プロメテウス ~とある復讐者との出会い~
昔の小説家はこう言った。「慢心は人を殺す」と。これに関しては俺も同意見だ。古今東西、魔物がこの世に溢れる前からも滅んだ国の敗因は全て慢心だ。そして俺も慢心により全てを失ったのであったのであった。
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「…ついてないな」
俺は次の町プロメテウスを目指し荒野を進みすぐ目の前に蔓延る森林を抜けようとしていた。しかし、ここ最近ついてないのか豪雨にあっていた。
「ここでいいか…」
すぐさま近くの洞窟へと走る。中は短く洞窟というよりは洞穴のようなものだった。
「なかなかいいな…。昔を思い出す」
中はここ最近まで使われていたようで、焚き火の後や薪が放置されていた。昔暮らしていた洞窟を思い出した。
「サラマンダーよ 着火せよ」
覚えている魔術、『火球』を唱える。ちなみにアトラスで使った魔術は魔導書を使っていたため今は使えない。やっぱり全部置いてこなければ良かった…。
燃え盛る火を眺めながらそんなことを考えていると少し眠くなってきた。最近歩き続けていたからだろう。
「寝るか…」
久しぶりの安息。俺はゆっくりと目を閉じた。
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豪雨の降るなか私、フィリアは雨をしのげる場所を探していた。
「何で雨なんか降って来るかな。タイミングが悪すぎるわよ、全く…」
少し走り続ければ洞窟があると先ほどすれ違った旅人に教わったのでそこを目指して走る。背中に背負った盾がカタカタと音を立て、汗で手に握ったハルバードを落としそうになる。
「あそこか。先客がいるみたいだけど」
少ししたら見えてきた洞窟には明かりがともっていた。それでも構わず中に入る。そこでは一人の人が焚き火にあたり居眠りをしていた。
「ハイハイ、ちょっとすいませんね~」
私は人の傍にゆっくりと座ると焚き火に当たる。冷え切った体に焚き火の火が沁みる。しばらくここにいよう。
そんなことを考えてゆったりとしていると隣の人が起きたらしい。
「ッ!!」
「あっ、すいません。火借りてました」
などと言った私はまた火に顔を戻す。すると旅人のような格好をした隣の人が腰に手を当てていた。私も何かの時のためにゆっくりと背中に盾に手を伸ばす。
「…何者だ」
「私ですか?フィリアっていうんですよ」
「そうか…」
すると旅人のような人が剣を素早く抜くのを感じながら半ば感で盾を構える。鋭い音と共に剣が私の盾にぶつかる。痺れる腕をかばいながら私は剣をはじく。
「まぁ雨が止むまでいさせてくださいよ。いいじゃないですか」
「…その盾、見たことがあるな」
「?!」
「アミトラ教に滅ぼされた傭兵団の紋章…。久しぶりに見た。生き残りがいたなんてな」
アミトラ教。私が憎み復讐をするために追うこの世界で一番大きく生き残る宗教の一つだ。私の仲間のいた傭兵団、『神々の盃』はアミトラ教により異教徒の傭兵団として葬られた。私を除いて。
「…そうだったらどうするっての。アミトラ教に差し出すっての?」
「…いや。俺も追われている身でな。同じ身の者の方が都合がいい」
そう旅人のような人はカバンから小さな鍋を取り出した。洞穴の外に鍋を向け水を汲む。
「お詫びに何か御馳走しよう。何、同じ身だしな」
カバンから干し肉を取り出し鍋に入れながら旅人は呟く。更に何かの木の実や粉末を少しずつ入れていく。
私はそれをボーっと見ていたがふと気になることがあり聞いてみる事にした。
「ねぇ、あなたって女よね」
「なっ何を言っているんだ!!私は男よ!あっ…」
「やっぱり。動作の一つ一つがどこか女らしいのよ。そのままだとばれるわよ」
「…そうなの?」
何か悪いことをした気がする。旅人の背中も少し曲がっている。
「…できたわよ。食べなさい」
もう吹っ切れたのか口調を変え旅人は木の器を差し出してくる。中には干し肉がふんだんに入っておりなかなか美味しそうだ。
