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 ドレス作りはナッシュ草案のもと、セトがデザインに起こしナッシュとカインとセトの三人で作り始めた。


「事情を話したら先生たちから余った布やレースがもらえたから、セトお兄ちゃんはこれを繋げてね」

「了解した」

「お兄ちゃん、裁断した部分を縫い付けてくれる? ボクはリボンを作るね」

「わかった」


 ナッシュとカインは時間が許す限りアルカたちの部屋にやってきては作業を続けた。時折施設職員が様子を見に来ては差し入れをしてくれたりアドバイスをくれたりなど色々心配をかけてくれた。ただそのたびにセトが人形となって動かなくなるので作業が度々中断するのが痛かったが。

 アルカとシャーリンは入院してから三日後に戻ってきた。ドレス提出期日は今日いっぱいだ。


「カイン!? ナッシュ!? それにセト、お前ら何やって……」


 驚愕のアルカに、セトは意味深に笑う。


「何とは心外だな。見ればわかるだろう、シャーリンのドレスだ」

「私の……?」


 部屋に入るなり固まる兄妹に、セトは作業の手を止めずに顎をしゃくる。


「シャーリン、体が動くならこれ試着してみろ」

「ちょ、ちょっと待ってよセト! シャーリンはまだ体の調子が戻ってなくて……」

「そうなのか? シャーリン」


 声をかけられたシャーリンはだんだんと口元を緩めた。


「……ううん! 大丈夫、問題ないよ!」

「シャーリン!?」


 兄の悲鳴をよそにシャーリンは少々緊張した面持ちで完成間近のドレスを広げる。

 ワイシャツの胸元が少し大きく広げられた上着、そして見覚えがある薄いピンクの生地とレースをふんだんに重ねたスカート、腰の大きな立体的なリボン。その衣装は今までシャーリンが見たどのドレスよりも可愛く見えた。

 ドレスを見つめているとだんだんとなにかがこみ上げてくる。


「……ありがとう、ナッシュ、カインお兄ちゃん……セト……」


 ポロポロと、とても幸せそうな顔で泣き出すシャーリンにカインとナッシュは疲れた表情をしながらも嬉しくなってガッツポーズを決める。そこにセトの叱責が飛んだ。


「二人とも、完成はしていないからガッツポーズはまだ早い。アルカ、手が開いているなら手伝え」

「わ、わかった!」


 アルカを加えてその日は夜遅くまで作業をすることになった。そして深夜にドレスは完成したのである。




 完成したドレスを来て、翌日シャーリンはダンスパーティに参加した。

 最後まで体調の心配したアルカにシャーリンは「皆が協力して作ってくれたのを無駄にはできない」とゴリ押ししたのである。シャーリンの決意にアルカもそれ以上は反対しなかった。

 ペアでのダンスはやはりというかアルカとシャーリンで踊っている。シャーリンの表情はつい数日前に倒れたとは思えないほど生き生きとしている。手作りドレスがその笑顔を一掃引き立たせていた。

 出番待ちのナッシュとカインが壁際で兄妹の踊る姿を見ている。


「いいのか? ナッシュ」

「いいんだ。ボクが作ったドレスを着てあんなに楽しそうに踊ってくれるだけで」


 目の下に小さな隈を作りながらも、ナッシュはどこか誇らしい気持ちで答えた。無理している様子は微塵もない。

 頼もしい弟の返事にカインもつい笑顔になる。


「そうか……――ん?」


 踊りの途中でアルカがシャーリンに頷くと、シャーリンはアルカを置いて一人ナッシュたちへと歩いてきた。

 何があったんだと首を捻るナッシュの前にシャーリンがスカートを大きく広げ小さく膝を折った。


「一緒に最後まで踊ってくれませんか?」

「――!?」


 驚きすぎて動けないナッシュに、カインは背中を叩いてさっさとエスコートしろと促す。


「せっかくのレディのお願いを無碍にするつもりか?」

「あ……う、うん!」


 ガチガチに緊張しつつも、そっとシャーリンの手を引いたナッシュはダンスの輪に入っていく。顔はわかりやすいくらい真っ赤だった。


「お前にしてはずいぶん気が利くな」


 ナッシュと変わるようにこちらにやってきたアルカにカインが言う。


「シャーリンのためにあんなに綺麗なドレスを作ってくれたんだ。そのくらいの礼はしないとな」


 カインは仲良く踊るナッシュとシャーリンを見つめながらそう答えた。


「……建前はそれで、実は寂しいのではないのか?」

「大事に大事に見守ってきた妹を嫁に出した気分だ」

「ぷっ……どこの父親だそれ」


 吹き出すカインに、拗ねていたアルカの表情も次第に笑みに変わる。


「本当ありがとなカイン。孤児院に戻るまでシャーリンの表情、とても見ていられなかったからさ」

「礼ならセトに言え。セトがドレスを作るなんて言わなかったらあの衣装は存在していなかった」


 アルカは一瞬目を見張ったが、やがて穏やかに微笑んだ。


「セトが……。ああ、あとで言っておかないとな」


――そういえばどこに行ったんだセト? 一緒に会場まで来てたはずだが。


 周囲をキョロキョロと見回すアルカに、何者かがそばまで近寄ってきた。


「あ、あの! アルカくん!」

「ん?」


 振り向けば、真っ赤なドレスを着たアルカと同世代の女子が真剣な表情でこちらを見ている。確か名前はリティという子だと記憶から引っ張りだした。


「あの、今踊る相手がいないなら一緒に踊ってくれませんか!」

「えっ?」


 まさか曲の最中に誘われるとは思わず固まるアルカ。

 カインは女の子の背後で困惑している男の子を見て、リティに声をかける。


「リティのパートナーは後ろにいるのに、なんで勝手にアルカを誘うんだ。あの男の子が可哀想じゃないか」

「あんな男はいいんです! 私はアルカくんと踊りたいの!」


 男の子がショックを受けた表情をしている。カインはリティの身勝手な言動にイライラしてきた。


「よくないだろ。パートナーの了承はとってからこいよ」


 すると一瞬射殺すかのごとくカインを睨みつけたリティは、すぐさま背後の元パートナーに振り返る。


「いいよね!? いいわよね!?」

「えっ!? あ、いや……それは」


 リティの迫力に押され、気の小さい男の子はすぐには返事ができない。


「ほら、了承とったわよ! もうすぐ曲が終わっちゃうから早く踊りましょ!」


 とってないだろ! とカインが言い返すより早く、アルカの腕を引っ張ろうと手を伸ばしてきたリティに、アルカはサッと避ける。


「アルカくん!?」

「オレは自分勝手な奴と踊る気はない。ちゃんと決まっているパートナーと一緒に踊れ」

「……!?」


 拒否られるとは思わなかったリティは絶望した表情で固まった。

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