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05

 何件か店に寄って衣服作りに必要な本やら布やらビーズやら必要なものを買い込んだ。いろいろなものが入っている紙袋を覗き込んだシャーリンが人形に幸せそうな顔を向ける。


「これで沢山衣服作るからね。待っててね」

『期待しているぞ』

「メコリカにしようかな? それともチャーキュがいいかな? モラッコハズもオリーもモーランテールもいいよね!」

『…………』


 人形はシャーリンからアルカに視線を向けた。


『この娘は何語を話している?』


 声は明らかに困惑していた。


「あー……たぶんどっかの民族衣装とか正装とか? 本沢山読むからよくわからない知識も豊富なんだよシャーリンは。オレもたまについていけないときがある」

『ふむ……』


 シャーリンの頭の中は命名と衣服作りとでもう付け入る隙はなさそうだ。考えに没頭して人にぶつかりそうになるのを腕を引いて避けること何回目だろうかとアルカは呆れる。


『ところでこれからどこに向かうのだ?』

「もう買うもの買ったし金なくなったし帰るんだよ、孤児院に」

『孤児院に……』


 アルカに触れている人形の手の力が少し強くなった。 


『親はいないのか』

「……捨てられたんだよ、ずいぶん前に」

『捨てられた……』


 アルカの顔はものすごく苦いものを噛み潰したかのようだった。


『アルカ』

「何?」

『甘えたいときは遠慮なく私に甘えるといい』

「……は?」


 アルカの足が止まった。止まったアルカに引っ張られていたシャーリンは突然の停止に転びそうになったが寸前で踏みとどまった。

 アルカが思わず人形を見上げれば、人形特有の無表情がだんだんドヤ顔に見えてくる。


「……いきなり何言ってんだお前?」

『大人でも甘えたいときはあるのだ、子供が遠慮することはない。シャーリンならば兄がいるがアルカは甘えられる人がいないのだろう? 私が代わりになってやる』


――狼獣人型人形に甘える十四歳の少年……。


 想像しただけでシュールだとアルカはげんなりした。やはりこの人形考えていることがさっぱりわからないとつくづく実感する。

 

「オレは別に甘えたいなんて一言も言ってない。つーかそもそもお前、人じゃないだろう……」

『遠慮するな』

「遠慮してない。オレは甘えたいなんて考えてない」

『照れることはない。私は寛容だからな、いつでもこの胸に飛び込んでくるといい』

「……なぁ、そろそろちゃんと聞いてくれよ人の話」


――もうこいつ店に返却してきてもいいかな?


 アルカが本気で考え始めたとき、腕をグイグイ引っ張られる感覚がした。なんだと振り向けば片手に紙袋を持って不機嫌そうな顔で兄を見つめるシャーリンの姿。


「……お兄ちゃんばかりずるい。私も甘えたい」

「しゃ……シャーリン……」


 どうやら妹の嫉妬を買ってしまったようだ。泣きたい。


『無論だ。兄妹揃って遠慮なく甘えるといい』

「わーい!」


 だからなんでこいつはこんなにも上から目線なんだと、アルカのイライラが頂点に達する。


「オレはいらん!」

『だから遠慮するな』

「遠慮してない!」


 もうアルカは遠慮しなくなっていた。周囲に。

 アルカの怒鳴り声に通行人が驚いた顔でアルカたちをちらちら見ている。きっと周囲からは肩車している人形に一人怒鳴っている変わった少年としか見えていないのだろう。ただそんな周囲の好奇な目にも怒りで人形しか見えていないアルカは気づかない。

 アルカの肩にいる人形は気づいているはずだがあくまで人形に徹するつもりなのか、怒鳴るアルカに周囲には聞こえないほどの小声で会話し続けるだけだ。


――でも、なんかちょっと楽しそう。


 人形だからあまり表情はわからない。わからないが、シャーリンにはなんとなくそう見えた。

 一人と一匹の様子を見ていると、賑やかな日々がこれから始まるかもと思えてシャーリンはわくわくしてくる。


――最高の誕生日だよ、ありがとうお兄ちゃん。


 シャーリンはこっそりと大好きな兄に抱きついた。

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