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 女子更衣室にあるすべての衣装を確認したセトは、ボロボロのシャーリンのドレスを前にして考え込んだ。


「シャーリンの衣装だけ……ということはシャーリンは誰かに恨まれている可能性がある」

「シャーリンちゃんが?」


 セトがそう言っても、カインにはいまいち納得ができない。


「シャーリンちゃんは人見知りがあるからアルカ以外には冷たい印象があるけど、こんなことされるほど恨まれるなんてことは……」


 セトは小さく鼻を鳴らした。


「同じ対応でも人によって受ける印象はさまざまだからな。どこで己が恨まれているかわかったものではない。それに」


 セトはカインを振り返った。


「直接の原因がシャーリンではない場合もある」


 カインはセトが何を言いたいのかわからなかった。


「それは一体どういう……」

「ダンスパーティはそれぞれ手作り衣装を着て踊るのだったな?」


 いきなりドレスではなくパーティのことを聞かれ、カインは戸惑いながらも頷いた。


「そう。皆で一緒に踊る曲と男女ペアで踊る曲の計二曲」


 ダンスパーティのために衣装を作るとは他に、時折踊りの練習もあった。カインも参加していたし、勿論アルカもシャーリンと一緒に参加していた。セトもシャーリンに連れられて何度も踊りを見物している。

 練習の時を思い出しながら、セトはダンスパーティの内容を確認する。


「男女ペアではシャーリンはアルカと一緒に踊っている」

「毎年だ。他の誰かと組んで踊っている姿は見たことがない」


 シャーリンは人見知りがあるとはいえ見た目は可愛い女の子だ。狙っている男はカインの弟のナッシュ含め数多いるがいつも兄のアルカに阻まれている。「今年こそシャーリンちゃんと一緒に踊るんだ!」というナッシュの願いが叶った日はない。


「シャーリンがアルカと踊るということは、シャーリンを狙っている者たちだけでなくアルカを狙っている者たちにとってもシャーリンは邪魔者ということだ」

「あ……」


 セトの説明に、カインもようやく理解したようだ。

 男子から好かれるシャーリンの兄だけあってアルカも容姿は平均以上に整っている。ファッションにさえ気をつければ雑誌に出てもおかしくないほどだ。人見知りもしない爽やかな笑顔の少年。しかも病気がちな妹の面倒をきちんと見る兄ということもあり、アルカが好きという女の子は毎年どこかしらで噂となってカインの耳に届く。


