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 セトの初めての共同作業はシャーリンのやり方とは違った。

 シャーリンが手伝だったときはアルカは裁断するだけだったが、セトはそうはしなかった。アルカの作業内容を常に横から見張りつつ、少しでもおかしいと思ったら即座に作業を中止させ、何が違っているのかが把握できるまで双方で内容を確認し根気強く説明した。実際の作業は一から十まで全てアルカにやらせたのだ。セトは一切手を出さず横から口を出すだけだった。

 おかげでかなり時間をかけたし縫い目も荒いし少々左右対称になってないが、パッと見は問題ないレベルのチェックが完成した。


「……は、初めて衣服を作れた……」


 アルカの声は感動で震えていた。


「型紙も作り方も毎年存在してたはずだがな」


 逆にセトの声は何の震えもなかった。


「やばい、着れる……着れるぞ!」

「着れるものを作ったからな」


 アルカは恨みがましくセトを振り返る。


「お前、もうちょっとこの感動を共有してやろうとか思わないわけ?」

「俺は手を一切出していないからな」


 アルカはついイラッとした。


「ああ、そうだなお前は口しか出さず俺が最初から最後まで作ったからな!」

「そうだ。お前が最初から最後まで手を抜かずに気持ちを込めて作り上げた、お前の最高傑作だ。もっと誇ればよい」

「う……」


 セトからの思わぬ褒め言葉に、言葉が詰まる。

 冷たいかと思ったらしっかり持ち上げてくるのだからアルカとしては振り回されているようでたまったものではない。

 アルカは時々セトとの距離のとり方がどうにもわからないでいた。


――ただ正直なだけかもしれないけど。


 このチェックだって毎年と同じように自分が裁断しただけなら完成品にここまで嬉しいと思う気持ちは沸いてこなかっただろう。

 なんというかセトは。


――人の扱いに慣れている気がするんだよな。


 だがセトは人形のはずだ。人形が人を使うなぞ考えられない。


「で、これを提出するのだろう?」


 セトの質問に我に返ったアルカは慌てて頷く。


「そ、そう。しっかり出来ているか確認してもらって問題なければ当日まで更衣室に保管するんだ」


 ダンスパーティのために臨時で専用の更衣室が用意される。男女ニ部屋で別れている。どうしても衣装が間に合わない児童用に過去に卒業生が作って残していった衣装も保管されており、それを選んで着れるようになっていた。


「自分が着る衣装にネームプレートを貼り付けておくんだ」

「なるほど、誰が用意できてて誰が用意できていないか把握するためか。……ワイシャツとネクタイとスラックスはどうするのだ?」

「余っている布があれば作れる奴は作って、作らない奴は自分が持っている服から似た様な衣服出して着るって感じ」

「チェックしか作らないとか中途半端ではないか?」

「児童全員分の布代だってバカにならないから仕方ないんじゃない? 俺としてはそんな中途半端なら作らせないでくれよって言いたいけど」


 アルカは作ったチェックを畳むと小脇に抱えた。


「じゃあ、俺これ出してくるから」

「わかった」


 自室を出ようとするアルカは、ふと自分以上に真面目で凝った衣装を作っていたシャーリンのことを思い出した。


「そういえばシャーリンは衣装できたのか?」

「シャーリンならば数日前にとっくに完成させて提出していたぞ。確かスカートではなくドレスだった気がするが」


 シャーリンの腕はセトの衣装作りで存分に披露されていたので、アルカは別段驚きはしなかった。


「さすがシャーリンだ」

「アルカと踊れるのは今年最後かもしれないからって言ってたからな。気合入れて作ってたようだ」


 ふっ、とアルカの表情が曇る。


「あー……そうだな」


 返事する声はどこか上の空だ。


 アルカも来年は十五歳。その次の年には十六歳になるため孤児院を出なければならず、十五歳の児童は皆進学や就職で忙しくしている。必ず参加しなければならない孤児院の行事も十五歳の子は特別に参加免除できるようになっていた。

 アルカは自分の将来もだが、それ以上にシャーリンを一人孤児院に残すことに不安を感じていた。友達も作らず自分以外に頼れる人がいないシャーリンが病気になったときに果たして誰が面倒を見てくれるというのか。セトはしっかりしてても所詮人形だ。人の面倒を見るのには限度がある。


――今度ちゃんと施設職員と相談しておいたほうがいいか。


 看護師も在籍している孤児院に移転も考えている。ただそういう孤児院は数が限られる上、ワイデンブクルには一箇所もないため遠い街へ行かなければならない。人見知りがあるシャーリンが誰もいない環境で一人耐えられるのか。

 その場から動かなくなったアルカに、セトは首を傾げる。


「……アルカ? どうした?」

「……いや、なんでもない。これ出してくる」

「ああ……」


 扉の向こうに消えたアルカはさきほどまでの元気をなくしていた。


「……今年最後……か」


 セトが呟いた言葉が、静まり返った部屋に大きく響く。

 あと一年は在籍しているとはいえ、来年はアルカにとっても将来に関わる大事な年だ。今みたいにのんびりはしていられないだろう。今はシャーリンのそばにいられるがいつか離れ離れになる日はすぐそこまで迫っている。

 だからこそシャーリンもアルカと一緒に居られる日々を大切にしている。その日が来たら笑って見送れるように。寂しくて泣かないように。兄が不安に思わないように。


――そして己か……。


 セトはシャーリンのものだ。シャーリンから離れるわけにはいかない。だからこそセトにもいつか訪れる。シャーリンと二人、孤児院からアルカが出て行くのを見送る時が。


「……確かにお前と会えなくなるのは寂しい……の、かもな」


 一緒に住み始めてからまだそれほど経っていなかったが、セトは今の居心地よさを気にいっていた。



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