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初投稿です。
至らない点も多いと思いますが、よろしくお願いします。
くそっ、と苛立ちを隠そうとしない間米に、箕山は毎度のこととはいえ溜息を飲み込むのに苦労する。
箕山が刑事となり、いかにも「昔ながらの叩き上げ人情派」な先輩である間米の下で捜査のイロハを学び始めてからおおよそ二年。この「くそっ」から始まる愚痴も、さすがに聞き飽きた。
「こんな解体業者も浮浪者も寄り付かんような臭い廃ビルに、どうして死体が転がってんだよ」
「通報してきたのは、動画サイトに投稿するために侵入した中学生ですってね」
「くそっ、ガキが夜中にウロウロするなっての。世紀末なんてとっくに過ぎてるってのに、倫理ってのが崩れてやがる。だから並列首都計画なんてのは……」
しくじった、と箕山は数秒前の自分を殴りたい衝動に駆られた。第一発見者が中学生だなんて、間米には格好の愚痴燃料となるのは考えるまでもなかったのに。
いくら鑑識が到着するまでは暇だとはいえ、夕食前で空きっ腹だった上に、懐中電灯しか灯りのない中で愚痴を肴に時間を潰すなんて憂鬱にも程がある。
鼠のフンやらカビやらで混沌とした悪臭が漂っているこんな場所で待たされるだけでもストレスが溜まるのだから、苦痛の上昇率が半端じゃない。
というか、よくもまあ毎日毎日あまり変わり映えのしない文句をダラダラと垂れ流せるものだ、と箕山は感心――など、もちろんしない。
もっとも、間米は既に定年退職まで一年を切っている。自分に理解できない何某を「間違っている」「おかしい」「俺が若い頃は」と、全部一緒くたにして切り捨てる年代に入ってしまっているのも事実だ。
(俺だって感謝してるし尊敬もしてるよ? 基本的にいい人で、理不尽な先輩風を吹かすこともないし。よく奢ってくれるし質問すればきちんと答えてくれるし。でもなぁ……)
止まることを知らない老年の懐古主義的な言葉の洪水に、青年は再び溜息を飲み込む。
(並列首都計画なんて、俺が物心ついたころから延々と続けてるってのに)