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その16です。
やっと魔界に突入です。
死体のあった部屋よりも多少は明るいとはいえ、やはりライトは必要である。
全身これ筋肉というヴェリヨが前を歩いているのは頼もしいが、それだけで不安材料が一掃できるほど泰地は単純な性格ではない。
不安の大半は、「今日が初仕事」に起因している。
孕石泰地という少年は、つい先日まではごく普通の男子学生であった。だから、この手の超常現象なんて、テレビや雑誌などで見て笑うくらいの価値しかなかった。
加えて、彼がこの業界に飛び込まざるを得ない原因となった存在――頭上に鎮座する、ルデルと自称しているこのぬいぐるみが、実際にはどの程度の実力であるかを知らないのも大きい。
いまなお半信半疑のままルデルやヴェリヨに引きずられている泰地にとっては、具体的な危険というものがイメージできていない。やたらビビっているのは事実だけれど、落命の可能性までは本気にしていなかった。
更に、先ほどまでの悪臭から解放されたのも、緊張の糸を緩ませる要因となった。
不気味なオーラめいた雰囲気は健在だが、分かりやすい敵などが出ないのでテンションの持続が難しくなっている。
なので、ヴェリヨが長い廊下の先にあった扉を、まるで初めて泊まったホテルの部屋を探検するかのよ
うに躊躇なく開く様を、「ちょっと!」とバラエティ番組でよく見られるリアクションのようなノリで反応してしまったのも仕方ないと言えるのではなかろうか。




