プロメテウス ~背中合わせの二人 上~
昔の詩人はこう言ったとトールに教えてもらった。「世の中がおかしくなったのでは無い、あなたが昔より不幸になったのだ」と。だが常に死にそうな思いをきて生きる私達からしてみるとそんな言葉は何も意味がないと思う。
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「やっと着いたわね。意外と長かった~」
隣でフィリアが伸びをしているのを目で追いながら私も椅子に座る。あの洞穴での本音のぶつけ合いから私達はこの辺りでも中々大きいプロメテウスという町にやってきた。ここは近くに巨大な迷宮があり大量の冒険者や聖職者、商人が入り乱れる誰もが知っている町だ。別名『迷宮都市』。私達はそこの小さな宿を借りて一息入れていた。
「これからトールはどうするの?」
「私は酒場で仕事を受けてから迷宮で冒険者を襲う。まぁあんたが止めろと言ったら仕事だけにするが」
どうやらフィリアは私の呼び方をトールにしたらしい。昔キノにもそう呼ばれていたな…。
「私は冒険組合にいって仕事。その後は鍛冶屋で一回武器修理に出さないと。もうそろそろ刃こぼれしちゃう」
そう言ってフィリア背中に背負っていたハルバードを壁に立て掛ける。よく見ると刃の近くには古代の文字が掘られてるいる。良い職人が作ったのだろう。
「それは誰が作ったの?とても名声の高い鍛冶職人が作ったみたいだけど」
「?このハルバード?」
フィリアは立て掛けたハルバードを手に取る。以外と大柄なフィリアが持つとしっくりとくる。
「これは昔、傭兵団の専属の鍛冶職人が私のために作ってくれたのよ。名前は純白の桜花。以外とダサいよね、この名前」
「…何というかその鍛冶職人には名前のセンスがないのが分かった」
「そうよね。でも性能は意外といいのよ。魔術刻印されてるのよ、これ」
魔術刻印。武器などに古代文字による魔術効果を呼び出す刻印を施すと使う際炎や雷を振りまくことができ、大きな町の近衛兵士などや力を持った冒険者が好んで使う。ちなみに値段は1本で家が3軒ほど建つ。
「普通に私も欲しいんだけど。私のこの剣どっかの町で買った量産品よ」
「あら、稼ぎが少ないのね」
「その首落とすわよ」
そんな言い合いを宿の安部屋でする。本当に昔に戻ったようだ。キノともこんな言い合いをしてよく笑った。
「それじゃ私は行くわ。夜は食事でも行く?奢るわよ」
「了解。それじゃ宿集合で」
そこまで聞くと私は扉を開け仕事探しに出かけた。
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「さて、組合まで行きますか」
トールが出て行った後私も部屋を後にした。先ほど話していてだんだんトールも私のことを信用してきてるいることが何となく分かった。なんだかとても嬉しい。
「おやっ?お出かけですか」
宿の主人がそう話しかけてくる。私はポケットに入れておいた銅貨を主人に投げる。
「夜までには戻るわ。それまでよろしく」
「かしこまりました。行ってらっしゃい」
主人のおじぎを横目で見ながら外に出る。外はたくさんのひとが個人の用事のために歩いている。それを避けながら私は冒険組合に向かった。冒険組合。冒険者が増えてから出来た大きな組合の一つだ。貴族や商人はここに魔物の討伐や角や皮の採取など頼み、冒険者がそれを受け報酬を受け取る。その報酬の何割かをもらい生計を立てるいわば仲介人たちの集まる場所だ。
「ここか。以外とでかいわね」
ここプロメテウスの組合所はとても大きかった。それこそこれは貴族の屋敷だ等と言われたら信じてしまいそうなくらい美しい装飾と門構えだった。扉を押し中に入ると中も美しかったが冒険者達が所狭しといるせいで乱雑な酒場みたいになっていた。私は冒険者を避けカウンターへと向かう。
「冒険者フィリア。討伐系の仕事を探しているのだけど」
私は首にかけた冒険者を表す皮のペンダントを見せる。これには悪魔の角と聖剣が描かれているを
「かしこまりました。現在ゴブリン討伐、デスワーム討伐、リトルデーモン討伐が比較的多いですがどうしますか?」
「デスワームを受けることにします。報酬は?」
「金貨3枚。デスワームの牙を追加で金貨3枚です」
「ありがとうございます。それでお願いします」
「助かります。こればっかりはいつもなくなることがなくて」
デスワームとはとてもでかいムカデのことだ。大きいのでは人を丸呑みにするほど。その牙から作られる武器は安物の金属武器や合金武器を上回る。しかし常に討伐依頼が絶えないのにはデスワームの繫殖力のためだ。デスワームは一回の出産で卵を100も200も迷宮の壁に産み付ける。そして、そこ一帯はデスワームの巣となり冒険者を襲う。
「まぁそんなことどうでもいいんだけどね。冒険者が襲われようとも私には関係ない」
そう呟き町中をぶらつく。その背中に背負っていたハルバードは冒険者組合の鍛冶屋に預けたため背中がすこし寂しい。トールと約束した夜まではまだまだ時間がある。少しは何も考えずに歩くのもいいだろう。
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「…ヒマだな。まさか誰もいないなんて」
仕事を求め向かった酒場はほとんど人がいなかった。寂しげな店内では酒場の店主が料理の下ごしらえをしておりその周りに3人ほどの男が集まって何かをしているだ。
「失礼、店主果実酒をもらえるか」
私はそう言い店主に銀貨を少し多く渡す。店主はうなずくと木のジョッキを差し出してきた。
「何だか静かだな。何かあったのか」
