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#003 Looks Like Mad Dog Part.3

 階段を昇って行く。どうやら、二人が閉じ込められていた牢獄は地下にあったらしい。階段昇った先は、小さな机と、外へと続く扉があるだけだった。既に逃げ出した賞金稼ぎ達が『腹いせ』に動いたのか、夜だと言うのに外はやけに明るかった。どうやら、村のあちこちに火を点けてまわっているらしい。


「熱い!」「すぐに消せ‼」


などと、村人の悲鳴が聞こえてくる。これはチャンスかも知れない。扉を開けると、フロイドは周囲を見渡した。殆どの家が炎を上げている。逃げ惑う人々は、その殆どが酷い火傷を負っていた。何処かにあるはずだ。この村の周辺を見渡せる、高い塔が。


「あれだ、フロイド!」


リプリーが、村の中心を指差した。高い塔。恐らく観光目的の展望台ではなく、この周りを彷徨く連中を見張る為のものだろう。見張りは既に始末された後なのか、塔の下で、警備員が一人倒れていた。その頭の下に、赤黒い水溜まりが出来ている。あれではもう助からないだろう。


「まずいな。火が回っちまいそうだ」


これは、『必ずしもやらなければならない』事ではない。今すぐに来た道を戻って、エドワード・フィルムを捕まえてしまえばそれで終わりの話だ。しかし、知りたかった。エドワード・フィルムの身に、何が起こったのか、を。


 口を押さえながら見張り台を昇り、周囲を見渡す。村のなかではない。もっと遠く。砂漠の中だ。普段は暗闇で見えなくても、今はこの村自体が大きな松明になっているのだ。目を凝らす。もっと遠く。煙が目に染みる。だから何なんだ。見張り台が傾く。下で待っているリプリーが、フロイドの名前を叫んだ。あった。あれだ。あれこそが、フロイドの見たかったものだ。梯子に手を掛けて、下へと急ぐ。地面に脚を着けると同時に、見張り台は音を立てて崩れ落ちた。


「無事かい!? フロイド!」


「夢じゃ無いよな。脳みそは漏れてねぇ。……リプリー。俺の推理を聞いたところで、エドワード・フィルムがどうなる訳でもない。とっとと追い掛けた方が良い。それでも聞きたいか?」


煙草に火を点けて、リプリーに尋ねる。


「話してくれよ。ただし、トラックの中でね。ボクだって、ここで焼き犬になるのはゴメンさ」


リプリーが、村の入り口の門を指差した。そこには、二人の愛車がぽつりと停まっていた。


 「リプリー。米中戦争の開戦理由を知っているか?」


アクセルを踏み続けながら、フロイドはリプリーに尋ねた。リプリーはどこで見つけたのか愛煙の煙草を吸いながら、小さく頷いて見せる。軽トラックの遥か後ろでは、燃え盛るエスペンの村が、一つの大きな炎の塊となっていた。


「中国がアメリカに核を撃ち込んだんだろう? 場所は確か……ああ、そう言う事か」


中国が核を撃ち込んだ場所は、コロラド砂漠。メキシコとアメリカを繋ぐ、まさにここの事だ。しかし、仮にその事件こそが一つの『演技』だとすればどうだろうか。アメリカ自身がコロラド砂漠に『何か』を落とし、それを理由に中国へ進攻したのなら。ーーフロイドが見張り台の上で見たのは、巨大な施設だ。恐らく、エドワード・フィルムを変えてしまったのはメキシカン・マフィアではない。米軍だ。米軍はエドワード・フィルムを殺戮兵器へと改造して、逃げ出したそれを始末するために、エドワード・フィルムの首に賞金をかけたのだ。


「……その話が本当だとして、キミはどうするつもりなんだい?」


「言っただろう? この推理に意味なんて無いんだよ。俺達は予定通りにエドワード・フィルムを捕まえて、賞金を手に入れる。少なくとも、米軍の秘密を探るのは俺達の仕事じゃねぇ」


『エスペンの吸血鬼』が被害者だろうが加害者だろうが、それは賞金稼ぎの仕事とは何の関係も無いのだ。自分達は、正義の味方ではない。良くも悪くも、ただの賞金稼ぎなのだ。


 昼間に寄ったガソリンスタンドの隣を通り過ぎる。既にエスペンの様子を見て恐怖を抱いたのか、スタンドの中はもぬけの殻だ。軽トラックを加速させる。景色が、蜃気楼の様に歪み、通り過ぎて行く。その通り行く景色の中に、一台のバイクが横たわっていた。フロイドは何も言わずに、軽トラックを停車させた。砂漠の中の、小さな黄土色の草むら。その中から、にょきりと脚が飛び出していた。


「遅かったか……」


エドワード・フィルムは、死んでいた。こめかみに、小さな穴を開けて。


「自殺かい?」


リプリーが、煙草に火を点けながら尋ねて来た。倒れているエドワード・フィルムの周囲。そこには、大きな足跡があった。それは、エドワード・フィルム自身のものかもしれない。もしくは、彼を消した『何者か』の足跡。フロイドは上着を漁ると、煙草を一本取り出した。火を点けて、煙を思いっきり吸い込む。


「……さてね」


煙は次第に細くなり、夜の闇の中を、ゆらりと昇っていった。

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