「アルカと踊りたい女子がアルカからシャーリンを引き離すためにシャーリンのドレスを切り裂いた可能性がある」

「そうか、シャーリンちゃんと踊りたい男子ならアルカの衣装を狙うのか。シャーリンちゃんの衣装だとシャーリンちゃんと踊れなくなるから」

「そうだ」


 頷いたセトはシャーリンのドレスだった布切れを集めて近くにあった袋に入れた。


「セト……さん? その布をどうすると?」

「セトでいい。布は持ち帰る。幸い細切れになっている箇所はあまりないから利用できるだろう」

「何に?」

「ドレス作りに決まっている」


 さも当然といった返事にカインは言葉を失った。


「な!? 期日まであと三日しかないのに!?」

「三日もあれば十分だ」


 何を驚いているとばかりにセトは鼻を鳴らす。


「それにドレスは何もすべてがすべてベースがワンピースである必要はない。世の中には布一枚でドレスになる民族衣装だってあるのだからな」

「布一枚で……」


 関心するカインにセトは「シャーリンからの知識だが」と一言加える。


「だが無理してドレスを作り直す必要はないのでは? 卒業生が残したパーティ用衣装の中にドレスも数着あったはず」


 一瞬セトの手が止まった。


『……――だろう?』


 セトの声は小さすぎて、カインには聞こえなかった。


「……? 今なんと?」


 カインの質問にセトはそれには返事せずぼやく。


「まぁ踊るのだから動きやすい衣装でなければならぬな」

「ならボクに任せてください!」

「!?」


 第三者の声にカインが驚いて振り向けば、目の前にはカインと同じ髪と瞳の色を持つ女の子と間違いそうになる可愛い顔の少年……。


「いたのかナッシュ!?」

「扉の隙間から話し声が聞こえたので聞き耳を立てていました」


 ナッシュは胸を張って答えた。

 セトは気づいていたのか、まったく驚くこともなくナッシュに向き合う。


「案はあるのか?」


 ナッシュは自信満々に大きく頷いた。


「敗れたドレスは重ねてつなぎ合わせてスカートに。上はシャーリンちゃんと体格が同じボクの着ていない新品のシャツがあるのでそれを切ってスカートと繋げます。腰にはつなぎ目を隠すためリボンを巻きます。時間あればフリルもつけましょう。たぶんまだシャーリンちゃんの部屋に布があると思うので」


 すらすら流暢に説明するナッシュに、兄のカインは口をポカーンと開けたまま放心している。

 セトが話すのに驚かないのかとか、ずいぶん詳しいなとか、なんで体格が自分と同じと知っているのかとかいろいろ質問したいことはあったがナッシュの十歳児とは思えない迫力にカインは聞きに徹するしかなかった。その勢いをシャーリンに少しでも向ければいいのに。

 同じく聞いていたセトは大きく頷いた。


「良い案だ。それでいこう」

「ありがとうございます。お兄ちゃん、部屋までいって必要な道具をアルカお兄ちゃんの部屋まで持ってきてくれる?」

「わかった」


 ここは何も言わず足に徹したほうがよさそうだと判断したカインは、ドレスの残骸が入った紙袋を持ってすぐさま部屋を出て行った。

 カインがいなくなってから、ナッシュはセトを抱いて部屋から出る。廊下に出るとちょうどカインと正反対の方向からさきほど入り口に立っていた職員が戻ってくるところだった。


「あれ、ナッシュ? カインはどうした?」


 ナッシュは花の妖精のような愛らしい笑顔を作りながら、


「お兄ちゃんは用があるとかでさっきどこかに行きました」


 堂々と嘘をついた。

 兄のときと違い淀みなく言い切ったので、職員は嘘だとは一切気づいていないようだった。


「なんだ……施設長から話があるって行ったらそんなこと言ってないっていわれたからな。なんで嘘ついたのかカインに聞こうかと思ったのだが……まぁいいか」


 誰も来なかったか?と聞かれたので「来てない」とナッシュは答える。

 職員と別れて歩き出したナッシュは、周囲に誰もいなくなったところで口を開いた。


「シャーリンちゃんの衣装を破いた犯人はそのままにしておくの?」


 セトは頷いた。


「おそらく女子ということしかわかっていないからな」

「……悔しいよ」


 セトを抱く手に力が入った。


「シャーリンちゃん、毎年アルカお兄ちゃんと踊るのを楽しみにしてるのに。今年は凄く頑張ってドレス作ってたのにこんなことされるなんて……」

「ナッシュは毎年シャーリンと踊れず悔しくないのか?」


 セトの質問に一瞬きょとんとした表情を見せたナッシュは、やがて小さく首を横に振った。


「確かに踊りたいって思うけど……シャーリンちゃんがとても楽しそうにアルカお兄ちゃんと踊っているから邪魔しちゃダメだなって。だって好きな子にはいつも笑顔でいてほしいもん」

「……そうか」


 セトは自分を抱えているナッシュの腕を軽く叩いた。


「大丈夫だ。悪い奴は必ず神様から天罰が下る。だからお前は何も心配しなくていい」

「セトお兄ちゃん……ありがとう」


 目元を塗らしたナッシュは少し安堵した様子でセトを抱きしめた。


「一緒にシャーリンのドレス作りを手伝ってくれるか? 可愛いものを作って落ち込んでいるシャーリンを励まそう」


 セトの力強い言葉に、ナッシュは乱暴に涙を拭うと笑顔で頷いた。

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