「おや、最近この町に来たのかい?最近この辺りで上位の悪魔が見つかったんだよ。おかげで客は賞金狙いで迷宮に潜ってしまうから商売あがったりだよ」
「ほう…。悪魔か。何のだ?」
「どうやら冒険者組合が言うに上位の中でも上に君臨する山羊頭の悪魔らしく…。私もいま友人たちと町を出ようか話し合っていたところなんだよ」
山羊頭の悪魔。全ての魔物の最上位の位置に君臨する悪魔の中でも優れた魔術に秀でた悪魔だ。この悪魔に出会った冒険者は生きて帰らないと言い、全ての国が特に警戒している死を呼び込む悪魔だ。
「この様子じゃ仕事はないな…。店主、何か酒に合うものを作ってくれ」
「はい、かしこまりました」
この様子じゃ当分仕事は入らないだろう。今心配することは当分の金の事とフィリアにどう言い金を借りる事だ。珍しく私はそんなことを考えながらしばらく考えに耽った。
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しばらくぶらぶらと町を歩いていたがあまりにも暇だったのでトールと約束した酒場に向かうことにした。何だか冒険者組合から離れるにつれて人が減っているような気がする。そんなことを思い酒場のドアを開ける。
「うん?フィリアか。どうしたんだ?」
中では少しの客が店主と話し込んでいてトールは1人食事をしていた。
「暇だったから先に食べさせてもらったぞ。お前もなんか頼めよ」
近くに人もいるのでトールは男性になり切っている。何だか自分だけ本性を知っていると考えると中々面白い。
「店主、私には蒸留酒。後この人が食べているものを私にも」
とりあえず頼むものだけ頼むとトールの前に座る。トールは目線をこちらに向けながら食事に没頭している。
「そういえばトールは仕事見つかったの?」
「この状況を見て分からないか?仕事はないんだよ。だから宿泊費は出してくれ」
「トールが宿泊費半分ずつ払おうって言い出したんでしょ。トールもしっかり払ってね」
「むぅ…。分かった。明日は俺も冒険者組合行って仕事探すか…」
なんか凄いテンションが落ちてしまったがまあいいだろう。どうやらトールもしっかりと働くらしいし。
「てか何飲んでんの?葡萄酒?」
「…果実酒」
「何そんなうっすいお酒飲んでんのよ。そんなの飲むなら蒸留酒でも飲みなさいよ、店主この人にも蒸留酒一つ」
「かしこまりました」
「………」
何故かトールが少し嫌そうな顔をしたのは気のせいだろう。そうだと思いたい。
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結果として言えばトールは酒にとても弱かった。あの後私たちは食事を楽しんだが、トールは蒸留酒一杯で酔ってしまったらしくそのまま寝てしまった。仕方がないので宿に帰る際、私が背負って帰ることになった。
「……まさかこんなにも弱いなんて。言って欲しかったわ」
「………」
「あら。起きた?起きたなら降りてほしいんだけど」
背中でトールが身をよじる。とりあえず降りる様に言うが降りてくれる気配がない。仕方がない。
「おや、お帰りで」
「ええ、連れが酔ってしまって。一様桶と水をもらえますか?」
「ええ、構いませんよ」
そう答えた宿の主人についでに駄賃を払う。そのまま自分たちの止まっている部屋まで上がる。
「ほらトール。起きて。着いたわよ」
「……キノ?」
「何寝ぼけてんのよ。私はフィリアよ。キノじゃないわ」
「何言ってるの…。キノは意地悪なんだから」
そう言ってトールは寝かそうとしていた私をベッドへと引きずる。当然ながら前屈みになっていた私はトールの寝ているベッドの方へ引っ張られる。
「ちょっと、トール!?」
「えへへ~」
そのままトールは私を抱きしめると唇を奪った。
「!!?!」
「愛してるよ…。キノ…」
「ちょ、ちょっとトール!?」
「………」
「寝てるし…」
トールの顔を見ると幸せそうな顔で寝ていた。それを見ていたら彼女は本当に彼を愛していたことが分かる。私はキスなんて初めてだったのでドキドキしながらしばらくトールの顔を見ていた。
「………寝よ」
………………その日は一睡も出来なかった。
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朝起きたらとても頭が痛かった。どうやら酒場でフィリアに飲まされた酒が効いたようだ。後で誤っておかなくては…。
「…おはよう。昨日はすまなかったわね」
「………」
何だかフィリアの機嫌が悪い。よく見ると目元にうっすらと隈がある。どうやら寝てないらしい。
「…もしかして私何かしたか?」
「…」
ゆっくりと首を縦に振るフィリア。結構怒っているらしく先ほどから一言も発さない。
「…悪かった。後でなんか奢ろう」
「…その言葉おぼときなさい。高い店で散財してやるからね」
「……分かった」
その後はどうやら許してもらったらしく二人で冒険者組合へ行き仕事を受注して迷宮前に着いた。
「さぁ、行くわよ。足引っ張るじゃないわよ、トール」
ハルバードを片手で持ったフィリアがニヤリと笑いながら言う。それに私は腰から剣を引き抜くことで答える。
「行こう、冒険へ」
そして私たちは二人で一段ずつ迷宮へと続く階段を下っていった。
出佐由乃さん、感想ありがとうございます!!ご指摘どうり今回は各行を一段下げてみました。これでよいい場合は他の作品も同じように一段下げることにします。コメントなどで返答などしていただけると幸いです。
いつも不定期更新ですが今後ともよろしくお願いいたします。これからも読んで頂いた方に楽しんでもらえる作品を作れるように頑張っていくので応援よろしくお願いします!!