動き始めたはずの子鬼が、唐突に俊敏な動作で大きく腕を振ってきたのだ。その指先から一気に伸びてきた爪は、ナイフのように鋭利で人間の皮膚どころか骨まで切断できそうである。
その凶悪な爪先は、狙いすましたかのように――いや、完全に泰地の左膝に狙いを定めて振り下ろす軌跡を描いている。
(駄目だ、避けられるタイミングじゃない!)
アクション映画のスロー演出を観ている感覚で絶望に陥る泰地の意識であったが、彼の身体は別の未来へ向かって動いていた。
今まさに切っ先が触れる瞬間に、彼はそれをかすめるように跳躍する。
勝利を確信していた小鬼が自分の攻撃が失敗したのを理解するより早く、少年の足裏が小鬼の顔面にめり込んだ。




