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カインの給料日、アルカとシャーリンは日付が変わった夜中にセトに起こされた。
「眠い……」
「寝るなアルカ。これからカインを説得しにいかねばならないんだろう? シャーリン、女子は時間かかるのだから早く着替えるのだ」
「はー……い……」
セトに急かされ、二人は睡魔を堪えつつ着替える。
準備が終わり次第、二人はセトの案内で施設職員の巡回を抜けて孤児院の外へ出た。
「なんだか探検と鬼ごっこをしているようでドキドキするね」
カインが毎回出入り口に使っていた大人が通るには体格を選ぶ小さい穴から敷地の外に出たシャーリンはどこか楽しんでいるようだった。
手足についた泥を払いながらアルカが妹に注意をする。
「お前な、遊びじゃないんだぞこれ」
「わかってるよ。カインお兄ちゃんを説得に行くのでしょう?」
「そうだ。アイツがやってることはいけないことだからな。ちゃんと止めないと」
『二人とも静かにしろ。外には治安維持のために巡回中の兵士がいるからな。見つかったら孤児院に連れ戻される』
『『ごめんなさい……』』
セトに注意され、兄妹は小声で謝った。セトを先頭にアルカとシャーリンは街中を静かに歩く。
ふと、途中でセトが立ち止まった。
まさかもう目的地か!?と思ってアルカが周囲を見渡しても工場らしき建物はない。静まり返った住宅が立ち並ぶだけである。
ある一点を見つめたまま立ち止まるセトにアルカは小声で声をかけた。
『どうしたんだよセト』
『…………。いや、なんでもない』
アルカの声かけに首を振ったセトは、再び目的地の工場に向かって動き出す。
アルカとシャーリンは揃って顔を見合わせた。
『へんなの』
工場についたのはそれから間もなくのことだった。
『ここだ』
セトは警備兵が見えないところ物陰で立ち止まった。セトが指し示したところを見て、シャーリンが小さく手を叩く。
『あ、ここ知ってるよ。孤児院にもパンを出してるところでしょう?』
『え、そうだっけ?』
『そうだよお兄ちゃん。朝食や昼食に出てくるパンはここのパンだよ。ここの従業員が直接孤児院まで配達にやって来てるよ』
となるとカインはその配達業者経由でバイトを受けたのだろうか。もしそうならカインの年齢を知ってて雇っている可能性がある。
アルカがにんまり笑った。
『叩けば埃が出そうだな』
『下手に叩くとカインまで巻き込まれるからやめておけアルカ』
『わかってるよ……っと、やっと来たな』
小声でそんな会話をしていると工場からカインが出てくるのが見えた。手には現金が入っていると思われる封筒が握られている。今日はどうやら一人で出てきたらしく、他に出てくる従業員はいないようだ。
カインの持つ封筒を見てアルカは呆れた。
『カインの奴、現金しまう鞄くらい持ってこいよな……』
『それでどうするのお兄ちゃん?』
『こんなところで怒鳴るわけにはいかないからなぁ。工場から少し離れたところで声かけるよ』
カインが警備兵に頭を下げて門から出た。真っ直ぐ孤児院に向かって歩いているところを追いかける二人と一匹。
しばらく歩いてカインが脇道にそれたところでシャーリンとセトを物陰に隠し、アルカが前に出て声をあげた。
「カイン!」
「!?」
振り向いたカインは正面に立っているアルカを見て驚き、やがて泣き笑いのような顔になった。
「つけられている気がしたが……お前かアルカ」
「……何か言うことはあるか?」
カインが笑う。
半ば自分を嘲るように。
「俺を施設職員に突き出すか? それとも金を渡せば黙ってくれるか?」
「…………」
「俺はどちらでも構わない。……覚悟はしていたからな」
カインから向けられる明らかな敵意にアルカはなんだか悲しくなってきた。
仲良くて親友だと思ってた友達からというのが余計アルカの心に刺さる。
アルカは重い空気を払うかのように深々とため息をついた。
「俺はどちらもしないさ。お前があそこのアルバイトをやめてくれればな」
「アルカ……」
「ナッシュが俺にお願いしたんだよ。カインが夜中に一人どこかに出かけているって。毎日疲れた顔でいつ倒れるかわからないから理由探って止めてくれって。俺はナッシュのお願いで動いているだけだ。お前をカモにするためじゃない」
どうやら予想外の回答だったらしい。カインが言葉に詰まっている。
「つーか俺、お前にそんな薄情な人間って思われてたのかな? ダチにそんなひどいことをする人間に見える?」
アルカの問いに、カインは小さく首を左右に振った。
「……いや、見えないな。お前はバカ正直だから隠し事は無理だ」
「……お前、いい奴だって認めた直後に人をバカにするのやめろ」
不機嫌なアルカにカインはだんだんと表情を崩し、しまいには小さく笑い出した。その顔からはさきほどまであった敵意は微塵もない。
「悪かった。悪かったついでにアルバイトもやめる。金はこれだけあれば十分だしな」
「……カイン」
一安心したら涙腺が緩んできてアルカは乱暴に目元を擦る。やはり友人は話せばわかってくれる。
「まさかお前がここまで追いかけてくるとはなぁ。見つからないよう慎重に行動してたはずなんだが」
「…………」
我が家の優秀な人形のおかげですとはさすがに言えないアルカであった。




