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「でもセト、お前どうやってカインの後をつけるんだ?」


 アルカの疑問はもっともだ。セトは大きいとはいえ所詮人形での基準だ。人間でいえば幼児並の身長でしかない。


「その体じゃカインどころかシャーリンの後を追いかけるのすら大変だろうに」


 アルカが疑問に思うのも無理はない。

 だがセトは問いには答えず、懐からあるものを取り出した。

 

「なんだこれ?」


 セトから差し出されたものをアルカは持ち上げてじっくり観察する。

 それは赤ん坊の掌サイズほどの、丸くて平たいものだった。淵に何か文字か記号らしきものが並び、真ん中に何か小指ほどの大きさの石が埋め込まれている。

 埋め込まれているものをじっくり見て、アルカは瞳を見開いた。


「これ……魔石じゃねーか!」


 咄嗟にシャーリンもアルカの手元を覗き込む。


「しかも透明度と輝きが凄い……これ純度が高い魔石かも」


 声には驚きと感嘆とが混ざっていた。


 魔石はその昔、魔獣が住まう混沌とした地から大量に発掘された石だ。土地が荒れ、大気が淀むそんな不毛な地ほどなぜか発掘しやすい石。純度が高いほど高い魔の力が封じ込められているといわれ、その魔の力はあらゆる動力として開発、利用されたことから一時は命知らずの猛者たちが一攫千金を夢見て混沌の地にて発掘に勤しんだ。

 現在魔石は日用品から医療、工業、果ては魔獣狩りや戦争用の兵器まで幅広く使われている。だが近年は魔石を発掘できる場所が少なくなったため各国が発掘可能な土地を管理、不用意に発掘されないよう取り締まるようになった。そのため価格が年々高騰しており、供給不足を補おうと純度の低い魔石が流通するようになった。

 純度の低い魔石は力が足りないため最悪動作不良に繋がる。そのため医療や軍事などに純度が高い石が多く集められ、一般には純度が高い魔石はほとんど流通しなくなってしまった。

 アルカはともかく、シャーリンは本からの知識で知っている程度で実際に純度が高い魔石を見るのはこれが始めてだった。

 

「それは探索用の魔道具で発信機のような機能がある。それを対象に貼り付けることで遠くに離れていても対象物が今どこにあるのかがわかる」

「発信機って……それを受信する魔道具はどうするんだよ?」

「それはここにある」


 そう言ってセトがトントンと指し示したのは自分の頭だった。つまり人形の頭の中ということだ。


「なんで人形にそんな機能が……」


 アルカの頬はヒクヒク痙攣している。


「あの店の男が言っていただろう、この人形はプロトタイプであると。これでも中身は機密事項の塊なのでな、下手に盗まれて分解されては困るらしい。だからこの人形には――」


 セトがそういい終わらないうちにバックジャンプでアルカとシャーリンから距離をとった。助走もなしに二人から一メートル以上も離れる。


「そして」


 セトが両手を振れば空気を切り裂く音とともに両手にの指先についていた爪が勢いよく伸びる。

 爪はセトの腕と同じくらい伸びていた。光に反射された爪はなんでも簡単に切れそうなくらい鋭く尖っている。


「自衛の手段も備わっている」

「…………」


 得意げに話すセトに、アルカとシャーリンは開いた口が塞がらなかった。

 会話ができ、ひとりでに動く人形というだけでも異常なのにまさかこんな秘密まであるとは。


「……とりあえずセトが一人で行動しても問題なさそうなのはわかった」

「わかればいい」


 感嘆と呆れが半々のアルカの言葉にセトは頷く。


「今度動きやすくて爪が伸びても問題ない衣装考えておくね」

「頼む」


 シャーリンのやる気ある言葉にもセトは頷く。衣服大事。

 セトが再度両手を振ると爪は元の長さまで瞬時に縮んだ。


「夜出かけるカインとやらの衣服に発信機を貼り付け、その後を追う。発信機に気づかれなければどこに通っているのか場所も判明するだろう」

「そりゃまぁこんなのあればなぁ……」


 小さくて平たい円盤を弄りながら、アルカは呆れるしかない。この調子だとセトにはまだ何か機能がありそうだ。

 もうセトが人形とは思えなくなっているアルカだった。どこぞの国の兵器といわれたほうがまだ納得ができる。一庶民の自分には手に余り過ぎる存在だ。妹のものだけど。

 円盤をセトに返すと、アルカはベッドに腰掛けた。


「で? 今日からやるのか?」


 セトは頷く。


「早いに越したことはないだろう。今日早速追いかける」

「わかった。何かあったら後で教えてくれよ」

「当然だ。そのために私が行くのだからな」


 セトは発信機を懐に仕舞った。



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