17
カインはあの後すぐアルバイトをやめた。
二週間の猶予も断ったので揉めるかと思ったが、相手は渋ることなくあっさりと認めた。おそらくカインの年齢をわかって雇っていたのだろう。もしかしたらカイン以外にも違法就労があったかもしれないが、そこはアルカたちには関係のない話だ。藪をつついて蛇を出す必要はない。
カインはナッシュにも素直に告白し謝罪した。
ナッシュは兄が変なことをやっているのではないかと疑ったが、年齢はともかく働いていた内容はまともだったので安心したようだ。
空いた日にカインはナッシュを連れて誕生日プレゼント買いに出かけたらしい。
「何買ってもらったんだ?」
「えっと……ナミダメジャーのブレードにベルトにマント。あとナミダメレッドとボスのステンジャーの人形!」
どうやら戦隊物らしい。ナッシュは子供らしくはしゃいで報告してくれた。
そしてカインは安かったからとセトの衣服用の布まで買ってくれた。
「いいのかこんなに」
「アルカたちには心配もかけたし世話にもなったからな」
これで稼いだ金は消えたとカインは笑う。その表情はとても清々しかった。
「こそこそして動くのはどうにも気が重かった。今は秘密にしておくこともないから晴れ晴れしてるよ」
「よかったな。もうナッシュを心配させるなよ」
「ああ。あいつはまだ子供だからな。本当に悪かったと思ってる」
アルカは貰った布をシャーリンに渡した。シャーリンはとても喜んだ。
「こんなに材料あるならまた色々作れそう!」
そう言ってシャーリンはさっそく新しい衣装をセトに作った。
用意された衣装を着たセトをマジマジと見て、アルカがポツリと。
「これは……ボクサー?」
真っ赤なスリムパンツ。靴はブーツのようで上半身の白い生地はフードから肩、そして腕までしか覆われておらず、それ以外は裸だ。
セトは人形とはいえ狼獣人をモデルにしている。筋肉の盛り上がりがしっかりあり体格が良いため、これでグローブを握ってポージングを決めれば立派なボクサーだ。
「この前の強盗をやっつけたときを見て動きやすい服装がいいかなって。本当は東方の国のニンジャが一番似合いそうだったんだけど黒い布地はこの前使って今手元にないんだよね」
惚れ惚れとセトを眺めるシャーリンに、アルカは毎度呆れる。
「で、どうかな? セト」
軽くステップを踏んだセトは、納得したように頷いた。
「うむ、動きやすさも申し分ない」
「よかったー。スリムパンツはちょっとはきついかなって思ったんだけど」
セトはその場でスクワットをしてみた。膝が突っ張るような感覚はほとんどない。
「生地が良いのか伸び縮みしやすいな」
「カインお兄ちゃんから貰った布を使ったんだ。きっといいのくれたんだね。今度会ったらお礼言わなきゃ」
シャーリンとセトが和気藹々と衣装について意見する中、アルカはふとあることを思い出した。
「そういえばシャーリン、もうダンスパーティの衣装は作り終えたか?」
「まだ終わってないけどあともう少しでできるよ」
「マジか……オレ今思い出したからまだ手付かずだ……」
頭を抱えだしたアルカに、シャーリンは「毎年じゃない」と突っ込む。
「ダンスパーティ?」
首をかしげたセトに、シャーリンは説明する。
「年に1度だけ、孤児院の児童たちがダンスするの。貴族の舞踏会をモデルにしてるらしくて音楽に合わせて男女のペアや皆で一緒に踊ったりして。踊り終わったら施設の人が用意したお菓子やジュースを食べるの」
「衣装は自分たちで作るんだ。卒業生が残した古着でもいいけどやはり舞踏会というからには皆気合いれて衣装作るからなぁ……」
だんだんと声に力をなくしていくアルカに、シャーリンは苦笑するしかない。
「お兄ちゃん、とことん不器用だもんね」
「衣装作るなんて俺には無理なことやりたくない……雑巾ですら未だに作れないのに……」
ただ縫うだけのものが作れないとかお前はどれだけ……といい掛けたがセトは突っ込まなかった。代わりに違うことを聞く。
「いつもはどうやって衣装を用意しているのだ?」
「必要な材料は各自配られるから、それを使ってシャーリンにほぼ作ってもらってた」
「ほぼ……」
ほぼとはどういうことだろう。
セトの視線を受けて、シャーリンが口を開く。
「お兄ちゃんは型どおりに布を切ったよね」
「ああ、それくらいならできるからな!」
自信満々に答えるアルカにそれは幼児でもできるのでは? とセトは思ったが口にはしなかった。
ちなみに作るものは男ならチョッキ、女性はスカートだ。余裕がある児童はチョッキにスラックス、スカートではなくドレスっぽいワンピースを作る児童もいる。
「お兄ちゃん、今年はどうするの?」
「あー……無駄かもしれないけど今年もチョッキ作りに挑戦してみる……」
アルカがどこか遠いところを見るような目つきをしている。
「手伝おうか?」
「いや、お前まだ自分の衣装作り終わってないんだろう? まずそっち終わらせてからだ」
「わかった。終わったらそっちも手伝うね」
「ああ、頼む」
シャーリンの優しさに即座に甘えたくなる気持ちをグッと堪えつつ、アルカは前に配布された布地を引き出しから取り出した。自分の体に合う型紙もすでに配られているのでこれを布の裏地からなぞり、切り取って縫うだけ。
……なのだがそれはアルカにとっては難易度が高過ぎるもので。
「手伝おう」
「!?」
助け舟に振り向けば、いつの間にか近くまで来ていたセトが布地を触っていた。
「ふむ、意外としっかりとした布地だな」
「なんでも毎年施設長の知り合いの呉服屋から格安で卸して貰っているらしい……ってお前服作れるのか?」
セトは胸を張って答えた。
「いいや、初めてだ」
「おい」
「そう睨むな」
セトはアルカの机の上に置いてある用紙と布を交互に見た。
「型紙がそこにあって作り方も書いてあるのだろう? それに沿ってやればいい」
「……セトが言うと簡単に作れるように聞こえるからなんだかすごく腹立つ」
「文句あるのならまず雑巾を一人で作れるようになってから言え」
アルカの胸に何かがぐさっと刺さった……気がした。