「ありがとう。でも何で性別なんて偽っていたの?」
「…私は教会に顔が割れていてね。こうして顔を隠して男装でもすれば意外とばれる事はなかったのよ」
と彼女は口元を覆っていた布をずらした。そのままズズっとスープを飲む。ていうか今度教会に目を付けられたら私も男装しよう。
「どんなことしたら教会に顔を覚えられるのよ。私でさえ顔を覚えられてないのに」
「…こういうことだよ」
と彼女はかぶっていた帽子を脱ぐ。そこには横に長く伸びた耳と乱雑に切られた美しい金髪が広がってた。
「…精霊種。生き残りがいたなんて」
精霊種。主に神の使いとされ森や泉、火の中に見出され人間の姿で一生を生きる唯一と言ってもいい友好的な魔物とされている。しかし、教会では神は太陽神アミトラのみとされていて精霊種は異端の象徴とされている。
「まぁ私はその中でも魔族だからな。あいつらからしてみたら魔物に魂を売った女と言うわけだ」
しかし、この魔物が見られなくなったのには訳がある。それは精霊種から取れるとされる『精霊の涙』のせいだと言われている。『精霊の涙』とはどのような傷も癒し、健康体の者が飲めば永遠の命を授かるとされていて数年前に乱獲された。町に住んでいた精霊種は無慈悲にも殺され、各地の秘境に逃げのびた精霊種も他の魔物によって死んでいったとされている。私の目の前にいるこの魔族の彼女を除いて。
「…あなたはなぜ旅をする。その盾のせいで協会の庇護下の町には入れないでしょう」
完全に女として振る舞い始めた彼女が聞いてくる。
「私は復讐者よ。協会の中に私たちの傭兵団の異端を決めたものを殺すまで私の旅は終わらないのよ」
「…そう」
しばらく二人で無言になりスープを飲む。雨の音と焚き火の音のみが洞穴の中に響く。
「…あなたはどうなの?あなたこそどこかの森の中でひっそりと暮らせばいいのに」
「私も復讐者なのよ」
と彼女は懐からひとつの絵を取り出した。というよりこれは魔術で撮った小ささの絵の中にはほほえましそうな夫婦が写っていた。
「これは…昔のあなたかしら?」
「…そうよ。隣にいるのは私の夫だったキノ」
全然似ていなかった。今私の目も前にいる女とは似ても似つかない笑みを浮かべる女と見ていてほほえましく思えるほどの笑顔をしている男の精霊種が彼女の言ったキノだろう。
「私達の住んでいた集落には15人の精霊がひっそりと暮らしていたわ。そこを教会が襲撃したのよ。キノは私をかばい最後まで戦って死んで集落からは私の他に後2人逃げ延びたのよ」
「だから教会に復讐を?」
「いや、それもそうだが私が目指しているのは救世主の聖杯よ」
「それは!!」
救世主の聖杯。他者の命を捧げその血を聖杯に注ぎ望む者を生き返らせると言われる協会の聖遺物の一つだ。
「そう考えると私達の目指す場所は同じということね。面白い」
と彼女はクスリと笑った。その姿だけ見ると本当に精霊種の血を引いているのが分かった。と同時にこの精霊の旅人と共に復讐を果たしたいとも思った。
「…もしよければ」
「一緒に旅をしよう。とでもいうつもり?私は構わないけど」
何故か彼女に先を越されたが意図は伝わっていたらしい。それなら構わないが。
「でも少しでも裏切る素振りでもしてみなさい。その首を奪い教会に差し出すから」
全然信用されてなかったけど共に旅をしてくれるらしい。気がついたら雨も上がっていた。私はそっと彼女に手を差し出した。彼女も帽子と布を付け男装をして私を見ていた。
「俺の名はトール。共に戦えることを光栄に思う。『神々の盃』の生き残りよ」
「それはこっちのセリフよトール。精霊と戦えることは私の一番の誇りよ」
二人でしっかりと手を取る。それが私達の始まりだった。
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そんなことで私の旅に一人の仲間が増えた。まぁ二人も悪くない。そうも思えた。
「…キノもそう思ってるよね」
そう私はいつもの様に呟いた。もうすぐ町に着く。次はどのような仕事が待っているのだろう…。