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 二十ニ時にはまだ起きている子が多かったが、職員の労力により二十三時近くには皆寝静まっていた。それはナッシュとカインがいる部屋でも同じこと。

 明日渡すのを忘れぬようにとカインの枕元に置かれたセトは、寝静まってから数分後にカインの布団が動き出すのに気づいた。


――出かけるのか。


 布団の中でゴソゴソ動いていたカインはしばらくすると布団から起き上がり、何かを持ってそっと部屋から出ていく。

 セトは発信機がちゃんと機能しているのを確認しながら、そっと扉を開けて部屋から出た。




 発信機を追うにどうやらカインは孤児院からも出て街中を歩いているようだった。孤児院の門はすでに鍵が掛けられているはずだが抜け道があったのか。セトは気づかれないよう近過ぎず、かといって離れ過ぎずに後をついていく。

 まだアルカたちには説明していないがセトは夜目も利くようになっているので、夜中の移動も苦ではない。ちなみに門はお得意の脚力で飛び越えた。


――一応巡回中の騎士もいるとはいえ、夜中は大通り以外真っ暗で不審者も出ると聞くが……。


 点呼をかけて二十ニ時にはきっかり門を閉めてしまう孤児院ではありえないが、比較的治安が良いワイデンブクルでも夜は不審者が多いらしい。最近では盗難が多発しているから外出時は貴重品の管理に気をつけろと施設内の掲示板に書かれていた。

 人に見つからないよう後を追いかけること数分、発信機はある地点で移動が非常にゆっくりになった。どうやら目的の場所に到達したらしい。セトは周囲に人がいないことを確認して発信機の近くまで行った。


――ここは……工場か?


 見上げるとそこは二階建ての小さな工場のようだった。魔石によって照らされた魔灯の光が外までこんこんと溢れている。どうやらこんな時間でも工場は稼働中らしい。門が開いていたのでセトはそのまま入った。入り口には警備兵がいたが余所見でもしているのか、それとも受付のカウンターよりも低い身長が幸いしたか、セトの侵入には気づかれなかった。

 建物内に進入するとあちこちで魔道具の動作中らしいカタカタとした小さな音が聞こえてくる。どうやら何かを作っている工場らしい。

 

――ぬ? 何かいい匂いがするな。


 中に入ってしばらくするとあたりから香ばしくておいしそうな匂いが漂ってくるのに気がついた。これは孤児院のリビングで児童たちが食事中に嗅いだことがある匂い……。


――これは……パンか?


 発信機のそばまでいくと関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉が目に入る。どうやら鍵がかかっているらしくこれ以上は中に入れないようだ。

 扉の上部がガラス製で向こうの部屋が覗けるようだったので、セトは飛び上がって覗いてみた。



――いた。


 カインは真っ白の服に手袋をつけてそこにいた。他数名とコンベアから流れてくる焼きたてのパンを見て、時々パンを手にとっては別のコンベアに流している。どうやら焼きたてパンの中に販売できないような不恰好なパンがないかチェックをしているらしい。


――なるほど。アルバイトか。


 カインが秘密にしていた理由に思い至って、セトは納得した。

 帝国では原則バイト可能な年齢を十六歳以上としている。つまり十六で出ていかなければならないあの孤児院にいる児童たちはバイトは不可能であり、禁止事項になっていた。見つかり次第厳重注意、最悪学校の登下校以外の外出もままならなくなるだろう。カインがアルバイトしているのを実の弟であるナッシュに隠すのも万が一見つかった場合にナッシュまで巻き添えをくらわないためなのか。

 まだ十四歳であるカインがアルバイトできているのも、十四歳とは思えない恵まれた体格持ちであり年齢のサバを読んでもばれないからかもしれない。

 だがなぜカインはそんな危ない橋を渡ってまで金が欲しいのだろうか?


――そろそろ出ておかないと見つかるか。


 発信機がちゃんと動いているのを再度確認し、セトはこっそり建物から出た。人に見つからぬよう入り口付近の物陰に待機する。カインがアルバイトを終えて出てくるまでそのまま待ち続けた。

 数時間後、すっかり日付も代わり静まり返った夜中にカインが出てきた。どうやら年配の男性と一緒らしい。


「カイン、今日もお疲れ様。これ今回の分な」

「いつもありがとうございます」

「いいって。お前が給与以上にしっかりやってくれるからこれはその礼なんだしな」


 そう言って男性が渡したものはビニールに入ったパン数個だった。売り物を複数個渡すとは思えないから、おそらく販売できないような不恰好のパンなのだろう。


「助かります」

「お前体格いいからな。いっぱい食わないとやっていけないんだろう?」

「ええ……」


 苦笑いするカインにセトはなんとなくカインがアルバイトをする理由に思い至った。

 カインは金がないのだ。あの恵まれた体を維持するためにはそれなりに食べなければならない。孤児院で出される食事量ではおかわりはできないからあの体を維持するのには足りないはずだ。たぶんお小遣いも食費に消えているのかもしれない。きっともらったパンも孤児院につくころにはなくなっているのだろう。胃袋へと。

 そして貯める余裕すらないなら貯まるように稼がなければならない。 


――最近になってアルバイトをし始めたのは……。


 男性と別れ、孤児院へと戻るカインの後をつけながら、セトは昼間のアルカとカインの会話を思い出していた。

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